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ディーラーはなぜ「クルマより保険」を売りたがるのか? 「5台売っても意味ない」──顧客を縛る“見えない鎖”の正体とは

掲載 更新 43
ディーラーはなぜ「クルマより保険」を売りたがるのか? 「5台売っても意味ない」──顧客を縛る“見えない鎖”の正体とは

新人営業を悩ます評価制度

「保険って、営業成績にカウントされるんですか?」

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自動車ディーラーの営業現場で、新人が最初に抱く疑問のひとつである。筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)もかつて同じことを思った。入社直後、とにかくクルマを一台でも多く売ればいいと考えていた。しかし、現実はまったく異なっていた。

 いまやクルマと保険は切り離せない関係にある。むしろ、場合によってはクルマを売ること以上に、

「保険の提案・獲得のほうが重要」

とされるケースもある。本稿では、筆者の実体験をもとに、自動車保険と営業活動の関係についてリアルに掘り下げていく。

保険を売った方が歩合率が高い現実

 ディーラー時代に驚いたのが、自動車保険の歩合の高さだった。筆者が勤務していた当時、たとえば200万円の新車を1台販売しても、営業マンに入るインセンティブは1万円。クルマの価格が100万円でも500万円でも、1台は1台。報酬の額は変わらなかった。一方で、自動車保険を新規契約してもらえれば、それだけで高額な報酬がつくことがあった。

 とくに記憶に残っているのが営業2年目のある月だ。新車販売は2台。保険の新規契約は7件。クルマのインセンティブは合計2万円に過ぎなかったが、保険の報酬は10万円を超えていた。このとき、ふと思った。

「あれ、保険のほうが稼げるのではないか」

 営業マンのなかには、保険を取るためにクルマを売っていると冗談めかしていう者もいた。実際、それくらい保険は営業にとって“うま味”のある商品だった。

 保険会社と提携している以上、ディーラー本社が保険営業に注ぐ力は非常に大きい。筆者が勤務していたディーラーでも、

・月◯件の新規契約
・継続率〇〇%以上

といった具体的な数値目標が設定されていた。当然ながら、これらは営業マンの評価に直結する。

 ある月、筆者は5台のクルマを販売した。週に1台ペースで売ったことになり、当時の若手としてはまずまずの実績だった。しかし、新規の保険契約はわずか1件。翌月の朝礼で、上司からこういわれた。

「5台売っても、保険が1件なら意味ないからな。もっと取らないと認められないぞ」

誇張でも何でもない。実際にいわれた言葉である。新人の頃には、販売実績に満足していた矢先、保険契約ゼロを理由に営業会議で厳しく指摘されたこともある。そうした場では「何台売ったか」よりも「何件取ったか」が重視される。保険の数字がすべてといっていいほどの空気がある。

 このような環境では、どうにかして保険を取らなければというプレッシャーが常につきまとう。他社で保険加入している顧客にも、保険証券のコピー提出をお願いする場面が日常的だった。ときには、顧客の気持ちよりもノルマ達成を優先せざるを得ない状況に追い込まれることもあった。

保険は最強の「囲い込み」ツール

 営業マンが保険に力を入れる理由は、報酬やノルマだけではない。保険は顧客を自社に引き留める囲い込みの手段でもある。

 いったんディーラーで保険契約を結んでもらえれば、その後の事故対応や車検、点検のタイミングでも自社を頼ってもらえる可能性が高まる。とくに、

「事故の際にすぐ動いてくれた」
「保険の相談に丁寧に乗ってくれた」

といった実体験は、顧客との信頼関係を築くうえで非常に大きな意味を持つ。信頼が深まれば、次の買い替えでも他社へ流れるリスクを抑えられる。さらに、良好な関係が続けば、新たな顧客の紹介にもつながりやすい。

 保険は、顧客と営業マンの関係を長期的に維持し、拡大していくための重要な接点だ。いわば、顧客との関係を強固につなぐ“鎖”のような存在である。

保険料に揺れる現場のリアル

 クルマより単価は低いが、保険契約の獲得は決して簡単ではない。顧客の多くは、長年付き合いのある保険代理店を通じて契約している。なかには、団体保険などの割安なプランに入っているケースも少なくない。

 当時からネット型保険を利用している人も多く、年間で数万円安くなる商品もあった。こうした状況で「うちのディーラーで入り直してくれませんか」と提案するのは、ためらいを覚える場面も多かった。

 ディーラーでは大手損保の商品を扱い、メーカー系ならではの無料特典もある。しかし、純粋な保険料で比較すれば、ネット型には価格面で太刀打ちできない。筆者も何度も悩んだ。保険証券のコピーを預かり、見積もりを作って丁寧に説明しても「高いね」といわれ、断られる。契約が取れずに月末を迎えると、胃が締めつけられるような日々が続いた。クルマが売れなければ責められ、保険が取れなければ同じように責められる。あるときは、顧客から

「いい加減しつこいよ」

と怒鳴られたこともある。そんな場面では

「事故対応から修理までひとつの窓口で完結できます」
「顔の見える相手に任せた方が安心です」

と必死に説得した。理屈ではなく、もはや感情に訴えるしかなかった。その言葉が本心だったのか、ノルマのためだったのか、今となっては曖昧だ。正直にいえば、現在の筆者はネット型保険に加入している。同じ補償内容なら、少しでも安い方を選びたい。それが利用者としての本音である。

 現場を離れ、ファイナンシャル・プランナーとして活動するようになってから、当時の自分が何をしていたのかわからなくなるときがある。どこまでが顧客のためで、どこからが自分のためだったのか、その境界は今もはっきりしない。

年収左右する一件の保険契約

 ディーラーの営業担当が保険を勧める背景には、いくつもの事情がある。

・生活のための収入
・会社からの厳しいノルマ
・将来の営業効率を見据えた顧客の囲い込み

そうした思惑が複雑に絡み合っている。

「押し売りのように感じた」と振り返る人もいるだろう。だがその裏には、評価が下がる、給料が減る、次回の来店につなげたいといった営業側の切実な事情がある。

 もちろん、営業担当の立場ばかりを擁護するつもりはない。ただ、本稿を読んだ誰かが次にディーラーで保険の話を受けたとき、

「あの人たちも苦しい立場なんだな」

と少しでも感じてくれれば、現場にとっては大きな支えになるはずだ。(宇野源一(元自動車ディーラー))

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みんなのコメント

43件
  • adi********
    自動車保険が高い理由だね
  • dar********
    車は色々なメーカーの車を買い替えていくが、自動車保険は一つの保険会社で変えない人がいる。保険をディーラーで契約すると、車を別のメーカーに買い替えた時に保険だけ前の会社に残すのも不便だし、また新しいディーラーに移すのも面倒だし、保険を動かしたくないと言う人の気持ちもわかる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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