この記事をまとめると
■オーテック(現:NMC)では日産の特装車を扱っている
「マーチ」なだけに「ボレロ」「ポルカ」「タンゴ」! オーテックが手がけたモデルが音楽に全ぶりなネーミングだった
■過去に3代目マーチをベースにしたコンプリートカー「12SR」を販売していた
■エンジンや足まわりのチューニングなど徹底的に手が入れられていた
街なかでも全開で楽しめるホットハッチ
日産には、オーテックジャパン(以下:オーテック ※現:NMC=NISSAN MOTORSPORTS & CUSTOMIZING)という、日産車をベースとした特装車を手がけるグループ会社があり、そこでは福祉車両や限定車などが数多く作られていた。そんなオーテックは1986年に設立され、初代社長はスカイラインの父としていまなお多くのファンをもつ、故櫻井眞一郎氏が務めた。
現在でも、ノートやエクストレイル、セレナ、リーフといった主要モデルにはオーテックモデルが設定され、量産モデルとは異なる専用装備が数多く与えられた、特別仕様車が多数リリースされている。これらのモデルは、ただ見た目を変更しただけでなく、足まわりなど走りの質感にかかわる部分も磨かれており、パフォーマンス面もより上質に仕上がっているのが特徴だ。
さて、そんなオーテックであるが、これまでメーカー(日産本体)にはできない、やりすぎともいえるほど手が加えられたコンプリートカーが何台も誕生している。今回紹介するのは、そのなかでもいまなお業界関係者から高い評価を得ている名ホットハッチ、「マーチ 12SR(以下12SR)」だ。
このクルマは、見てのとおりシリーズにおける3代目となる、K12型のマーチがベースだ。この型のマーチは終売までに3回マイナーチェンジしており、12SRもベースモデル同様に3回仕様が変わり、ファンたちの間では、「前期(2003年3月~2005年8月)」「中期(2005年8月~2007年6月)」「後期(2007年6月~2010年7月)」とわけられている(画像は中期モデル)。
ざっくりと特徴を説明すると、前期モデルは大人しめのエアロがついており、モデルで唯一3ドア仕様の設定に、モデルで唯一6色(中期モデルは3色、後期モデルは4色)ものボディカラーが用意されていたのだが、作りにまだ詰めの甘い部分が多かったのも事実で、「どうしても3ドアが欲しい!」「カラフルな色にしたい!」という人以外はあまりオススメできない。
中期モデル以降は、エアロ関係が前期モデルから刷新され、空力特性が大幅に向上した結果、国産FF車としては初となるゼロリフトを実現し、高速域での安定性が飛躍的に向上している。後期モデルでは、新色(パシフィックブルー)が追加され、ヘッドライトやグリルのデザインが変更になったほか、リヤシートの分割機能が廃止になった程度で、パフォーマンス面における大きな変更はなかった。内装色は前期がオレンジ、中期がグレー、後期がブルーになっている。
と、各モデルの特徴を少し説明したがこんなのは序の口に過ぎない。この12SRの真骨頂は、見た目だけでなくエンジンや足まわりで、素人目に見ても「ここまでやるか!?」といっても過言ではないほど、オーテックによる手が加えられている。
まずエンジンだが、形式上は量産車と同じCR12DEという1.2リッターの自然吸気エンジンが搭載されている。ただ、中身はまるで別物だ。というのもオーテックはこの12SRのために、「専用カムシャフト」「専用バルブスプリング」「専用ピストン」「専用ECU」のほか、中期モデル以降は「ポート研磨」の実施に「等長ステンレスエキゾーストマニホールド」「専用エキゾースト」までインストール。実質、オーテックの職人たちによる手組みエンジンが搭載されていたことになる。ヘッドカバーには「Tuned by AUTECH」のバッジがつくのも誇らしい。
さらにレスポンスアップのために専用の軽量フライホイールも採用していた。余談だが、エキゾーストマニホールドはフジツボ製ともいわれている。ちなみに、前期モデルでは108馬力であったが、中期モデル以降は110馬力にパワーアップしていた。ホンダのタイプRシリーズ顔負けの作り込みであった。1.2リッターとした理由は、1.4リッターエンジンを使うよりも、フリクションが少なく、高回転向きだったからという背景があったそう。
これぞ羊の皮を被った狼
それだけでなく、足まわりなども当然専用設計。サスペンションはノーマルのマーチから20mm落とされており、スタビライザーも大径化。ハードなセッティングにより路面追従性を向上させていたほか、タイヤは185/55R15とノーマルモデルの165/70R14から1インチ、幅も2サイズアップした専用品。ホイールはもちろんアルミで、6J+50というサイズのエンケイ製を採用していた。なお、これが理由で片側に5mm程度のフェンダーモールが取り付けられ、タイヤのはみ出しを防いでいる点がメーカー直系のチューニングカーらしいポイント。
しかも、純正装着タイヤは当時のブリヂストンにおけるハイパフォーマンススポーツタイヤ、ポテンザ RE-01(中期以降はRE-01R)を標準装着というハードコアっぷり。こんなタイヤを量産車に入れようものなら、一般ユーザーからの苦情待ったなしだ。
そのほかにも、ブレーキサイズも同時期のティーダ用を流用しビッグローター化して、ブレーキマスターシリンダーも大型化。走る曲がる止まるを徹底的に追求していた。さらに中期モデル以降はリヤのトーションビームが上位車種であるノート用が流用され、路面追従性がより上がっている。
見た目こそマーチだが、乗ったら最後、「これは本当にマーチなのか?」と疑わざるを得ない、激辛ホットハッチに豹変していたのだ。ボディ補強も随所に施され、インテリアも専用のバケット形状のシートに革巻きステアリング、レブリミットが6900回転に設定された専用デザインのメーターも奢られていた。希望者には純正オプションという形で、クスコ製のタワーバーも設定され、比較的装着率が高いアイテムだった。
こちらは余計な情報だが、兄弟車として当時の「キューブ(Z11)」と「ノート(E11)」のパーツ流用なども可能で、そのほかの同時期の日産車のパーツも流用できた点も、カスタム派にはありがたい部分だった。
と、「これでもか!」といったほど手が加えられた12SRの新車価格は、なんとビックリ、前期モデルで154万5000円! 中期モデルが164万8500円、後期モデルが179万3400円と卒倒するほどのバーゲンプライス! 標準モデルのマーチが100万円前後から120万円程度で販売されていたので、それらにプラス50万円ほどというわけだが、「この価格は誤植では?」と疑うレベルで販売されていたのだ。もちろん日産ディーラーで購入できたので、新車保証も受けられたしメンテナンスもほかのモデル同様に受け付けていた。これもオーテックの強みである。
そして、忘れてはならないのがこのクルマの開発責任者、中島繁治氏の存在だ。このクルマを手がけた中島氏は、R32スカイラインをはじめ、数々の日産車の性能評価試験などを担当したマイスター的存在で、彼がエンジニアとして最後に手がけた量産車でもある。「人馬一体の楽しさ」を徹底追求した、渾身の1台であった。
なお、中島氏も愛車としてこの12SRを所有していた。ちなみに、12SRと同じエクステリアで、1.5リッターエンジンにCVTを搭載した15SR-Aというモデルも中期モデル以降は存在する。
さて、そんな異常ともいえる12SRであるが、ここで個人的な話をひとつ。このクルマは筆者が最初に購入した(もちろん中古)愛車であったが、じつはこの型のマーチは好みの問題から、選択肢にはまったく入っていなかった。しかし、ちょっとした理由で出かけた中古車屋に展示されており、試しにエンジンだけかけたら、その純正エキゾーストのあまりの快音っぷりに卒倒。「これは絶対楽しい!」と、経験もろくにないのに考えが180度変わり、愛車に迎え入れた過去がある。
「クルマは見た目じゃないんだ」と、初心者ドライバーの筆者に教えてくれた1台でもあったのだ(デザインが気に入っている人には申し訳ないが……)。
現在12SRは、MT車が高額になりつつあるいまでも、中古車は状態を問わずであれば、30万円程度から探すこともできる。決してハイパワーではないが、それ故に湘南の職人たち渾身のNAエンジンを日常生活で思う存分楽しめる12SRは、日産の至宝である。
最後に、もしこれから12SRを購入するなら、元オーナーの筆者的にはすべての観点から中期モデルをオススメしたい。
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みんなのコメント
いい加減乗り換えたいけど日産に代えたくなる車が無いって嘆いてる。
そうでなければ「謹製」の使い方が間違ってる。