欧州勢退潮とスズキ旋風
2025年4月のブランド別輸入車ランキング(日本自動車輸入組合=JAIA発表、5月8日)で、かつてない異変が起きた。これまで上位を占めてきた欧州勢に代わり、スズキが初めて首位となった。3位にはホンダが入った。
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注目すべきは、日本メーカーの「逆輸入車」の台頭である。海外で生産され、日本国内に輸入・販売される日本車の台数は増加を続けている。2025年1月から4月までの累計で3万3383台。前年同期の約1.6倍に達した。
スズキはインドで生産する「フロンクス」と「ジムニーノマド」の2車種を輸入している。とくに、2025年4月に販売が始まったジムニーノマドの伸びが顕著で、これが台数急増の要因となった。
本稿では、インド製自動車の輸入が加速する背景を探る。その動きが国内自動車産業にもたらす構造的な意味合いと、国産体制の限界・可能性について考察する。
輸入車市場を揺さぶる83倍増
2025年4月のスズキの輸入台数は3990台。前年比で約83倍という異例の伸びを記録した。首位獲得の原動力となったのは、新型車「ジムニーノマド」の登場である。
スズキは1月30日にジムニーノマドの先行予約を開始。わずか4日で約5万台を受注した。月間販売計画の1200台を大きく上回る注文が殺到し、現在は新規受付を停止している。7月からは月産約3300台に増産する予定だ。受注残の早期納車を図り、再び予約受付を再開する見通しである。
一方、輸入車の上位常連である欧州勢は、前年比2~3割の増加にとどまった。2025年4月の新規登録台数は、メルセデス・ベンツが3202台、BMWが2575台、フォルクスワーゲンが1986台。いずれもスズキを下回り、同社が初の首位に躍り出た。
円安追い風に増すコスト優位性
ジムニーノマドは、インドのグルガオンにあるマルチ・スズキ・インディアの工場で生産されている。スズキが同地に進出したのは1982年。インド国営企業マルチ・ウドヨグと四輪車の生産・販売契約を結んだのが始まりだ。以来40年以上、スズキはインド市場での挑戦を続けてきた。
インドはスズキのグローバル戦略の中核を担う市場である。売上高の約4割を占め、販売台数では世界全体316万台のうち過半数がインド市場による。2025年2月にはカルコダ工場が稼働を開始。さらにグジャラート州の新工場も2028年度中の稼働を目指している。これにより年間生産能力を400万台規模に引き上げ、インド国内でのシェア50%を目標とする。
スズキはインドの成長市場に対応するだけでなく、グローバル輸出拠点としての機能も強化している。2024年度にはアフリカ、中東、中南米を中心に、インドから約33万台を輸出した。加えて、現地調達比率の向上やサプライチェーンの整備を進める。日本からのエンジニア派遣や技術支援を通じ、インド工場の生産技術の底上げも図っている。
円安も追い風となっている。インド生産は輸送費や税制面でコスト競争力が高く、日本国内での販売に優位に働いている。今後も円安基調が続けば、国内生産では実現しにくい価格競争力を長期的に維持することが可能になる。
国内5.4万人雇用喪失懸念
インドではスズキやホンダが積極的に事業を展開している。スズキは新たなグジャラート工場の建設に約6000億円を投資。加えて、電気自動車(EV)や車載電池の生産にも1500億円を投じる。2031年までに総額1兆2000億円規模の投資を見込んでいる。
一方、ホンダはインドやアジア圏での拠点強化を進める。ただし、日本国内での新規投資は報じられておらず、既存設備の維持にとどまる見通しだ。
こうした海外展開の加速は、日本国内における新規雇用創出の力を弱めるおそれがある。第一生命経済研究所の試算によれば、トランプ政権による関税発動で国内自動車生産が1割減少した場合、5万4000人分の雇用が失われる可能性がある。
さらに、地方に点在する工場の再編や統廃合が進む可能性も否定できない。この動きは自治体経済に直接影響し、地域経済の毀損につながるリスクがある。
国内生産神話の崩壊
日本が抱える少子高齢化や都市部への人口集中は、国内需要の先細りを招く構造的要因となっている。地方では自動車が生活必需品であるため一定の需要が残るが、若年層のクルマ離れが全体の需要低下を加速させている。
このような環境下では、国内生産によって競争力を維持できるという従来の“神話”が揺らいでいる。保守的な商品開発を続ければ、消費者ニーズとの乖離が広がり、販売減少につながる可能性が高い。最終的には、経営危機に直面するリスクも否定できない。
トランプ政権による自動車関税政策は、対日圧力を再燃させる要因とされている。1990年代のような日米貿易摩擦の再来を招く可能性もある。仮に関税が強化されれば、日本メーカーは米国での現地生産に一層依存せざるを得ず、厳しい立場に追い込まれる。
こうした状況を受け、日本政府は日米通商交渉における対抗策として、米国製日本車の輸入促進を検討している。摩擦再燃を回避する手段と位置づけるが、逆輸入の増加は国内の輸入車市場にも影響を及ぼす。輸入車ランキングが大きく変動する可能性がある。
世界の自動車市場を席巻するトヨタは、日本国内で年間約300万台の生産を維持するとしている。日本の自動車産業の代表格として、その象徴性を重視している。しかし2030年をめどに国内生産の再編を計画している。2035年ごろには、東海地方から東北および九州へ各20万台規模の生産移管が見込まれている。国内全体の生産水準は一定程度維持するものの、地方ごとには最適化が必要で、市場実態との乖離もある。
一方で、他のメーカーはトヨタとは異なる道を選んでいる。三菱自動車は、台湾の鴻海精密工業にオセアニア向けのEV生産を委託し、2026年後半から販売開始する予定だ。マツダはトランプ関税の影響で国内生産が減少し、希望退職の募集による人員削減を進めている。
14億人市場の変革ポテンシャル
「守る経営」と「広げる経営」の岐路に立つ日本の自動車メーカーにとって、選択の先延ばしはもはや許されない。いま求められているのは、産業構造そのものを前提から問い直す視点である。目先の利益やコストの最適化ではなく、生産地・販売地・技術開発拠点をどう再編し、どこに未来を託すか。その戦略判断が、日本の製造業全体の方向性を決定づける。
インドという選択肢は、安価な労働力と人口ボーナスだけに基づくものではない。むしろ注目すべきは、インドが今後形成するであろう“自動車を再定義する地場市場”としての潜在性だ。
・小型車の高密度利用
・熱帯気候に最適化された設計
・サブスクリプション型所有
・スマートフォンとの連動を前提としたユーザー体験
など、インド市場は旧来の設計哲学を抜本的に変える発信地になり得る。その進化と接続しようとするスズキの動きは、単なる海外移転ではなく、製品哲学そのものの再構築に近い。
問題は、こうした動きに国内の制度設計が追いついていないことである。従来型の「国産か否か」を軸とする区分では、現実の生産・流通・消費構造の流動性を捉えきれない。特に、雇用と産業支援の仕組みが製造拠点の物理的な所在に依存しすぎている点は、今後の産業戦略において深刻な制約となる。必要なのは、
・供給網の分散化
・製造知の高度化
を前提とした、横断的かつ可変的な支援構造への転換である。
国内生産を守るという発想そのものが、いまや過去の需要構造と人口動態に基づく思考の延長線上にある。その延長線上に未来はない。メーカーが再配置を決断できず、政府が制度更新を怠るなら、海外資本に市場を奪われるというかたちで“答え”が突きつけられることになる。もはや国内に工場があるかどうかを問う段階ではない。問うべきは、どこで製品が最も速く進化し、それがどの市場に最も深く浸透するか、である。
国がすべきは、変化の波をいかに次の産業基盤形成へとつなげるかという設計の再構築である。企業と地域の共進化を実現するには、
・未来の需要に向けた学習投資
・設備更新の循環モデル
を制度の中に埋め込む必要がある。もはや産業を守ることではなく、産業を更新することこそが、自治体にとっての経済安全保障なのである。
国内生産維持の限界点探る
スズキのインド製輸入車の好調は、一時的なジムニーノマドの受注残によるものか。それとも、国内重視から輸入拡大へと構造転換する過程と見るべきか。
日本の自動車産業は、どこまで国内生産を維持し、どこから切り捨てる覚悟があるのかを改めて問われている。
国内生産重視の企業姿勢からの転換が必要となり、柔軟かつグローバルな視点がいっそう求められる。
重要なのは輸入拡大の是非ではない。現実を直視し、どのように対応すべきかが問われているのだ。(鶴見則行(自動車ライター))
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みんなのコメント
トランプ関税で米国での現地生産が進むとか話の構成が無茶苦茶。
言いたい事は分かるけど、金取れる記事じゃない。