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自動車専門翻訳家がゆくドイツ自動車博物館の旅 その7

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自動車専門翻訳家がゆくドイツ自動車博物館の旅 その7

フェルディナント・ポルシェ博士が最初に設計したのは電気自動車だった。16歳で学業を終えた彼は、オーストリア・ウイーンのベラ・エッガー電気会社に徒弟として就職する。そのベラ・エッガーの工場に、ローナーというメーカーの電気自動車が修理に入ってきた。若きフェルディナントはその電気自動車にいたく魅了され、時を移さずローナー社に入社した。1900年のパリサロンに出展されたローナー・ポルシェ電気自動車こそポルシェ博士初の作品である。――ここまでは、私が持っている二玄社刊『世界の自動車 ポルシェ』が教えてくれた。

このローナー・ポルシェ電気自動車は「インホイールモーター」で走ったという。さて、今から125年も前に設計・製作されたインホイールモーターとは、一体どんな構造だったのだろう。私の長年の疑問はポルシェ・ミュージアムがスッキリ答えてくれた。

自動車専門翻訳家がゆくドイツ自動車博物館の旅 その6

ポルシェ・ミュージアムに展示されていたインホイールモーターの分解見本。遠く1898年にフェルディナント・ポルシェ博士が設計した電気自動車に採用されていた。

「1898年、フェルディナント・ポルシェは前輪に“オクタゴン”モーターを搭載した電気自動車を製作した。オクタゴン(八角形)の名前は8個のモーターを内蔵するハウジングに由来する。その自重は130kgに過ぎない。車速は12段のコントローラーで調節した。内訳は前進が6段ギヤ、後退が2段ギヤ、制動レベルが4段である。このシャシーを土台にしてボディ形式が異なる4台の車両が製作された。製作を担当したのはウイーンの馬車製造業者ルートヴィッヒ・ローナー。そのうちの1台は1899年の第1回ベルリン・モーターショーにちなんで開催された40kmレースで1位を獲得した。モーターを製作したエッガー社とボディ製作を担当したローナーとを結んで“エッガー・ローナーC2フェートン”と呼ばれるこの電気自動車は、フェルディナント・ポルシェが設計に参画したなかで現存する最古の作品である。航続距離は80km。出力は3~5ps。最高速度35km/h」

以上の情報を私はミュージアムの説明プレートから知った。どうです? 実に簡潔にして明瞭な説明ではないか。自動車博物館がクルマ好きの(相当オッタキーな)好奇心を満たしてくれる好例だと感じた次第。

ポルシェ918スパイダー スタディモデル。全長x全幅x全高: 4643 x 1940 x 1167mm。ホイールベース:2730mm。車重:1674kg。リヤフェンダーに手を掛けている人物はこの日、私たちを案内してくれたミュージアムのスタッフ。

インホイールモーターは、ほぼ駆動ロスがゼロなEVを可能にする今日的な意義のある技術で、その初期の展示品を観察できたのは収穫だった。そしてポルシェ・ミュージアムはさらなるサプライズを用意していた。エッガー・ローナーの遠い遠い子孫、ポルシェ918スパイダーの実車を見ることができたのだ。

918スパイダーは2010年のジュネーブショーでデビューしたコンセプトモデルに続いて、2013年から市販型が918台の限定で生産された。2013年のジュネーブショーにてデビューしたラ・フェラーリとマクラーレン P1と並んで、ハイブリッドによるスーパーカー時代の幕開けを告げた1台である。

インテリアは上質なレザー仕上げ。ダッシュボードから斜めに伸びるセンターコンソールによって運転席と助手席の空間が明確に分けられている。エンジンはバンク角90度の4.6リッターV8。自然吸気の筒内直噴の利点を活かし、圧縮比は13.5に達する。最高出力608ps/8700rpm、最大トルク540Nm/6700rpm。レブリミットは9150rpmの高みにある。

一方、モーターは前輪と後輪に1つずつ計2個備わる。前モーターの出力は129ps、後ろモーターは156ps。トルクは同じ順に210Nmと375Nm。エンジンとモーターを合わせたシステム出力は887ps、トルクは1280Nm。

後ろモーターはエンジンとトランスミッションの間に位置し、介在するクラッチがエンジンとモーターを断続する。コンバインドモードではクラッチが繋がってモーターはエンジンとともに回る。一方、Eパワーモードではモーターが単独で働いて918スパイダーを純EVとして走らせる。その際の航続距離は30km程度。一方、前モーターは1段のみの減速ギヤを介して前輪を専門に駆動する。従って前後間でパワーをやり取りする4WDとは構造的に異なる。モーターに電力を供給するのは容量6.8kWhのリチウムイオン電池だ。

キャビンとリヤデッキを繋ぐBピラー相当部分に位置するのは、グリーンの矢印が記された円形カバー。バッテリーはシートとエンジンの間に横向きに配置されていて、このカバーの奥に充電ポートがある(市販車では助手席側)。このパワーユニットと組み合わされるトランスミッションは7速PDK。ポルシェは2000年代始めから、1000Nm超の大トルクに対応できるデュアルクラッチトランスミッションの開発を完了していたのだ。

センターモノコックとボディ外皮はそのほとんどがCFRP製で、プラグインハイブリッドによる重量増にもかかわらず1674kgの車両重量を可能にしていた。0-100km/h加速は2.6秒、0-400mは10秒、300km/hまで20秒程度で加速するという。ニュルブルクリンク・ノルトシュラフェのベストタイムは6分57秒だ。

2000年代始めに918スパイダーが提示したハイブリッドによる可能性は、今やスーパーカーの分野に限らず広く乗用車にまで認知され、その技術はすっかり市民権を得た感がある。一方、フェルディナント・ポルシェ博士が125年前にエッガー・ローナーで模索した電気自動車が、私たちの社会に定着するのはもう少し先になりそうである。

独特のデザインのホイールは、軽量化を主眼に置いたヴァイザッハ・パッケージ仕様だとマグネシウム製になる。グリーンのキャリパーが鷲づかみにするのは回生機能付きのセラミックコンポジットディスク。展示車のタイヤはミシュランだった。

Text:相原俊樹Photo:相原俊樹ほか

【筆者の紹介】相原俊樹:自動車専門の翻訳家・著述家。月刊の自動車専門誌向けに海外のロードインプレッションや新車情報などを翻訳。自動車関連の翻訳書多数。現在の愛車はポルシェ・ボクスター。趣味は60年代のカンツォーネと藤沢周平の時代小説。

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