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【新連載/国本雄資のフカボリSF】見えてきたMUGENのキャラと、フラガの戦略の功罪。“一斉ピット問題”への提言

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【新連載/国本雄資のフカボリSF】見えてきたMUGENのキャラと、フラガの戦略の功罪。“一斉ピット問題”への提言

 4月19~20日、モビリティリゾートもてぎで第3・4戦が行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権。土曜日の第3戦では牧野任祐が、そして日曜日の第4戦では太田格之進がそれぞれ勝利し、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGが連勝記録を伸ばすこととなりました。

 今後のシリーズ展開を読む上でもキーとなったこの大会、事情通の目にはどう映ったのでしょうか。今回よりオートスポーツwebでは、2016年王者であり、昨年限りでスーパーフォーミュラから退いた国本雄資選手に分析を依頼。この新連載では、元王者が独自の視点でもてぎ大会の注目点と疑問点を掘り下げます。

「1000パーセント悪い」「メカニックの課題なのか」「富士なら勝てる」【SF Mix Voices 第4戦(1)】


■ピーキーさがなくなったダンディライアン

 2レースを振り返ってまずは感じたのは、ダンディライアンがすごく強い週末だったということですね。また、一発の速さは発揮できませんでしたが、坪井翔選手(VANTELIN TEAM TOM’S)のレースペースも印象に残りました。決勝ペースでは、ダンディライアンの2台と戦えるレベルにあったのではないでしょうか。

 ダンディライアンのクルマについては、全体的にすごくバランスが取れていると思います。

 以前、リザルトに浮き沈みがあった頃は、『ターンインはシャープだけど、コンディションが合わないとシャープすぎてしまい、ピーキーな動きをしていた』と感じたのですが、いまはフロントを軸にスパっと入りつつも、リヤの安定感もある。牧野選手のクルマはとくにそのピーキーさが改善されているように思いますし、速さを残しながら同時にドライバビリティも良くなっているようなイメージがしました。

 対して、TEAM MUGENのクルマは、3月の開幕ラウンド・鈴鹿ではある程度戦えていたと思うのですが、もてぎではあまり良さそうに見えませんでした。なぜなのか、僕なりに分析してみたいと思います。

 鈴鹿で感じたのは、MUGENのクルマはタイヤのウォームアップがすごく早いな、ということ。今回の第4戦でも、岩佐(歩夢)選手のウォームアップが結構早かった印象です。寒い鈴鹿の予選で彼らは、ゆっくりとウォームアップしているのに周囲よりしっかりと温めることができ、一発のタイムが出ているように見えましたが、もてぎはコンディションが暑くなったので、そこまでウォームアップさせてしまうとタイヤに対してエネルギーが強すぎてしまい、結果的に一発が出なかったのでは、と感じました。

 あと、MUGENはクルマ(の足回り)が硬いのかなという印象もあります。その分、タイヤに熱も入りやすく、高速コーナーでは車両姿勢も大きく変わらずエアロも取れるので鈴鹿は良かったと思うのですが、もてぎのような低負荷のサーキットに行くと、その硬さをうまくグリップにつなげられなかったのでは……と。つまり、MUGENは『高速コーナー寄りのクルマ』なのではないかと感じました。あくまでも僕の推測ではありますが。

「それなら、クルマを柔らかくすればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、そうするとどこか合わなくなってしまうというか、速さがなくなってしまうものなのです。メカニカルのグリップとエアロのバランスをどう取るかは非常に難しいところなのですが、その部分でMUGENは少し合わせきれなかったのかな、という印象のもてぎ戦でした。


■山下健太“スーパーラップ”の背景

 また、すべてのチームに関わる部分で言えば、今回は土曜日の暑いコンディションから、日曜日は気温・路面温度が比較的大きく下がりましたが、第4戦ではその部分での難しさもあったと思います。涼しくなれば空気密度が上がってダウンフォースが出る方向になり、例えば車高の部分でも読み間違えるとフロアを路面に打ち付けてしまい、ストレートスピードが伸びなかったりもしますし、中高速コーナーでは底打ちによってエアロが乱れてしまう場合もある。今回のように1日で10度くらい路面温度が下がったときにどうアジャストするかは、いまのSFでは相当シビアな領域にあると思います。

 そういった意味でも、第4戦でぶっちぎりのポールポジションを獲得した山下健太選手(KONDO RACING)は凄かったです。本当に驚きましたね。今回は2輪との併催で路面のラバーなども難しかったと思うのですが、山下選手はクルマのバランスもさることながら、「タイヤをしっかりと使い切った」ことで、あのラップが刻めたのではないかと感じました。今季加入した大駅俊臣エンジニアとのコンビも、個人的には相性が良いのではないかと思っています。


■フラガが作ったチームメイト対決という“見せ場”

 決勝での戦略の部分に話を移すと、少々不可解に映ったのは、第3戦でのイゴール・オオムラ・フラガ選手(PONOS NAKAJIMA RACING)のピットタイミングですね。

 前半のペース的に見て、首位の牧野選手には追いつけそうになかったので、あそこは2位を守る戦略を採らなければいけなかったのではないでしょうか。ですので、3番手の太田選手がピットインしたら(10周目)、すぐにそれをカバーするのが基本かと思っていたのですが、次の周にもフラガ選手は入らなかった。それもあって後半は逆転されてしまったのですが、逆にあのタイミング(17周目)までフラガ選手が引っ張ったことで、レースが面白くなった部分もありました。

 つまり、セオリーでは3番手の太田選手が10周目に入ったら、2番手フラガ選手が11周目、トップ牧野選手も11周目か12周目には入りたいところです。ただ、そうならなかったこともあって牧野選手がいったんポジションを落とし、タイヤが温まると太田選手をパスしましたよね? チームメイト対決という「見せ場」ができて、レースとしては面白くなったのではないかと思います。

(※編註:第3戦後、PONOS NAKAJIMA RACINGの伊沢拓也監督は「自分の判断ミス」とフラガの戦略決定について振り返っている)

 一方の坪井選手は後方スタートでしたが、ペースはあったし、クリーンエアを得られる状況だったので、20周目までピットを引っ張るのは正解だったと思います。ピット後にフレッシュタイヤの利を活かしてポジションを上げられるだけの周回数も残っていましたし、ペースと戦略がうまく噛み合っての上位進出でした。


■SC導入時の不平等解消に向けて

 あとはやっぱり、第4戦で1周目に導入されたセーフティカーの件には触れておきたいですね。

 僕は以前から常々言っているのですが、ああいう場面ではピットをクローズにしてもいいんじゃないかと思います。序盤のSC中に一斉にピットに入れるシチュエーションになると、どうしても2台チームは前を走るクルマが優先されるので、後ろを走るクルマは上位で戦う権利を失うことになってしまいます。加えて、あの過密状態でのピット作業は、単純に危険だとも思います。

 ですので、スタート直後のSCに限っては、それが解除されるまでなのか、リスタート後1周経過するまでなのか、いずれにせよ一定期間はピットインできなくした方が平等になるので良いのではないかと僕は思っています。

 さて、次戦はオートポリスですね。今回のもてぎ戦ではいままでと違うクルマが速かったり、決勝で上がってきたりという部分が見えました。たとえばdocomo business ROOKIEだったり、SANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGINGだったり。

 オートポリスは非常に独特なサーキットなので、これまでも強かったチームはいいデータをたくさん持っていると思いますし、やはりダンディライアンが軸にはなるとは思うのですが、もてぎで速さを見せたチームも好調を維持してほしいな、と個人的には思っています。


●くにもと ゆうじ

1990年生まれ、神奈川県出身。2007年、フォーミュラ・チャレンジ・ジャパンで4輪レースにデビューし、2年目にタイトルを獲得。2010年には全日本F3選手権王者となる。翌年からフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)にステップアップすると、2016年にはドライバーズタイトルを得た。2017年はトヨタGAZOO Racingよりル・マン24時間レースを含むWEC世界耐久選手権にスポット参戦した。スーパーGTでは2012年から現在まで、GT500クラスのトヨタ/レクサス陣営で活躍。一方、スーパーフォーミュラは2024年限りで現役を引退した。カメラの腕前はプロ級で、例年WEC富士戦の際はTGRオフィシャルフォトグラファーとしてコースサイドから写真撮影に勤しんでいる。

[オートスポーツweb 2025年04月25日]

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