1980年代以降日本で人気の高かったリッターカーだが、現在日本車で1Lエンジンを搭載しているのはトヨタ車、ダイハツ車のみだ。
リッターカー全盛時代には、いろいろな個性派が登場して楽しませてくれた。現在ではスイフトスポーツをボーイズレーサーと呼びたいが、その言葉自体もはや死語と化しているのは寂しい限り。
クラウンにもワゴンがあった!? 消えた名門車の派生モデル 5選
街中やワインディングを運転して楽しい、小気味よく走る、そして競技にも使えたといいう日本の個性派ボーイズレーサーを紹介していく。
文:片岡英明/写真:TOYOTA、DAIHATSU、NISSAN、SUBARU
【画像ギャラリー】今の時代にこそ復活してほしい!! 日本人が愛した個性的なボーイズレーサーをじっくりと眺める
トヨタパブリカ・スターレット(初代)
販売期間:1973~1978年(1973年10月にスターレットに改名)
マイカーブームの火付け役だったパブリカの流れを組むコンパクトファミリーカーがトヨタのスターレットで、その証拠に1973年春にデビューしたときは「パブリカ・スターレット」を名乗っている。
クルマに興味旺盛なエントリーユーザーを狙い、最初は2ドアモデルだけの設定だった。スタイリングも2代目のパブリカより若々しい。
どことなくTE27レビン/トレノを彷彿とさせるデザインはジウジアーロが手掛けた。スターレットは2代目のKP61が有名だが、初代はマニアック
「バレットウエッジ」と名付けたロングノーズにファストバックのキュートなフォルムで、ベルトラインを一段低くしてガラスエリアを広げている。この美しいデザインを手がけたのは、イタリアの鬼才、ジウジアーロだった。
売りのひとつはセリカと同じようにフリーチョイスシステムを採用したことだ。エクステリア、インテリア、エンジン、トランスミッションを自由に選ぶことができた。
ラリーカーをイメージしたSRには精悍なRインテリアが、主役のSTにはゴージャスなG、ラグジュアリーなL、スポーティなSと、3つのインテリアを設定している。
エンジンは993ccの2K型直列4気筒OHVとカローラから譲り受けた1166ccの3K型だ。秋には4ドアモデルが追加され、この時に「スターレット」と改名した。
インテリアはグレードにより3タイプが用意されていたが、6連丸メーターは今見てもスポーティでカッコいいデザイン
特筆したいのは、ツーリングカーレースで勝つためにスペシャルモデルが用意されていたことである。注目の心臓は排気量を1293ccに拡大し、DOHC4バルブヘッドを架装した3K-R型だ。
富士スピードウェイで開催されているマイナーツーリングレースではサニー1200クーペと熾烈なバトルを繰り広げ、1974年から3年連続してシリーズチャンピオンに輝いた。
今なおレースファンから語り継がれている名車が、初代のKP47型スターレットだ。
富士スピードウェイで開催されていたマイナーツーリングカーレースで大活躍した初代スターレット。写真は当時のマシンを再現したレプリカ(片岡氏撮影)
ダイハツシャレード(2代目)
販売期間:1983~1987年
1980年代はターボがもてはやされる時代だった。日本の税制は排気量によって区分されているから、排気量を変えることなく簡単にパワーとトルクを増やせるターボはエンジニアにとって魅力だったのである。
2代目シャレードは1983年1月に登場する。ストレート基調のボクシーなフォルムとなり、背も高くしたのでキャビンは広く快適だった。
ダイハツが2代目シャレードに搭載した993ccの直3ディーゼルは50ps/9.3kgmをマーク。ディーゼルとしては世界最小排気量となる
注目のパワーユニットは2機種を設定する。ひとつは3気筒のガソリンエンジンだ。もうひとつは「Rock’nディーゼル」のキャッチフレーズで登場した世界最小のディーゼルである。
排気量993ccの3気筒ディーゼルで、弱点だった振動を打ち消すためにバランサーシャフトを組み込んだ。1984年夏にはディーゼルターボを投入し、さらに魅力を増した。ガソリンエンジンを凌ぐ50ps/9.3kgmのスペックで、低回転から力強いトルクを発生。
また、ガソリンターボも設定し、そのフラッグシップはイタリア製の名門パーツを組み込んだデ・トマソだ。それだけではない。ラリーベース車両として排気量を926ccに下げた926ターボも200台を限定発売している。パンチの効いた走りはラリー界でも評判となった。
デ・トマソ社とコラボして生まれた日伊合作車で、赤/黒がイメージカラー。ゴールドのカンパニョロ製マグネシウムホイールを装着
全日本ラリーで勝つために926ccに排気量ダウンしたのが926ターボで、この手法はストーリアX4にも受け継がれた
日産マーチスーパーターボ(初代)
販売期間:1989~1991年(マーチRは1988年デビュー)
1981年10月に開催された東京モーターショーに「NX-018」の名で参考出品され、1982年10月に発売されたのがK10の型式を持つ初代マーチだ。
エントリーユーザー向けのリッターカーだが、シルエットフォーミュラ風のマーチをCMに使うなど、スポーティさを前面に押し出している。
競技用のラリーベース車として1988年に登場したマーチR。全日本ラリーのトップドライバーの多くがチョイするほどの人気となった
エンジンはMA10型の型式で呼ばれる987ccの直列4気筒OHCだ。燃費スペシャルも用意されるなど、最初は実用性と経済性の高さを売りにしていた。
が、1985年2月のマイナーチェンジの時に3ドアモデルにターボ車を設定した。応答レスポンスに優れた小型ターボに加え、電子制御燃料噴射装置を採用し、85ps/12.0kgmを達成している。
そして1988年8月にラリーベース車両の「マーチR」を発売した。ボアを2mm詰めて排気量を930ccとしたMA09ER型エンジンに組み合わせるのは、ターボとスーパーチャージャーだ。
時代に先駆けたダブルチャージシステムで、低回転域の瞬発力が不足する弱点をスーパーチャージャーによってカバーした。
3本スポークステアリングとセンターコンソールの3連メーターがスポーティなマーチRのインテリア。街乗りの快適性は二の次で、パワステは非装着
最高出力は110ps/6400rpm、最大トルクは13.3kgmを発生し、痛快な加速を披露する。トランスミッションはクロスレシオの5速MTが用意された。ビスカスLSDも標準装備されていたから身のこなしは軽やかだ。
ただし、パワーステアリングは省かれている。これに続いて1989年1月には快適性を高めたマーチスーパーターボを送り出した。こちらには5速MTに加え、3速ATが用意されている。
クラスを超えたダイナミックな走りを見せ、運転するのも面白かった。ラリーでもサーキットでも俊敏な走りを見せている。だが、メカニズムは複雑になり、フロントも重くなったから走りは荒削りだった。
また、生産コストもかさんだため、この革新的なメカを積んだボーイズレーサーは1代限りで姿を消している。
マーチRのストリートバージョンがスーパーターボでフォグランプを埋め込んだフロントマスクでほかのモデルと差別化。5MTだけでなく3ATも設定
スバルジャスティ(初代)
販売期間:1984~1994年
レオーネの下のポジションを受け持つジャスティが発売されたのは、1984年2月のことだ。FF方式に生まれ変わった軽自動車のレックスと似たルックスのマルチパーバス2ボックスで、3ドアと5ドアのハッチバックが用意された。
エンジンはドミンゴ4WDに積まれていた997ccのEF10型直列3気筒OHCだ。ハイライトは、FF車だけでなくリッターカー初のパートタイム4WDがあり、5速のシフトレバーに設けられたプッシュスイッチで2WDと4WDを切り替える。
リッターカーとしてパートタイム4WDを初搭載したのが初代ジャスティ。そのためリッターカーでは最高レベルの走破性を誇った
3気筒エンジンは63ps/8.5kgmのスペックだからパンチは望めない。が、サンルーフ付きのRSは4WDであるのに車重は700kgと軽量だ。だから小気味よい加速を披露した。
サスペンションは4輪ともストラットの独立懸架をおごっている。アンダーステアは出るが、コントロールしやすく、ワインディングロードでも軽快な走りを楽しませてくれる。もう少しパワーがあれば、さらに楽しかったはずだ。
1985年、4WDシリーズに1.2Lモデルを設定し、1987年2月には1Lモデルに量産車として世界で初となる電子制御無段変速機のECVTを加えている。
後期モデルでは1.2LエンジンにもECVT搭載車が登場した。日本では今ひとつの販売にとどまったが、海外では走りがよく、燃費もいいので好評を博していた。
ジャスティは日本よりも欧州で4WD性能が高く評価され人気だった。日本では全日本ラリーで活躍していたが、欧州ではいろいろな競技で使われた
ダイハツストーリアX4(初代)
販売期間:1998~2004年
大きくなったシャレードに代わるリッターカーとして1998年2月に送り出されたのがストーリアだ。軽自動車よりひと回り大きいサイズの5ドアハッチバックで、愛らしいフロントマスクや新しい衝突安全基準を満たしたTAFボディも話題になった。
絶えていた直列3気筒の1Lエンジンを復活させたが、シャレードと違い989ccのDOHC4バルブだ。電子制御燃料噴射装置のEFIを装着し、滑らかな加速と優れた燃費、クリーンな排ガスを実現している。
ごく普通のリッターカーのストーリアをベースに競技ベース仕様としたのがX4で、713ccエンジンに換装され、120ps/13.0kgmをマーク
FF車とフルタイム4WDがあり、4WDのサスペンションはストラットと3リンク・リジッドの組み合わせだ。
ストーリアのハイライトは、2カ月遅れで投入されたモータースポーツ参加のための4WDベース車両、X4(クロスフォー)である。
パワーユニットは直列4気筒DOHC4バルブで、ターボ係数をかけても1Lクラスに収まるように排気量を713ccとした。
軽量、ハイパワー、4WDというラリー協議における三種の神器を手に入れたストーリアX4はラリーで絶大な強さを発揮
これにインタークーラー付きターボを装着し、ブースト圧を1.2kgf/cm3オーバーまで高め、120ps/13.0kgmを絞り出している。
全日本ラリー選手権のAクラスでは敵なしの快進撃を続け、過給係数が変わって1.4Lクラスに組み込まれた後も圧倒的な速さを見せつけている。
後継のブーンX4ともどもモータースポーツ史に残る傑作マシンだ。
ストーリアの後継モデルのブーンにも競技ベース車のX4が設定された。ダイハツはこのクルマでWRC参戦も目論んでいたようだが実現はしなかった
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