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中国の出方次第で世界のクルマが危機に陥る! 中国が掌握するレアアース事情と依存したくない日本の現状

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中国の出方次第で世界のクルマが危機に陥る! 中国が掌握するレアアース事情と依存したくない日本の現状

中国が牛耳るレアアース市場に異変

世界のレアアース市場では中国の影響が非常に大きい。その中国がレアアース輸出規制を強化している。とくに米中貿易摩擦の激化に伴い、中国政府は2025年4月、トランプ政権による対中関税への対抗措置として、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種のレアアースの輸出に政府の許可を義務づけた。これらの元素は、電気自動車やハイブリッド車のモーター用磁石、触媒として欠かせない材料であり、中国は世界のレアアース精錬のほぼ9割を支配している。

EVの要「リチウムイオン電池」はレアメタルなしに作れない! そもそも「レアメタル」ってなに?

<レアアースとその用途>

そもそもレアアースとは? 簡単に説明すると、レアアース(希土類元素)とは、周期表のなかでも特殊な性質をもつ17種類の金属元素のグループのこと。経済的に採掘できる高濃度の鉱床が少ないため「希少=レア」と呼ばれている。中国が輸出管理を強化した前述の7種はレーザー機器や航空宇宙産業など、安全保障に直結する分野に必須であり、より重要度が高いものだ。

輸出申請の手続きも極めて複雑で、数百ページにおよぶ書類が求められ、許可の可否も不透明な状況だ。この輸出規制の影響は米国のみならず欧州でも主要自動車メーカーがサプライヤーとの協議を進めており、一部の部品メーカーでは工場の操業がすでに停止している。

なぜこれほど深刻な影響が生じるのか。問題の核心は「レアアース磁石」にある。これは現代の自動車の主要部品に使用されていることが多く、とくに今回規制対象となったテルビウムやジスプロシウムは、電気自動車用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料として、高温下でも磁性を保つ重要な役割を果たす。

また、サマリウムは、各種モーターやガソリンエンジンの点火装置などに使用される磁石の主要成分だ。これらが入手できないと、最新の自動車製造に深刻な支障をきたす可能性が生じてくる。

日本への影響も大きいがすでに対策は始まっている

レアアース規制の影響は日本も例外ではない。すでに日本の自動車メーカーに実害をもたらしている。もっとも象徴的な事例がスズキである。ロイターの報道によると、同社は小型車「スイフト」の国内生産を停止せざるを得ない状況に追い込まれた。当初、スズキは生産停止の理由を公表していなかったが、中国によるレアアース輸出規制の影響であることが判明している。

じつはこの問題、日本は初めて経験するわけではない。2010年の尖閣諸島問題を発端とした中国によるレアアース輸出制限を世界に先駆けて経験し、その教訓を活かした対策を進めてきていたのだ。

<日本への影響と戦略的対応>

日本の対応はふたつの柱で構成される。ひとつは中国以外からの調達網構築である。総合商社の双日とJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、2011年からオーストラリアのレイナス社に出資し、2023年3月には約180億円規模で追加出融資を実施した。これによりマレーシア工場で精錬される重希土類の最大65%を日本向けに供給する契約を締結している。また、2024年5月には、経済産業省がフランスのカレマグ社のレアアース精錬事業に約1億ユーロ(約162億円)を拠出し、将来的に日本の需要の20%相当の供給確保をめざしている。

もうひとつの重要な取り組みがレアアース依存からの脱却である。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2024年からレアアースを使用しないモーターの開発に着手し、部品メーカーや新興企業が2027年から2028年にかけての量産化をめざしている。

その他、プロテリアル(旧日立金属)は、フェライト磁石を使用したEV駆動用モーターを試作し、レアアースを使わずに100kWの最高出力を確認した。同社は2030年代前半の実用化をめざしている。デンソーも鉄とニッケルのみで構成する「鉄ニッケル超格子磁石」の5~10年内実用化を表明している。

また、ネクストコアテクノロジーズは、レアアース問題に対するまったく新しいアプローチとして、磁石ではなくモーターの鉄心(コア)部分を革新することで電力損失を70%程度低減可能な省エネルギーモーターを実現。そのため、性能の劣るフェライト磁石でも実用レベルになり、結果的にレアアース依存から脱却できる。

<価格競争力という新たな壁>

ただし、課題も残る。中国メーカーの磁石の価格は日本勢より安いため、部品会社は調達の切り替えや代替技術の導入をためらっている現実がある。短期的なコスト重視が長期的なサプライチェーンリスクを増大させる可能性もある。

国際エネルギー機関(IEA)は、2040年時点でも中国がレアアース精錬の78%を占め、ほぼ独占状況が続くと予測している。一方で、日本が先行投資してきたマレーシア・オーストラリア系の精錬能力が15%に達する見込みであり、脱中国依存の取り組みが一定の成果を上げる可能性も示されている。

中国のレアアース輸出規制は、確実に日本の自動車産業に影響を与えているが、2010年の経験を教訓とした戦略的取り組みが徐々に実を結び始めている。供給網多角化とレアアースフリー技術開発という二正面作戦により、中長期的には危機を乗り越える道筋が見えてきた。今後は技術開発の加速とコスト競争力確保が鍵となるだろう。

文:THE EV TIMES 琴條孝詩
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みんなのコメント

24件
  • dre********
    中国がレアアースで世界を牛耳ろうとするなら
    日本は半導体の材料で中国を絞め殺せばいい。

    レアアースは貴重だが加工して半導体がなけりゃ
    機械製品も工業製品も作れないんだから。
  • ねこにごはん
    こんな状況でも中国EV車に補助金を出している日本政府。バカじゃねーの!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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