日産自動車(以下日産)は2021年2月26日、シリーズ式ハイブリッドシステム「e-POWER」の次世代型として開発している発電専用エンジンで、世界最高レベルの熱効率50%を実現する技術を発表。メディア向けにオンライン説明会を開催した。
日産は、2050年までにクルマのライフサイクル(原材料の採掘から生産、使用、使用済み車両のリサイクルや再利用)におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を掲げている。その目標の達成に向け、まずは2030年代の早い段階で主要市場に投入する新型車をすべて電動車両にすることを目指している。
そこで、日産はリーフや今夏に発売予定のアリアといった電気自動車(BEV)と、エンジンを発電機として活用し、モーターにより駆動するシリーズ式ハイブリッドシステム「e-POWER」という2本の柱に対しての技術開発に集中して環境負荷低減策を図る。
発電専用設計として高効率エンジンを開発
今回発表したのは、後者のe-POWERの新技術について。現在の自動車用ガソリンエンジンの平均的な最高熱効率は30%台となっており、40%台前半が限界とされている。そんななかで熱効率50%はかなりのもの。ちなみに、熱効率を30%から40%へと10%引き上げるのに約50年を要した。これを数年内に50%に引き上げ量産化するという。
そもそもe-POWERは、発電専用エンジンから得られた電力を用いてモーターで駆動するシリーズ式ハイブリッドで、従来のエンジンのように走行負荷をカバーする出力特性を持たなくて済む。エンジンによる発電はバッテリーへの蓄電量に応じて最適化させることに特化できるため、もっとも効率のよいポイントにあわせて作動させられるのだ。
これまでe-POWERに採用してきた発電用エンジンは、従来の駆動用エンジンを転用し、発電用として改良したもの。より以上の効率化を図るには限界がある。次世代e-POWER用エンジンは、完全なe-POWER専用設計として開発し、バッテリー技術やエネルギーマネージメントを進化させることで、エンジンの運転条件範囲を効率的な領域に絞って使用する。これによって将来は完全な定点運転を実現し、熱効率50%を達成するエンジンとして量産車に搭載する計画だ。
新燃焼コンセプト「STARC」がカギ
その熱効率50%を実現するために日産が開発したのが、「STARC」(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)という新燃焼コンセプト。
これは、シリンダー内に吸入した混合気の流れ(筒内ガス流動)や点火を制御することで、より希釈された混合気を高圧縮比で確実に燃焼させるというもの。
具体的には筒内ガス流動では、シリンダー内に取り入れた混合気が圧縮過程でなるべく崩れないよう筒内の中心で縦渦(タンブル)を維持するよう制御。そしてスパークプラグの火炎を希釈された混合気にしっかりと着火させる。これによって熱効率の向上を図るのだ。
従来のエンジンでは、変化する走行負荷に対応するため、混合気の希釈レベル制御には制約があり、筒内ガス流動や点火方法、圧縮比などにさまざまな運転条件とのトレードオフがあった。例えば、動力性能を高めるために燃費を犠牲する(またはその逆)などの制約を受けた。
次世代「e-POWER」ではエンジンを発電専用に特化させることで、熱効率を最大限に高められる回転数に絞って作動する完全な定点運転が可能となる。これにより熱効率を飛躍的に向上させられるとのこと。
実験では熱効率50%を確認済み
希釈の方法として、燃焼後の排気ガスの一部を再循環させて、再度吸気するEGRを用いた場合で熱効率が43%となり、理論空燃比よりも空気過剰な空燃比のリーン燃焼の場合では熱効率が46%となることを多筒エンジンでの実験で実証済みだという。
さらにこれらを完全定点運転させるとともに、排熱回収技術を組み合わせることで、熱効率50%が実現できることを確認しているそうだ。
新型キャシュカイのVCターボじゃないの!?
開発中の次世代e-POWERの発電専用エンジンの仕様は、1.5Lの3気筒ターボで、既存のe-POWER用の1.2L自然吸気エンジンと比べてロングストローク化が図られているという。
1.5Lターボといえば、2021年夏に欧州で発売予定の新型キャシュカイへの搭載が予定されるVC(可変圧縮比)ターボがそれに当たる。かと思いきや、キャシュカイに搭載されるターボエンジンはまだ、熱効率50%には至らないという。
キャシュカイに搭載する発電用のVCターボエンジンについては、欧州市場における使用環境などに最適化させているという。これには、より高い車速域での走行による電力消費をまかなう上での効率化が図られているということだろう。可変圧縮比を採用することは、圧縮比が固定のものよりも回転を上げずに高出力が得られるため、環境負荷の低減も図れる。
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ここ数年の間はまだ完全定点運転の次世代e-POWERにはならないということだ。熱効率の向上はエンジンだけでは成し得ない。バッテリーを進化させなければならないのだ。ハイブリッド車であるe-POWERではバッテリーにも高効率化(搭載サイズや充電容量を含む性能)が求められ、それらとともに完全定点運転による熱効率50%を目指す。まずはその足がかりとして、実験により成果が得られたことを公表したというわけ。
ともあれ、e-POWERはピュアEV同様に胸のすく力強い走りを持ち合わせており、新型ノートなど最新の現行モデルではエンジン制御もかなり進歩し、静粛性も向上している。熱効率を高めた次世代e-POWERは、カーボンニュートラルを目指す環境負荷低減策以外に、どのような価値をユーザーにもたらしてくれるのか。非常に楽しみである。
パワートレーンを統括する平井俊弘専務執行役員は今回の技術発表で、以下のようにコメントしている。
「日産は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、2030年代早期に主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とする目標を掲げており、それに向けて戦略的にパワートレーンの開発を進めています。日産の電動化戦略として、電気自動車(EV)のe-パワートレーンおよび高性能バッテリーの開発を進めるとともに、『e-POWER』をもう一つの柱として位置付けています。『e-POWER』システムは従来とは全く異なったエンジンの使い方を可能とします。今までに培ってきた日産のエンジン開発とEV開発の経験を融合した日産ユニークな技術です。『e-POWER』システムだからこそ実現できる超高効率エンジンによってLCAでCO2削減を図るとともに、多くのお客さまに電動車両のよさを感じていただくことで、EV社会の実現を推進してきたいと考えています」。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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