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獣がル・マンを飛び出した……ポルシェ、公道走行可能な963 LMDhを公開。貴重モデルのオーナーはアメリカの“キャプテン”

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獣がル・マンを飛び出した……ポルシェ、公道走行可能な963 LMDhを公開。貴重モデルのオーナーはアメリカの“キャプテン”

 ポルシェは6月6日、世界耐久選手権(WEC)ハイパーカークラスやIMSAスポーツカー選手権GTPクラスに投入する963LMDhをベースとした公道走行可能モデル、963 RSPを公開した。多少の違いはあるものの、正真正銘の公道用レーシングカーだ。

 長い自動車の歴史が始まってから長いこと、市販車とレーシングカーの違いは、今ほど明確ではなかった。1960年代に入ってから、ル・マンでは市販車と最高峰プロトタイプの道が分かれ始め、現在ではサルト・サーキットのグリッド上にいるマシンは、例えばポルシェ911よりもF1マシンとの共通点の方が多い。

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 ポルシェ963 RSPが注目に値する理由は、まさにそこにある。基本的には963 LMDhであり、フランスのナンバープレートを装着し、公道走行が可能なように調整されている。

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 IMSAの2024年シーズン終盤、ポルシェの関係者はプチ・ル・マンに集結し、1969年以降数々の勝利を手にした伝説的なプロトタイプカーである917の公道走行可能バージョンが制作されてから50年という節目を記念して何か企画しようと話し合った。

 公道仕様の917は、マルティーニ&ロッシ酒造の財産を受け継いだロッシ伯爵のために製造されたワンオフ車両。レザーの内装が仕立てられたものの、中身はル・マンを制した917そのものであり、ロッシ伯爵はアメリカ・アラバマ州のナンバープレートを取得し、実際に公道を走らせた。

「10月12日は、数人が集まってブレインストーミングを行なった特別な日だった」

 ポルシェ・カーズ・ノースアメリカ(PCNA)のティモ・レッシュCEOは、メディアに対してそう語った。

「そして我々はその日、ごく少数の人たちだけが関わったプロジェクトに着手した」

 963 RSPのためにポルシェは、ドイツで“潜水艦プロジェクト”と呼ばれる計画を立ち上げた。可能な限り少人数で、潜望鏡を通じて周囲を確認し、必要な時にだけ姿を現すのだ。

 ただ963 RSPの制作チームは、すぐさま壁に直面した。この手のレーシングカーは市販車の基準からはあまりにもかけ離れており、認証取得ために963だと認識できないほどに改造しなければならない。そのため、LMDh車両の完全公道仕様を作ることは不可能ということが判明したのだ。

 そこでポルシェは可能な限りレース車両に近いワンオフマシンを作り、ごく限られた機会において公道走行の認可を得る選択肢を選んだ。

 ポルシェは現在、チーム・ペンスキーと提携を結んで963のワークスプログラムをWECやIMSAで展開しており、“キャプテン”ことロジャー・ペンスキーこそが公道バージョンの理想的なオーナーだと定められた。RSPというのも、ロジャー・サール・ペンスキーの頭文字から取ったモノだ。

 ドイツに拠点を置くポルシェ・モータースポーツは、963 RSP制作のために新しいシャシーを用意。デザイナーであるグランド・ラーソン監修のもと、ポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥールが設計作業を担い、アメリカ・ジョージア州アトランタにあるPCNA本社で組み立てが行なわれた。他の技術者にも作業を隠すため、仮設の壁を築く徹底した機密プロジェクトだった。

「レース車両である963の血統はそのままに、より市販車らしく、よりタフにするため、サスペンションやシステムに多くの変更が加えられた」

 そう語るのはポルシェ・ペンスキー・モータースポーツでマネージングディレクターを務めるジョナサン・ディウグイドだ。

「それに加えて、アトランタのレストア部門がもたらしたのは、レース車両とは全く異なるレベルのクオリティだ」

 963 LMDhがパーフェクトではないというわけではないが、カーボンファイバー製のボティパネルの仕上げは荒く、ビニールラッピングが施されている。

 一方で公道バージョンでは、PCNAの職人がカーボンファイバー製ボディーワークを研磨し、ロッシ伯爵の917と同じマルティーニ・シルバーで塗装された。またインテリアは、革張りの917にマッチしたカラーリングのアルカンターラ仕上げ。公道での使い勝手を考慮した他の装飾も施され、ステアリングホイールのグリップ部分にはレザーが使用された他、3Dプリンターによる取り外し可能なカップホルダーまで装備された。

 963 RSPでは、オリジナルからボディーワークにも変化。LMDhのレギュレーションでは、スピンを喫した際にホイールハウスに空気が入り込むことでエアボーン状態となる可能性を低減するため、フェンダー上部にベンチレーションを設けることが義務づけられている。963 RSPでは、フェンダー上部の隙間を埋めつつ、空気が抜ける構造を残した。また当然ながら、フロントとリヤにナンバープレートを掲げるために工夫が施された。

 こうした細かい変更点はあるものの、中身は963 LMDhだ。4.6リッターのツインターボV型8気筒エンジンに、ボッシュ製の電動モーターとパワーエレクトロニクス、Xtrac製の7速シーケンシャルトランスミッションで構成されるLMDh標準のハイブリッドシステムが組み合わされる。また、搭載されるフォーテスキュー・ゼロ製の800V小型リチウムイオンバッテリーは、下部からカーボンファイバー製チューブでボルト固定されている。

 963に搭載されているエンジンは、ポルシェ918スパイダーの自然吸気V8がベース。それも元はと言えば、2006年~2008年にかけてペンスキーがアメリカン・ル・マン・シリーズのLMP2クラスでハットトリックを挙げたポルシェRSSスパイダー用に開発された3.4リッターV8エンジンだが、コンポーネントの約80%を918とシェアしているため、公道対応は特注のレーシングエンジンほど難しくはない。とはいえ、通常のガソリンに対応させるため、キャリブレーションは重要な課題のひとつだった。

 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツはまた、公道用にハイブリッドシステムのデプロイメントをスムーズにして、低速走行に適したセットアップを963 RSPに施した。

 なおポルシェは963 RSPの最高出力を公表していない。レース車両では性能調整(バランス・オブ・パフォーマンス)がかけられるものの、約700馬力を発生させる。

 963 RSPは、レースバージョンが雨天時に使用するミシュラン製のレインタイヤを履く。車高は可能な限り高く設定され、ダンパーを最もソフトなセッティングにすることで、公道でも十分に走行ができるようにしているが、乗り心地はまだ少し固めだろう。もちろん、ウインカーやクラクションも搭載している。

 有名な話だが、917は軽量化のため、ドリルで穴を明けられたキーでエンジンを始動する。一方で963のスタートはもう少し複雑で、ノートPCとマシンの仕組みを熟知したレースチームの助けが必要だ。とはいえ、ポルシェが指摘するように、ロジャー・ペンスキーはサーキットとレースチームを所有しているため、963 RSPを走らせるのはそれほど難しいことではないだろう。

 ポルシェはフランス当局から特別な許可を得て、ル・マン周辺の公道に963 RSPを持ち込み、長年同ブランドのワークスドライバーを務め、現在はブランドアンバサダーを務めるティモ・ベルンハルトがロッシ伯爵の917と並んで走行した。車両につけられたナンバープレートも、プロトタイプをテストする自動車メーカー用のモノだった。

「一生忘れられない経験になった」

 ベルンハルトはリリースにそう綴った。

「917を横目に公道を走るなんて……非現実的な気分だった。マシンの挙動は完璧で、普通の963よりも少しフレンドリーで寛容な感じがした。本当に特別な感じがしたし、特に僕の安全装備が必要なかったから、より快適だった」

 ロジャー・ペンスキーがこの963 RSPを持ち帰るには、もう少し待たなければならない。車両はル・マンで展示され、その後ポルシェ・ミュージアムに展示される。また来月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードではヒルクライムに挑戦し、その後8月のモントレー・カー・ウィークでアメリカ・カリフォルニアへと向かう。そして公道走行を行なった後、最終的にキャプテンへと引き渡される。

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