OPELのデザインチームを率いるマーク・アダムス氏に独占インタビュー。新しいデザイン・アイデンティティーである「バイザー」が誕生した経緯から、「バイザー」フェイスに隠された意外な機能、ジャーマン・デザインの神髄、モダンジャーマンの定義までじっくり聞くことができた。最新のOPELデザインには、カーデザイナーとしての豊富な経験と深い洞察力、そしてアダムス氏自身のこだわりが詰まっていた!
近年のオペルは、GM傘下だった頃と比較して、とてもドイツらしく、個性にあふれている。この本で紹介している最新モデルを見てもらえば、理解していただけるだろう。
奥が深い!?アウディ車に採用されている「典型的なステアリングフィール」とは?
今回、独占インタビューが実現したオペルのチーフデザイナー、マーク・アダムス氏は、オペルがGMからグループPSA(現・ステランティス)へ移行する最中の2013年8月にデザイン部門のトップに就任。その後オペルのデザインは大きく変化している。
まずはアダムス氏がオペル車をデザインするうえで、重要視している点について聞いてみた。
「最も重視しているのは、〝エキサイティング〟〝ジャーマン〟〝アプローチャブル〟の3点です。ワクワクするようなルックスで、ドイツ的であり、手頃な価格とする、ということですね。シンプルであることも重要です。〝ボールド・アンド・ピュア(大胆かつ純粋)〟であるように、スケッチレベルから常に考えています」
アダムス氏は、英国・ロンドン出身で、地元ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートでカーデザインを学び、フォードでキャリアをスタート。その後は長くGMでオペルやサーブ、キャデラックなどのデザインを手がけた。つまり過去にもオペルのデザインに携わった経験を持っている。現在のオペルのデザイン部門にはどんな印象を持っているのだろう。
「リュッセルスハイムにある現在のオペルのデザインチームは、とても優秀で、メンバー全員がパッションにあふれています。デザイナーの出身国は20か国で、とてもインターナショナルなチームです。日本人デザイナーも在籍しています。すばらしいチームに携われることは、私にとって大きな喜びです。現在のチームは、カスタマーが求めているものを重視していて、〝エキサイティング〟〝ジャーマン〟〝アプローチャブル〟についても、時間をかけて考えています」
「OPELの新しいフロント・アイデンティティー」として、フロントフェイスのレンダリングが紹介されたのが2018年7月。その後、現在の『MOKKA』のスタディーとなる「GT X EXPERIMENTAL(写真上段)」の発表と同時に、「バイザー」という呼称もアナウンスされた。当時の資料には、「バイザー」は、「将来のすべてのモデルの新しいフェイスのための特徴的なデザイン」であると説明されている。アダムズ氏は、今回のインタビューで「実は『MANTA』の一部からインスパイアされて生まれたもので、〝ボールド・アンド・ピュア〟に見せることを突き詰めた結果です」と語っている。市販モデルには、2020年9月に発表された、『MOKKA』で初採用となっている。アダムス氏によれば「あのタイミングは意図的だった」という。
進歩的でモダンに変化するドイツ的な美意識を
モダンジャーマンなオペルのデザインに反映
2012年に発売されたコンパクトカー『ADAM』の模型とアダムス氏。『ADAM』は、個性的なツートーンのボディーカラーで注目を集め、OPELを復活に導いたヒット作。現在のツートーンはここからスタートした。
マーク・アダムス氏は、InstagramでもOPELデザインの魅力を発信している。コンセプトカーや市販モデルのデザイン、過去の名車と最新モデルのデザイン的な関係などを写真や動画で解説。デザインスタジオの様子も紹介。アカウントは「opelvauxhalldesign」。
イメージの源になるものは何なのだろうか?
「いろんなものからインスパイアされます。デザイナーは誰もがそうです。建築、家具、生物、自然はイメージの大きな源泉です。もちろん過去のオペルからもインスパイアされます。オペルは歴史的にリッチで、特に1960年代以降のモデルには、現代のカーデザインのヒントになるものがたくさんあるのです」
「バイザー」フェイスも、過去のオペルをヒントに生まれた。
「誰もが知っているオペルの名車『MANTA』の一部にインスパイアされて生まれたのが〝バイザー〟です。ジャーマン・ブランドとしての〝ボールド・アンド・ピュア〟を突き詰めた結果、ノーズを縦に通るプレスラインと水平のラインに、2009年の『INSIGNIA』から用いられているウイング状のライトシグネチャーを組み合わせました」
この「バイザー」が、単なる意匠ではないという点も興味深い。
「実は技術的な要件を満たすためにも〝バイザー〟は大きな役割を果たしています。近年の自動車は、カメラや様々なセンサー類を搭載する必要があり、フロントマスクがとても複雑化しています。しかし〝バイザー〟フェイスはそれらをうまく内側に隠しています。オペルらしさと、シンプルでスムーズな造形を両立しています」
〝オペルらしさ〟の中には〝ドイツ的〟という要素も欠かせない。
「ジャーマン・ブランドであることは、非常に重要です。良いジャーマン・デザインはシンプルで、〝良い構成〟と〝良いプロポーション〟を持っています」
しかしオペルはステランティス・グループの一員で、プジョーやシトロエン、DSオートモビルと基本設計を共用している。かつてGM時代のオペルは、『CHEVROLET』や『BUICK』『GMC』『PONTIAC』『SATURN』などと車体やパワートレーンを共用することが前提で、デザインも不自由だった。現在はデザインに制約はないのだろうか?
「その点については問題ありません。実は年に1回、ステランティス傘下ブランドのチーフデザイナーが集まり、各ブランドの方向性を、いかにかぶらないようにするか、またいかにそれぞれのキャラクターが曖昧にならないようにするか、話し合っています。その内容をチームで共有し、その後の方向性を固めるのです。ステランティスには14以上のブランドがあります。その中でオペルは唯一のジャーマン・ブランドとしてのユニークネスを持っている必要がある。グループ内にブランドが多数あると、ビジネスとしては合理性を追求しがちですが、我々はそれぞれのブランドが多様性を持っていることを重視しています」
近年のオペルは、ツートーンのボディーカラーを採用したモデルが多い。アダムス氏は、この点についても答えてくれた。
「ツートーンは、実は『MANTA』にもありました。温故知新です。いわゆる典型的なドイツ人の色使いはあると思いますが、最近はその傾向も変化していて、色使いに反映させています。なので自信を持ってモダン・ジャーマンな色使いを提案しています」
カジュアルな雰囲気も現在のオペルの大きな魅力だ。
「オペルは堅苦しいブランドではなく、オープンでフレンドリー、アプローチャブルなブランドです。私自身も堅苦しいものは好きじゃない。ノータイできれいなジーンズをはくような、現代のクールなドイツを表現したクルマをデザインしたいと思っています」
そんなアダムス氏は、個人的に特別なモデルに、ランボルギーニ『MIURA』とアウディ『TT』を挙げた。
「ミッドシップ・スポーツカーの『MIURA』は、とてもピュアで機能的。わかりやすさはオペルと共通する部分だと思います。初代『TT』にはリスペクトと憧れを抱いています。それ以前と以後でブランドイメージをガラッと変えました。オペルも今はターニングポイントにいます。だから私は未来を見据えてデザインに取り組んでいます」
日本に対する思いも聞いてみた。
「日本はとても文化レベルが高いのでリスペクトしています。シンプルで清楚なものは日本人に合うと思うので、我々のモダン・ジャーマンも日本で受け入れてもらえると信じています」
アダムス氏に話を聞くと、見事なまでにデザイン・コンセプトとアダムズ氏自身の個性が、現在のオペルで表現されていると感心させられた。未来のオペルがどんなデザインに進化するのか、期待せずにはいられない。
アダムズ氏のフェイバリットカーは、ランボルギーニ『MIURA』とアウディの初代『TT』。ヨーロッパで最初に「スーパーカー」と呼ばれた、1966年デビューの『MIURA』は、マルチェロ・ガンディーニによる極めて斬新でエモーショナルなデザインが、アダムス少年に鮮烈な印象を与えたことだろう。1998年に登場した初代『TT』は、米国人デザイナーのフリーマン・トーマスが手がけ、その円のモチーフを反復した独創的なデザインは、業界を超えて世界中に大きな影響を与えた。
Profile|マーク・アダムス
正確な肩書は「デザイン担当副社長(Vice President Design)」である、OPELのチーフデザイナーのアダムズ氏は、1961年12月11日生まれの60歳。出身地のロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートでカーデザインを学び、フォードでデザイナーとしてのキャリアをスタートし、5代目『FIESTA』などのデザインを手がけた。2002年にGMへ移籍し、オペルに新設されたエクステリア・デザイン・ディレクターに就任。OPEL全モデルのエクステリア・デザインの責任者となる。その後、2007年にGMヨーロッパのデザイン担当副社長となり、ドイツ・リュッセルスハイムにGMヨーロッパ・デザインセンターを設立。OPELのほかサーブやサターンのデザインも担当した。2012年にはキャデラックとビュイックのデザイン担当取締役となったが、2013年にOPELへ復帰。その後は「オペル・デザイン2.0」と呼ばれるほど、革新的なデザインを生み出し続けている。
取材・文/竹花寿実
160年の歴史を持つオペルのすべてがわかるブランドMOOK「&OPEL 未来を創るクルマ。」発売中
1862年の誕生以来、不断の進化によっていつの時代も時代も最先端のポップカルチャーであり続けたOPEL。そのブランドDNAとその魅力を、チーフデザイナーへのインタビューや歴史的名車の検証などをもとに解き明かすムック本「&OPEL」が発売されました。
ドイツの自動車メーカーOPELは、160年の歴史を持つ老舗ブランドです。日本との縁も深く、戦前から輸入され、2006年までは日本国内でも販売されていたので、ご存じ方はもちろん、実際に乗った/所有したことがある方も多いのではないでしょうか。
そして今、OPELが再び、日本に上陸するといわれています。今度、日本にやって来るOPELは、私たちがしばらく見ないうちに、すばらしくモダンで、ポップな佇まいに変身していました。ドイツ車としての信頼感と堅実さはそのままに、ガジェット感あふれるデザインやカラーリングからは、「どんな人生を愉しみたい?」と、クルマが語りかけてくるようです。そんな、ニュー・ジャーマン・カーで実現するライフスタイルのテーマは「リラックス」。
本書では、暮らしをアップデートするモダンジャーマンなクルマづくりの魅力を、160年の歴史とともに余すところなく、紹介します。
160年の歴史を持つオペルのすべてがわかるブランド大図鑑
『&OPEL(アンドオペル) 未来を創るクルマ。』
定価1650円(税込)A4変形判/132ページ
小学館刊
https://www.shogakukan.co.jp/books/09104254
■本書のコンテンツ紹介
PART 1 OPELが提案するRELAX LIFE
●人気モデル「CORSA」「MOKKA」「GRANDLAND」徹底解剖!
PART 2 Pop&Future! OPELの秘密
チーフデザイナー・Mark Adams インタビューファッションデザイナー・Marcel Ostertag インタビュー「ASTRA」「MANTA」「COMBO LIFE」最新モデルの魅力OPELと相性抜群のライフスタイル名品セレクションPART3 Just like an OPEL
注目のクリエイターが語るNEW OPELの魅力アンバサダーを務めるリバプールFC監督・ユルゲン・クロップ氏とOPELPART 4 ドイツから特報!元気なOPEL
「MOKKA」「CORSA-e」「GRANDLAND」現地試乗レポート詳報オペルCEO Uwe Hochgeschurtz氏インタビューPART 5 Republish of Historic car impression
革新的な挑戦を続けてきた自動車ブランドOPELの歴史
老舗自動車専門誌の編集者が語るOPELの魅力OPEL in Motorsports「CORSA」「ASTRA/KADETT」「VECTRA」「OMEGA」「SPEEDSTER」「GT」「MANTA」「CALIBRA」「ZAFIRA」PART6 「&OPEL」 Square
FUN collectionOPEL FUN in JapanOPEL Engineering HistoryLogo transition of OPELOPELディーラーの斬新なCI【オンライン書店で購入する】
Amazonで購入する
www.amazon.co.jp/dp/4091042546
楽天ブックスで購入する
https://books.rakuten.co.jp/rb/16892406/?l-id=search-c-item-text-02
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
四国と関西をつなぐ「紀淡海峡大橋」はいつできる? 新たな本四連絡橋で関西圏に環状道路網の誕生なるか。
既存モデルの新車の「バックカメラ」が5月から義務化されます 本当にバック事故対策になるのでしょうか?
ホンダ 新型「プレリュード」まもなく復活!? 次期型“流麗クーペ”は「デートカー」それとも「スポーツカー」? 歴代初の「タイプR」登場はあるのか
かつて全盛だった「ステーションワゴン」なぜ人気低下? 国産ワゴンは絶滅寸前!? それでもワゴンが良い理由とは
ホンダのスゴい「新型軽バン」発売延期! 「100万円台」なるか 斬新「前後2人乗り」で注目も! 6月に価格発表、どんな声集まる?
みんなのコメント
万年傘下という立場。
結局は親会社の都合に流されっぱなしで、
たとえ昔のオペルの話を持ち出しても
今のステランティスとは全く無関係。