この記事をまとめると
■ジャパンモビリティショー2023が開幕
完成するのはいつ? R35日産GT-Rが登場から10年以上も「改良」し続けるワケ
■日産ブースではHYPERで始まるネーミングのクルマ5台が公開された
■とくに注目を集めるHYPER FORCEについて関係者を直撃
走ることを前提に設計されたHYPER FORCE
記念すべき第1回、ジャパンモビリティショー。ステージの演出の上手さが印象的だった日産ブースだが、その舞台に相応しい華やかな話題を振りまいたのが、HYPERで始まるネーミングを与えられた5台、HYPER 5兄弟だった。
HYPER 5兄弟のうち、2台はバーチャル、3台はリアル展示となったが、そのなかでもプレスデー初日のお昼過ぎにアンベールされたHYPER FORCEの存在感は別格だった。なぜなら、それは誰がどうみてもGT-R一族の形をしていたから。でも、日産はそれをひとこともGT-Rとして謳わないし、その過激なイデタチをして単なるデザインスタディだろ、と片付けてしまうこともできたかもしれないが、そこで引いてしまってはツマラナイ。幸運にもHYPER FORCEのプロジェクトに携わった、日産自動車の成田剛史さんと日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社ニスモ事業所の山本義隆さんにお話を聞くことができた。
そもそもこのHYPER FORCEはどのようなコンセプトで企画がスタートしたのだろう。その問いに対して成田さんが口を開く。
「とあるサーキットの、とある超高速コーナーで最大グリップを発生するように設計してあります」。
返ってきたのはいきなり“走る前提の話”である。いかにもコンセプトカー然としたHYPER FORCEに対する見方が変わってくる。そのグリップの発生源は車体にあるのか、それともe-4ORCEなのか、そんな疑問が湧く。再び成田さんが答える。
「どういうパッケージだったらそのコーナーリング・スピードを達成できるのかという意味で、エアロダイナミクスが超重要です。でもそれだけではなくて、タイヤ、まずコレが基本ですね。そして次にそのタイヤをグリップさせるために車体を路面に押し付ける力、つまりダウンフォースとなってくるわけですが、具体的な数値は申し上げられませんが、最新のR35 GT-Rニスモの数パーセントとか数10パーセント増ではなく、“ウン倍”はダウンフォースが得られる設計になっています。ダウンフォースで車体を路面に押し付けてグリップ力を稼ぐのはもちろんですが、それに加えて、e-4ORCE、4輪独立制御でトルクベクタリングなどを含めて賢くマネージメントするというのが基本です」。
空気の流れと4輪のトルク配分を制御することによってコーナーリング・スピードが上がっていくということだろうか。成田さんが続ける。
「コーナーリング時に、少しでも内側より外側のタイヤにトルクをかけたら速く曲がれる、あるいはいずれかの車輪でスリップが始まったらトルクを落としてグリップが回復したらトルクをかけるということが車体を安定させるということはイメージしてもらえると思います。e-4ORCEはこの制御作業を1秒間に何十回と行うわけです。それだけではなく、コーナーリング中に車体がロールし、外側に荷重が持っていかれて内輪が浮き気味になると、内輪側のアクティブエアロが作動して空気の力でその浮きを抑え込む機構も備えています。コーナーリング中のグリップ力を最大化するのがこのクルマの一番の特徴です」。
つまり基本的なボディ造形、e-4ORCE、さらに可動式のアクティブエアロの3段構成でグリップ力を最大化させるというわけだ。必要に応じてダウンフォースを発生させる可動式のアクティブエアロは複数車体に組み込まれている。ニスモ事業部の山本さんによれば、さらに空力的な工夫が凝らされているという。
「HYPER FORCEにはアクティブエアロ以外にも空力ディバイスが備わっていまして、それが日産の特許技術のプラズマアクチュエイターというものになります。プラズマアクチュエイターは、車体表面を流れる空気が、表面の凹凸やアールを拾って剥離すると乱流が出現し、車体を押さえつける力が弱まってしまうことの対策として、電気的にプラズマを発生させて車体表面に空気を吸いつける機構です。これをコーナーリング時の外側の車輪側に作動させて、車体表面を流れる空気の剥離を抑制する、ということを複合的にやっています」。
プラズマアクチュエイターは、前後輪後方や、どうしても空気が剥離しやすくなるウィング下面部分などに仕込まれているという。ボディ全体でダウンフォースを稼ぐ設計をしていながら、さらにアクティブエアロとプラズマアクチュエイターでさらにダウンフォースを生み出し、ドラッグを減らす工夫を凝らしているというわけだ。
ところでこのHYPER FORCE、車体横には1000kWという数字が誇らしげに書かれているが、果たしてこれは現実的なものなのだろうか。成田さんが語る。
「1000kW、約1350馬力、今のGT-Rのほぼ倍ですよね。でもこれは本当に想定している数字。十分可能なものだと思っています。少々乱暴な話ですが、大きなバッテリーと大きなモーターを積めば、加速が良いクルマは簡単に作れるんです。ところがそれだけでは、たとえばポンとアクセルを踏むと“グイッ”とドライバーの首に負担がかかったり、ブレーキを踏めば“ガクッ”と止まるような、ギクシャクした動きになってしまう。なのでe-4ORCEで滑らかに加速して滑らかに止まるということを繊細にマネージメントして、その技術をスポーツの領域にまで最大活用しようというのがこのクルマの狙いになります。目指すのは異次元の加速と異次元のコーナーリングなのです」。
BEVのスーパースポーツは人間の手足に近くなる
話はゲーム画面のようなインパネが目立つインテリアにも及ぶ。成田さんが続ける。
「GUI(グラフィカルインターフェース)はR35のマルチファンクションディスプレイに続いてポリフォニーさんとの共同作業になります。このコックピットがイメージしているのはARとVR、リアルとバーチャルのシームレスな体験。簡単に言えばクルマの中でVRゴーグルをしてゲームが出来ますよ、ってことに近いのですが、僕らは、そのゲーム(VR)で得た知識とか経験を、現実世界も映し込んだ半透明のARゴーグル越しにフィードバックさせてみたいんです。たとえばVRで体験した理想のコーナーラインやVRで走らせたクルマをゴーストとしてAR上に表示するのも面白いでしょうし、VR中の自車と、リアルに今自分が走らせているクルマと対決することもできます」。
そうしたエンターテイメント的な側面に加えて、目指したのはもうワンステップ上のラインだとも成田さんは言う。
「映画『グランツーリスモ』の世界を連想してもらうと良いかもしれません。あれはゲームのトップレーサーを引き抜いて、実車のレーサーにするという実話に基づいていますが、そうなるとひと握りの人間にしか選ばれない。でも、このクルマを手に入れれば誰でも実際にそういったシミュレーションや体験が出来て、グッと垣根を下げて安全かつリアルにハードなスポーツ走行も出来ますよ、ってことを提案したいんです。とくにターゲット層となるジェネレーションZのマインドセット――スゴイ楽しい想いはしたいけど、リスクは採りたくない。リスクを最大限コントロールした上でのファンじゃなければ意味がない。それじゃないと馬鹿らしく見える――にも訴求出来たらなと」。
HYPER FORCEは圧倒的なコーナーリング性能、そしてARとVRのシームレスな体験を目指しているというのは、ここまでの成田さん、山本さんのお話からもお分かりいただけると思うが、もうひとつ、大きな柱があると成田さんは言う。
「安全性能です。とくに今の若い世代は良くも悪くも冷静で、ただバカッ速いクルマはくだらないクルマに思えてしまう。速いだけでは意味がないんですね。そこで出てきたのが、まわりのシチュエーションをクルマが理解して、クルマが自律的に判断して安全性を確保するという考え方ですね。頭脳をもって、運転している人の意志も理解するクルマ。話しかけたら会話もできる、TVドラマ『ナイトライダー』のK.I.T.Tみたいな設定にはなっていませんが(笑) 自動運転といったところまで含めて考えていきたいですね」。
ただそう聞くと、スーパースポーツに必要不可欠な“操る楽しみ”がスポイルされてしまうのではないか。その懸念に対する成田さんの見解はこうだ。
「自動運転は大前提としてあります。たとえばサーキットに走りに行くとなって、おそらく行きは自分で運転していくと思うんですよね。でも、サーキット走行後は疲れますし、帰りは寝たいとか、お茶しながらリラックスして帰りたいなんて要望に応えられたらそれも良いのではないでしょうか。もっと言えば、もし自動運転機構を備えなかったとしても、自動運転の技術ベースは、スポーツ走行時の安全性を担保するにも必要です。だったら自動運転もつければいい、という感覚です。つまり“操る楽しみ”を実現するのと自動運転は相反するものではないんです」。
またそもそもBEVのスーパースポーツに対して懐疑的な人たちにも伝えたいことがあると成田さんは言う。
「ガソリンエンジン車がなくなったら悲しくありませんか? という意見もよく耳にします。ガソリンエンジン車って何が良いのかっていったら、ハートが鼓動して熱を帯びてくる生き物や馬みたいな感覚、それを操るっていう喜びですよね。一方でEVは神経の延長みたいになる。自分の手足の先、あるいは手足そのものというか。アクセルペダルのフィーリングひとつとってみても、ガソリンエンジン車はそれ踏みこむと、回転があがってからトルクが立ち上がって加速するというタイムロスがありますが、モーターはポンと踏めばそこでトルクはMAXですからね。そういった意味でもっと人間の手足に近くなり、近づけやすいわけで、そこに新しい価値を提供できるようになると考えています」。
今回、インタビューをしながら、やや本流と外れた部分でいくつか質問したのだが、思わずニヤリとしてしまったのが、ボディサイドに貼られた金文字の「1000kW ASSB ADVANCED E-4ORCE」のステッカーがどうにもR30型スカイラインの「4VALVE DOHC RS-TURBO」のアレにしか見えないことについて尋ねたときの成田さんの回答だ。
「正解です!(笑) あと顔つきはR34 GT-R、フロントのエアダムの造形はスカイラインスーパーシルエットをオマージュしています。やはり過去の歴史には価値があると思うんです。このHYPER FORCEを見てスカイラインスーパーシルエットを知っているお客さんが興味を持ってくれるのはありがたいですし、過去に日産の人間が思いを入れて作ったものだから、そこに何かしらのヒントみたいなものがあるんですよ。それを現代流に解釈して作り直すっていうのは新興メーカーにはできなくて、歴史のある僕らだからできる。古くからのお客さんも大切にしたい、未来のお客さんだけじゃないよってメッセージを籠めています」。
HYPER FORCEをして、あくまでこれはデザインスタディであり、それを次期GT-Rだと騒ぎ立てるのは時期尚早という見方があっても当然だ。だが成田さんの言葉を信じるなら、このHYPER FORCEに次期GT-Rの姿を重ねてもいいのではないかと思えてくる。
「日産はこういった方向性に関しては本気です。僕らのDNAなんで。日本のメーカーでBEVのフィールドで戦い始めたのも日産が最初だって自負がありますし、欧州メーカーに対してガチンコ勝負でやるっていうマインドセットでやってきた思いっていうのは変わらないですね。皆さんに期待をもっていただきたいからHYPER FORCEを作ったんです」。
最後に成田さんにひとつだけ尋ねてみた。ではいったいHYPER FORCEをニュルブルクリンク北コース、何秒で走らせる気なのかと。
「ええ! それはさすがに申し上げられませんよ(笑) でも僕の心の中で思っているタイムはあります」。
さすがはやっちゃえ日産である。ラフなニュルの路面にへばりつくように走るHYPER FORCEの姿を見ることができるのはそう遠い未来ではないのかもしれない。
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みんなのコメント
本気か?販売もしないのに?
>>HYPER 5兄弟
ダサすぎてありえない・・・