今やコンパクトカーでもハイブリッド車が数多くラインナップされている時代。
しかしながら、軽自動車には、いわゆる「フルハイブリッド」のクルマはなく、スズキやニッサンなどの一部のメーカーが、マイルドハイブリッドシステムを採用するにとどまっている。
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コンパクトカー向けのe:HEVをもつホンダや、ハイブリッド王者のトヨタとタッグを組むダイハツなどは、その気になれば自社の軽自動車にフルハイブリッドシステムを搭載することができるはずなのに、行われていないのが現状だ。
今後、軽自動車の電動化は進むのだろうか、また、そもそも軽自動車に、電動化は必要なのだろうか。
文:吉川賢一/写真:SUZUKI、NISSAN、HONDA、DAIHATSU、MITSUBISHI、TOYOTA
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ハイブリッドにすると、どれほど価格は上がるの?
昨今は、軽自動車もコンパクトカーも車両価格はさほど変わらないが、軽自動車を選ぶユーザーは、コンパクトカーを選ぶユーザーとは、クルマに求めるものが違う。
昨今の軽自動車は、安全性能や走行性能、静粛性などが飛躍的に向上しているとはいえ、やはり同時期に開発されたコンパクトカーよりも劣ってしまうのは事実だ。
スズキは2015年に先代ワゴンRにSエネチャージを登場させて以来、小型車とともに軽自動車のマイルドハイブリッド戦略を積極的に展開
軽自動車のユーザーは、そういった性能よりも経済性や、室内の広さなどのプライオリティが高い傾向にあると考えられる。
そういったユーザーが集まる軽自動車には高額なフルハイブリッドシステムを採用しても、売れる見込みは少ない、と、メーカーは判断しているのだろう。
参考に、現在日本で売られているコンパクトカーの、フルハイブリッド車とガソリン車の価格差をまとめてみた(ハイブリッドは各メーカーとも上級グレードにあたるため、内外装に付加されるパーツも含む。そのため純粋なハイブリッドシステムの価格差ではないことは注意が必要)。
日産デイズ/ルークス、三菱eKシリーズともマイルドハイブリッドを搭載。量産効果によりコストダウンにも成功している
ハイブリッドグレードとなると、だいたい40万~50万円の価格アップであり、車両価格は25~33%も上がることになる。
フルハイブリッド車にするには、駆動源を切り替えるハイブリッドシステムや駆動用バッテリー追加だけではなく、強電ハーネスの追加、速度メーター変更、シフトノブ変更など、割と大幅な変更が必要だからだ。
安いクルマであるほど、この価格差のインパクトは大きい。
ガソリンモデルとハイブリッドモデルの価格を比較しているが、装備面などの違いもあるため、価格差=ハイブリッドシステムの価格ではないことに注意
いっぽう、「マイルドハイブリッド」の場合、スズキ ソリオ(HYBRID MX:182.27万円、27.8km/L(JC08燃費))の事例だと、ガソリン車とは25万円ほどの価格差となり、カタログ燃費は3.0km/Lほどの改善代と、価格向上代も燃費改善代も、ざっくりフルハイブリッドの半分程度となる。
ホンダは積極的にハイブリッドを設定していて、コンパクト用の2モーターハイブリッドのe:HEVを登場させたが、軽自動車に展開する気配はない
車種にもよるが、軽自動車は、コンパクトカーよりも燃費はいいので、燃費改善代はそれほど大きくなくてもいい。
そして、フルハイブリッドの半分程度の価格向上で、エコロジー(自然環境保全)をアピールできる。そのため、軽メーカーはマイルドハイブリッドを積極的に採用しているのだ。
ちなみに、ルークス/eKスペースのように、マイルドハイブリッドを標準搭載にしてしまい、部品種類を減らすことでコストを下げる、という戦略もある。
製造ラインを一本化(厳密には複数車種の混流ラインなので本当に一本ラインにはならないが)することで、余分な設備投資を避けられるのだ。
ダイハツはハイゼットカーゴにハイブリッドを設定していたが、2010年に販売低迷により販売中止。それ以来、軽自動車のハイブリッドからは撤退状態
軽自動車のEV化は求められているのか?
現在、市販されている軽規格のEVは、2018年に三菱i-MiEVが全長を3480mmに延長したことで登録車扱いになったため(編集部註:軽規格は全長3400mm以下)、三菱の軽商用車のミニキャブMiEVだけとなる。
前者は300万円を超える高級軽EV、後者は郵便局などでも活躍するお仕事用軽EVとして活躍している。
2010年4月から軽EVとして一般販売を開始したi-MiEVだったが、2018年に全長が3395mmから3480mmに延長されて軽規格をオーバーし登録車扱いとなった
現在日本で唯一の軽EVとなるミニキャブMiEV。価格は180万1800~219万100円。事業用のクルマとして活躍中
また日産も、過去に「ハイパーミニ」という軽EVを出してはいるが、やや実験車的なシティコミューターとして販売しており、量販向けの軽EV開発としては、昨年の東京モーターショーで発表した軽EVの「IMk」が、今後登場となる予定だ。
軽EVの成功のカギとなるのは、ずばり車両価格だ。EVの車両価格は、EVの航続可能距離、つまり駆動用バッテリーの容量に大きく左右される。
日産の電気自動車「リーフ」は、ユーザーから寄せられる要望へ応えるため、バッテリーを増加し続けてきた。
最新のモデルでは62kWhものバッテリーを積み、航続可能距離はWLTCモードで458km(JC08モードだと570km)も走るまでに対策をした。だがこれは、「ファーストカー」の代わりになろうとしたからだ。
「セカンドカー」として使われる方も多い軽自動車だと、ユーザーが求める声はちょっと違う。
リーフのように、ユーザーの声に引きずられ過ぎて、バッテリー容量の選定を見誤ることがあれば、高すぎる車両価格にユーザーは見向きもしないだろう。
ユーザーにとっては、エコロジー(環境負荷が低い)の前に、エコノミー(経済的)の方が重要だからだ。
IMkのボディサイズは全長3434×全幅1512×全高1644mmで軽規格をオーバーしているが、軽EVとして市販される期待の1台
筆者が考える「軽EV」の成功ラインは、ずばり、「200km走る軽EVを税込200万円で!」だ。この価格で軽EVを販売できなければ、成功は程遠い、とも考えている。
昨今、新車の車両本体価格が200万円以上する軽自動車は、決して珍しくない。おそらく、ユーザー側も軽EVが税込200万円ならば、「他の軽とほとんど価格が変わらない」と受け止め、選択肢の一つに加えてくれるのではないだろうか。そしてこの価格は、「達成可能」だと筆者は考える。
(まとめ)軽自動車の電動化は進むのか?
軽自動車のフルハイブリッド化の道は、おそらくだが、ない。しかし、軽EVが成功する可能性は高いと予測している。
軽EVにはEVのよさを生かせる使い方があるはずだ。
日常の足として、駅までお迎えに行く、近所のスーパーへ買い物に行く、ちょっとした荷物を運ぶ、バッテリーが減ってきたら急速充電機がある近所のコンビニに立ち寄ってから帰るなど、短距離をちょこちょこと使う用途には、小さな車体の軽EVはぴったりだ。
軽自動車よりももっと小さい、次世代モビリティと期待されている超小型モビリティはEVが主流で今後登場予定。写真はトヨタ超小型EV
ちなみに、使うたびにいちいちガソリンを入れて返す必要がないため、カーシェアリングとも相性がいいだろう。
今後、日産の軽EV「IMk」を皮切りに、あと2~3年のうちに、三菱の次期型MiEVや、その他のメーカーからも軽EVが出ると予測している。
新たな活路が見いだせそうな軽EVには、可能性がたくさん詰まっている。
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