富士スピードウェイで行なわれたスーパー耐久第3戦『NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース』でひときわ注目を集めた、ROOKIE Racingの32号車ORC ROOKIE Corolla H2 concept。世界で初めてとなる、水素エンジン搭載車によるレース挑戦となったが、彼らは358周(走行距離1,634km)を走り、見事24時間レース完走を果たした。
レース中に特に目を引いたのは、ピットインの度に行なわれる“水素充填”。32号車はピットでドライバー交代などの通常の作業を行なった後、一旦パドックエリアへと出て、1コーナー寄りに設置された水素ステーションへと向かう。岩谷産業の協力で用意された移動式水素ステーションは2台で、32号車は1度のピットインで2回に分けて、福島県浪江町でつくられたグリーン水素(製造過程でも二酸化炭素が排出されていない水素)を充填した。水素充填を2回に分けた理由は、タンク容量と圧力を考えた場合、その方が充填スピードを速くすることができるからだそうだ。
■水素エンジン搭載の『カローラスポーツ』駆る小林可夢偉「このマシンには未来がある」|S耐久富士24時間
32号車の総ピット時間は12時間6分。つまり、レース時間の半分をピットで過ごしたということになる。ただ、これには電気系統のトラブルによるガレージインの時間も含まれている。35回行なわれた水素充填の総所用時間は4時間5分で、すなわち1度のピットストップで水素充填に7分(3分前後の水素充填を2回)かかっていたという計算になる。
トヨタ自動車の社長、そしてROOKIE Racingのオーナーである豊田章男は、自身も“モリゾウ(MORIZO)”の名で32号車をドライブした。モリゾウはレース後に行なわれた記者会見で次のように語り、歴史の一歩を踏み出せたことへの満足感を口にした。
「24時間レースを安全に完走することができました。無理なスケジュールではありましたが、もしレースに参加しなければこのようなトラブルが発生せず、開発が遅れていたことを考えると、会社の枠を超えて24時間走り抜けたことは未来づくりにとっては良いことだったと思います」
「今回の参戦は、カーボンニュートラルに向けての選択肢を広げるための第一歩を示すためでした。目標値の設定や規制で選択肢を狭めるのではなく、意思ある情熱や行動、(日本の自動車業界に携わる)550万人の仲間をベースとした、会社の枠を超えた取り組みが、10年後、20年後の景色を変えるのだと実感しました」
「自動車やモータースポーツに興味のなかった方々とも一緒に、未来の扉を開く準備ができた、そんなレースだったと思います」
また、今回水素エンジン車がレースに参戦するにあたって、技術面で最も懸念されていたのが“異常燃焼”であった。水素はガソリンと比べてはるかに着火性が高く、燃焼速度も速いため、スパークプラグによる点火の前に火がついてしまうプレイグニッション(早期着火)が発生するリスクがあった。ただ、TOYOTA GAZOO Racing カンパニーのプレジデントを務める佐藤恒治曰く、今回のレースではこの異常燃焼を十分コントロールができたという。
「技術的に最も心配していたのは異常燃焼の制御です。結果から見ますと、ある程度想定内のコントロールができました」
「前半はマイナートラブルが多く起きましたが、安全を重視してその都度ピットに入れて確認した結果、重要なデータをたくさん取れました。エンジン・パワートレイン以外の部分での課題出しもかなり出来ましたので、次のレースまでに改善していきたいです」
佐藤プレジデントから“次のレース”という言葉が出たことで、32号車カローラスポーツは今季のスーパー耐久シリーズの残りレースに出場する予定なのかと質問が飛んだ。今季はオートポリスと鈴鹿での5時間レース、岡山での3時間レースが残されているが、これについてモリゾウは「出場する予定です」とコメント。しかし、今回の富士スピードウェイのような十分なスペースのないサーキットでは水素ステーションの設置場所という問題が出てくるため、その点については協議を重ねていくと語った。
そして今回ステアリングを握ったプロのドライバーからもポジティブな声が聞かれた。WEC(世界耐久選手権)のチャンピオンである小林可夢偉は、水素エンジン車を「匂い以外ガソリン車と変わらない。皆さんも言われなければ(水素エンジン車だと)わからないと思う」と評価し、さらにこう続けた。
「僕はこれまで、勝つために24時間レースを戦うことが多かったです。しかし今回はそれと大きく違います」
「今回は勝つためではなくて、どうやってゴールまで持っていくかというレースをしました。ただ、原点はこっちだと思います。昔は24時間クルマを走らせるのが難しかったからこそ、こういうレースが始まったのだと思います。こうやってチェッカーを受けられたことは、昔で言えば優勝に近いことを成し遂げたと思っています」
今回、開発車両などを対象としたST-Qクラス(賞典外)から参戦した32号車カローラスポーツが記録したベストタイムは、佐々木雅弘が記録した2分04秒059。他のプロドライバーも軒並み2分04秒台のベストタイムをマークし、Cドライバーであるモリゾウも2分07秒451を記録した。1500cc以下の車両が属するST-5クラスの車両で2分04秒台を記録した車両が1台だけだったことを考えると、32号車はどのマシンよりも遅かったという訳ではない。
「僕たちは誰かと競っていたようには見えなかったかもしれませんが、実はレース中すごい台数のマシンを抜いていました。僕たちは決して一番遅いマシンという訳ではなかったんです」
そう語るのはEドライバーを務めた石浦宏明だ。
「結果では見えないかもしれませんが、僕たちは水素エンジン車として初参加でいきなりレースができているんですね。ドライバー目線としては、良いエンジンサウンドを聞きながら、抜きつ抜かれつの戦いやブレーキング競争をしたり、Hパターンのシフトノブを動かしたり、気持ち良さを感じながらコーナーを攻めたりできました。たくさんの皆さんの協力によって、最初の挑戦からそれができたのはとんでもないことだと思います」
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みんなのコメント
やらなければ課題が何かも分からない。
「走る実験室」とは言うはやすいがやれるものではない。
ソレを決断してやり切った豊田社長やドライバー、スタッフの皆さんに拍手と敬意を送りたい。
環境マフィアの連中にエンジン車のレースを潰されずに済む