■2億円の値札も! 欧州のヒルトリックカー事情とは
近年の自動車業界では古いクルマに人気が集まっています。その古さにもいくつかの種類が存在し、アメリカを中心に起きているのは20年から30年以上前の日本のスポーツカーなどが流行る「日本車ブーム」です。
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また、世界中ではポルシェの1973年式「911カレラRS」が、15年前くらいの中古相場500万円ほどだったのが現在では1億円の値が付いています。なぜ古いクルマの価格が上昇しているのでしょうか。
昨今、ドイツではネオヒストリックのクラシックカーの取引が盛んになっています。その理由にドイツでは製造から30年以上経っているクルマは、条件を満たせば工業文化遺産として認められ「Hナンバー」を取得でき、優遇税制が適用されることが挙げられますが、それにもまして現物資産の投資対象としての人気が高まっているという背景があります。この10年ほどでその取引価格は300%以上の伸びとなっています。
また、欧州自動車メーカーでは自社でクラシックカーをレストアする部門を設けているところが多く、そこでレストア、整備されたクルマはメーカーお墨付きということで、さらに資産価値が上がるという傾向にあります。
ドイツで開催されているフランクフルトモーターショー2019では、例年に比べて自動車メーカーの出展が減っています。会場のレイアウトも大きく変わったなかで、注目を集めたのがヒストリックカーのブースです。
今回、展示されたクルマは、1950年代後半から1970年代が主体です。そして、各車にはしっかりと値札がついています。
そのなかで最高値はメルセデス・ベンツ「300SL」です。1954年から1957年までの3年間、総生産台数は1400台という希少なクルマで、日本では俳優の石原裕次郎さんが人気絶頂期だった若き頃に乗っていたことで知られています。
現在の相場は、車両の程度によって違いますが、約1億5000万円から約2億円といったところです。このほか、会場内には1960年代から1980年代のポルシェ「911」や、ランボルギーニ「ミウラ」などのイタリアンスーパーカーの姿もあります。こうした欧州のヒストリックカーの価格が近年、上昇しています。
とくにメルセデス・ベンツは高値となっていますが その理由は大きくふたつあります。
ひとつは、自動車メーカー各社が自社内に、ヒルトリックカーのレストア部門を設けるようになり、レストアのベース車の需要が高まったことです。
もうひとつは、世界各地の富裕層が、既存の新型高級車に満足できず、古き良き時代の名車を好む傾向が高まったことが挙げられ、これらふたつの要素が重なり合うことで、ヒストリックカーの価格が高騰しています。
■世界有数のチューニングメーカーも本格参入
そうしたヒストリックカーブームの火付け役のひとつが、ドイツのブラバスです。
ブラバスといえば、1990年代にメルセデスのチューニングカーの販売で一世を風靡しました。ブラバス、ロリンザー、カールソンが御三家を呼ばれ、日本でも東京の六本木や大阪の新地あたりでは黒塗りのブラバスが数多く走っていたものです。
筆者(桃田健史)は当時、これら御三家のドイツ本社を頻繁に訪れ、自動車雑誌向けなどの取材をし、彼らの経営実態を詳しく見てきました。
そうしたなかで、2000年代半ば頃になると、富裕層はチューニングメルセデス・ベンツからベントレー、ロールスロイス、アストンマーティンなど、より価格の高いブランドに移行する傾向が高まりました。
また、ダイムラーとしてもチューニングブランドAMGを自社に吸収した後、ブラバスなど社外チューナーを凌ぐような大出力・大トルクの量産車を打ち出すようになったのです。
インテリアについても、ダイムラー本社が徹底したカスタマイズに対応するようになり、ブラバスのビジネスに少なからず影響が出ました。
このような市場変化のなかでブラバスは、メルセデスチューナーとしてはいち早く、ヒストリックカーのレストア事業を始めました。
レストアといっても、古いエンジンをそのまま修理するだけではなく、最新型エンジンに積み替えることも可能です。こうしたベース車を改造するという手法は「1990年代のハイパワーチューニングに通じるものがある」(ブラバス本社関係者)といいます。
今回の取材中も、中近東やインドからブラバスのヒストリックカーの商談に来た人たちを見かけました。ブラバス幹部がつきっきりで、技術的な説明をしていましたが、どうやら商談は無事まとまったようです。
ブラバスによると、最近の売れ筋は「280SL パコダ」(約3000万円)と「280SE 3.5カブリオレ」(約7000万円)。日本からの引き合いもあるといいます。
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