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なぜ「タイプR」じゃない? ホンダ「NSX」6年で歴史に幕! 新時代の電動スーパースポーツは成功したのか

掲載 更新 19
なぜ「タイプR」じゃない? ホンダ「NSX」6年で歴史に幕! 新時代の電動スーパースポーツは成功したのか

■いつの時代も新たなスーパーカーを目指した「NSX」

 いまから31年前の1990年、ホンダから1台のスーパースポーツが登場しました。それが初代「NSX」です。
 
 日本初のミドシップスーパースポーツとして開発され、オールアルミボディ、3リッターV型6気筒VTECエンジンなどの最新技術に加えて、スーパースポーツのパフォーマンスを「いつでも/誰でも/どこでも乗れる」というフレキシブル性が、NSXの車名を意味する「新しいスポーツカーの経験(New Sportscar eXperience)」のひとつでした。

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 ただ、発売当初から絶賛されていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。当時の自動車メディアの記事を振り返ってみると、「面白みに欠ける」、「官能性がない」、「普通すぎる」など。従来のスーパースポーツ像とは異なる初代NSXを素直に受け入れられない人も少なくはなかったようです。

 その後、1992年に「タイプR」追加、1995年に「タイプT」追加、1997年に1回目のビックマイナーチェンジ(エンジンを3.2リッター化)&「タイプS」追加、そして2002年のビックマイナーチェンジ(エクステリア変更)&タイプR(通称:02R)追加と、進化・熟成がおこなわれ、2005年に生産を終えています。

 それから10年後、2015年のデトロイトショーで2代目NSXが発表されました。初代NSXの考え方が世界のスーパースポーツのデフォルトとなった現在、2代目としてのNew Sporscar eXperienceは「スーパースポーツと電動化の融合」でした。

 それも単なる環境対応ではなく、「走りの楽しさをアシストする」という新たな挑戦です。その実現のためにメカニズムはすべて刷新されました。

 複合素材で構成されるスペースフレーム&ボディパネル、縦置きV型6気筒3.5リッター直噴ツインターボエンジン+リアモーターとフロント左右独立モーターを組み合わせる「スポーツハイブリッドSH-AWD」、アルミサスペンション&磁性流体式のアクティブダンパー、電動サーボシステムのブレーキなど、新たな武器が数多く盛り込まれています。

 それに加えて、「LPL(開発責任者)はアメリカ人のテッド・クラウス氏」、「アメリカのR&Dチーム主導で開発」、「オハイオ工場で生産」と新しい試みもおこなわれ、日本では2016年8月に発表および受注開始し、2017年2月に発売されました。

 当時、筆者(山本シンヤ)は、500psオーバーのスーパースポーツながら、視界の良さや一般道での扱いやすさは初代のDNAをシッカリと受け継いでいましたが、複雑な制御を採用するが故にサーキットなどでのスポーツ走行時にドライバーの操作とクルマの動きがリンクせずドキッとする状況もあり、ハード/ソフト共に熟成が必要だと感じたのも事実です。

 その辺りは開発陣も認識済みで、2019年におこなわれた1回目の大きな改良でシッカリと手が入りました。

 見た目は間違い探しレベルの変更ですがフットワーク系はすべて見直し。その結果、限界性能やコントロール性アップはもちろん、それ以上にドライバーとクルマの一体感、操作に対する動きの繋がりといった「ドライビングプレジャー」の部分は「別物か!?」というくらい洗練されました。

 ハードウェアの能力を使いこなせるようになったことや、いい意味で制御を感じさせない自然なフィーリングになったことなどから、ドライバーとクルマの信用関係が増したと感じました。そういう意味では、「機械に血が通い始めた」といったイメージです。

 じつは2019モデルからからLPL(開発責任者)は水上聡氏に変更され、開発も日本中心におこなわれるようになりました。

 この辺りは重箱の隅を突くこだわりや領域を超えておこなう“擦り合わせ文化”を特徴とする日本の血がより色濃くなったといえるでしょう。

■最終モデルで究極のNSXが登場! なぜ「タイプR」じゃない?

 そんななか、2021年8月30日に2回目の大きな改良がおこなわれました。注目は2代目NSXの集大成となるスペックが与えられた特別なモデル「タイプS」の設定です。

 世界限定350台でその内の30台が日本向けとなっており、価格(消費税込)は2794万円。9月2日より購入申し込みを開始し、2022年7月に発売予定となっています。

 開発コンセプトは「NSXを極める」ですが、一体どのようなモデルなのでしょうか。

 そもそも、日本人的には「NSXを極めるなら、タイプRなのでは?」と思う人も多いでしょう。

 ちなみに日本では「ホンダ NSX」として発売されていますが、北米ではホンダのプレミアムブランド「アキュラ NSX」として発売されています。

 そんなアキュラブランドのパフォーマンスモデルは「タイプS」の名で統一されているので、NSXもそれに準じているのでしょう。

 ちなみに初代NSXは「サーキットベスト」のタイプR、「ワインディングベスト」のタイプSがラインナップされていましたが、2代目NSXタイプSのキャラクターは「その間」という感じでしょうか。

 パワートレインは3.5リッターV型6気筒直噴ツインターボ+リアモーター+フロント左右独立モーターの「スポーツハイブリッドSH-AWD」は不変ながらも、エンジン/モーター共に専用チューニングがおこなわれています。

 具体的にはエンジンはターボチャージャー過給圧5.6%アップ、インジェクター燃料噴射量25%アップ、インタークーラー放熱量15%アップなどにより+22ps、+50Nmアップの529ps/600Nm。

 モーター部はインテリジェントパワーユニット(IPU)のバッテリー出力10%アップ、バッテリー使用可能容量20%アップで約7psアップに加えて、ツインモーターユニットの20%ローレンジ化もおこなわれ、その結果、システム出力は581ps/646Nmから610ps/667Nmに引き上げられています。

 絶対的なパフォーマンスはもちろん、よりレスポンシブ、よりスムーズになったことによるドライバビリティ向上なども期待できるでしょう。

 さらに官能性能の部分もインテークサウンドコントロールとアクティブサウンドコントロール(ASC)の最適化をおこなうなど抜かりなしです。

 トランスミッション(9速DCT)も手が入っており、さらなるシフトスピードアップやより滑らかなシフト制御に加えて、新たに減速側パドル長押し(0.6秒)で瞬時に適切なギアにシフトダウン可能な「パドルホールド・ダウンシフト」を採用。より小気味よく、よりリズミカルになっていることを期待しましょう。

 加えて、2代目NSXの特徴のひとつである、走るステージに合わせて4つのモードが選択可能なIDS(インテグレーテッド・ダイナミック・システム)の制御も変更され、各モードのキャラクターがより明確になっているといいます。

 また、パワートレインの出力アップに合わせてフットワーク系もシッカリと手が入っています。

 ミリ秒単位でクルマのロール/ピッチング方向の減衰力を制御する磁性流体式の電子制御アクティブダンパー(BWI製)は減衰特性の見直しに加えてパフォーマンスレンジのアップを実施。

 足元はグリップ性能を引き上げたNSX専用設計となるピレリP-ZERO(フロント:245/35R19、リア:305/30ZR20)、と5本スポークの軽量鍛造ホイールの組み合わせです。

 ちなみにホイールのインセット変更によりワイドトレッド化(フロント:+10mm、リア:+20mm)もおこなわれており、限界性能とコントロール性アップにも寄与しています。

 エクステリアは視覚と機能を両立させる「パフォーマンスデザイン」を採用。フロントマスクはロー&ワイドかつアグレッシブな造形に変更。

 スーパースポーツにしては優しさがあったノーマルに対してわかりやすい強さがプラスされたように感じますが、世界のライバルたちに寄せた感が否めないところもあります。

 センター/左右の開口部拡大は冷却性能アップのため、バンパーサイドの造形はリアインタークーラーへの流速を向上させる効果があるといいます。

 開口部拡大はエアロダイナミクス低下に繋がりますが、新たに追加されたフロントリップスポイラーとそれに合わせて形状を最適化したリアバンパーのディフューザー形状の最適化も相まって、むしろ引き上げられているそうです。

 ちなみにヘッドライト・テールライトハウジングやアルミホイール、ドアミラー、ドアノブ、エキゾーストフィニッシャーなどはピアノブラック/カーボンで統一されタイプSの世界観を演出。ボディカラーはイメージカラーとなるカーボンマットグレー・メタリック(新色)をはじめとする全10色を用意しました。

 インテリアは刺繍が施されたシート(NSXロゴ)やグローブボックス(タイプSロゴ)など細部の変更に留まりますが、専用インテリアコーディネイト(レザー×アルカンターラ:3種類、フルレザー;2種類)が用意されており、特別なNSXに仕上がっています。

 もちろん、ノーマル同様にカスタムオーダーも用意されており、カーボンセラミックブレーキやカーボンエンジンカバー、インテリアスポーツパッケージなどが選択可能です。

 その走りの進化は試乗するまで結論は出せませんが、開発責任者の水上聡氏に話を聞くと「とにかく乗っていただきたい。自分でいうのもアレですが、凄くいい仕上がりです」と語っています。

■2代目NSXは成功したとはいえないが、挑戦したことは評価

 ただ、残念なのは、タイプSが2代目NSXのファイナルモデルであることです。「S660」や「レジェンド」「オデッセイ」「クラリティ」とホンダの生産中止が続くなか、「NSX、お前もか」と思ってしまうところもあります。

 ビジネス的に見ると、2021年7月の時点で世界生産台数2588台、そのうち日本向けは464台。そんな現実を突きつけられてしまうと、正直何もいえません。

 15年というロングライフとはいえ世界生産台数約1万8000台を販売した初代に対して、2代目が不振だった要因は価格設定を含めて色々あったと思いますが、恐らくハードやソフト云々だけでなく、シンプルで軽量がウリだった初代とのギャップが大きい2代目を受け入れたくないという人も多かったように感じられます。

 では、初代が掲げたコンセプトを継承した2代目だったら成功していたのでしょうか。筆者はそうは思っていません。

 初代NSXの考え方は、いまではどのスーパースポーツも採用しており、その延長線では「New Sporscar eXperience」は得られないと思っています。

 そういう意味では、2代目NSXはNew Sporscar eXperienceのために従来の枠に囚われない挑戦をおこなったといえないでしょうか。そこに関してはシッカリと評価するべきだと思っています。

 その結果、フェラーリ「SF90ストラダーレ」や「296GTB」、マクラーレン「アルトゥ-ラ」、そしてポルシェ「タイカン」など、スーパースポーツの世界に電動化の波は来ています。

 ただ、その世界を自ら切り開いておきながら、その時代にNSXは生産終了という皮肉さ。

 ちなみにNSX タイプSのプレスリリースの最後にはこのように記されています。

「継承されるチャレンジングスピリット
 新時代に向けた新たなチャレンジ

 ホンダは、NSXで培った人材、技術などを今後のクルマづくり、モノづくりに生かすことで、来たる電動化や新たな価値を持ったモビリティの中でも、お客さまに引き続き『走る喜び』『操る喜び』を提供していくべく、チャレンジしていきます。

 最後に、NSXを愛してくださった、すべての皆さまに心より、感謝いたします」

※ ※ ※

 2016年の発表から6年で2代目は幕を下ろすことになりましたが、個人的には、3代目NSXは電動化を目指すホンダの頂点を体現するモデルいや、それでは当たり前すぎるので、我々を「おっ、そう来たか!」と驚かせてくれるモデルとして登場して欲しいです。

 再び「新しいスポーツカーの経験」ができる日を楽しみにしています、気長に待ちますので。

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みんなのコメント

19件
  • NSXはあまりにも重量と価格が大きくなり過ぎた。今初代と二代目どちらかをあげると言われたら初代を選ぶ。初代のコンセプトを継ぐなら最後のガソリンエンジンV10で正常進化のNSXにして欲しかった。現NSXはアメリカで企画しアメリカ市場を意識し、アメリカで生産されたアメ車である。
  • 初版の4輪駆動力配分が悪く、そこで走りの評価が決まってしまった。
    ホンダのソフト作りはその前のフィットHV(3代目)のi-DCD制御、シビックタイプR(FK2)のトラクションコントロールでも酷評を受けている。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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