■これぞ「走るシーラカンス」というクルマたち
昭和の頃、クルマの寿命は10年10万kmといわれていました。実際に1995年以前は、乗用車でも新車登録から10年を超えると毎年車検を受けなければならなかったため、10年以上乗る人は少数派でした。
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いまではクルマの性能やボディの防錆技術などの向上で、10年以上乗ることが当たり前のようになっています。
しかし、クルマは登録から長期間経つと、どうしても古く見えてしまうものです。
一方で、年式の割には古く見えないクルマもありますが、逆にそんなに古くないのに古臭く見えるクルマも存在します。
そこで、同時期に販売されていた他車と比べてもクラシカルに見えてしまったクルマを5車種ピックアップして紹介します。
●三菱「デボネア」
1964年にデビューした三菱のフラッグシップセダン「デボネア」は、5ナンバーサイズでありながら、1960年代のアメリカ車のような、ゴツい外観デザインと大きな開口部を持つフロントグリルで、5ナンバー車とは思えない風格を持っていました。
当時としては高い静粛性を誇った室内と、2リッター直列6気筒OHVエンジンの滑らかな加速は高級サルーンそのものでした。
しかし、全グレードが6気筒エンジンだったことで、当時の競合となるトヨタ「トヨペット・クラウン」や日産「セドリック」、プリンス「グロリア」などに比べ車両価格は高額で、販売は低迷。
そこで、1976年のマイナーチェンジで2.6リッター直列4気筒エンジンに換装され、それ以降は大幅なアップデートがおこなわれないまま、初代デボネアは1986年まで生産されました。
1980年代には一般のオーナードライバーが買うことはほとんどなく、三菱グループの重役専用車のイメージがありましたが、この古臭さが逆に魅力となり、絶版となってからは中古車の人気が高くなりました。
とくに1972年まで生産された左右三角窓付きでL字型テールランプのモデルは、その希少性から高値で取引されています。
●日産「サニートラック」
1966年に発売された日産「ダットサン・サニー」は、当初2ドアセダンのみだったボディを4ドアセダン、2ドアクーペ、2ドアライトバン、1967年にはピックアップトラックを追加するなど、高度成長期のクルマに対するニーズを満たすことで、大衆車としてヒットします。
1970年に2代目にモデルチェンジすると、ライバルのトヨタ「カローラ」に対抗して、低回転域から高回転まで軽快に回る1.2リッター直列4気筒OHV「A12型」エンジンを搭載し、モータースポーツの世界でも活躍します。
2代目も初代と同様に多くのボディタイプが用意されましたが、なかでも1971年に発売された「サニートラック」は、使い勝手と経済性の良さから好評を博し、1973年にサニーがモデルチェンジしてもトラックはそのまま形を変えず継続して販売されました。
その後、環境対応や若干の意匠変更がおこなわれ、「サニトラ」の愛称で親しまれながら1994年まで生産されましたが、驚くことに南アフリカでは2008年まで生産が続けられ、じつに37年間もの超ロングセラーモデルとなりました。
生産が終了した後もクラシカルなデザインが人気で、流通している台数が多いこともあり、いまではサニートラックを専門に扱うショップがあるほどです。
なお、ライバル車のトヨタ「パブリカトラック」も1969年から1988年まで生産され、いまもサニートラックと同様に人気があります。
●トヨタ「クラウンセダン」
トヨタは1955年にオーナードライバー向けの高級乗用車「トヨペット・クラウン」を発売しました。その後60年以上も販売され、現行モデルは15代目になります。
クラウンはこれまで消費者のニーズを的確に捉え、4ドアセダンだけでなく、2ドアハードトップ、ワゴン、ライトバン、4ドアピラードハードトップと、多くのボディバリエーションを展開してきました。
さらにオーナードライバー向けだけでなく、自動車学校の教習車や、タクシーなど営業車としてのニーズも満たす必要もありました。
なかでも、2001年に登場した6代目「クラウンセダン」は法人向けに的を絞ったモデルで、後席の寸法およびトランク容積がひと際大きく、グレードによってはタクシー専用装備が配置できるように設計されたインパネが採用されていました。
また、ボディが5ナンバーサイズということもあり、都市部での使い勝手もよく、個人でガソリン仕様を購入するケースもありました。
2002年に「スーパーデラックス・マイルドハイブリッド」が追加された際に、2リッター直列6気筒LPGエンジンを廃止して4気筒化。
2007年には排出ガス規制に適合しない2リッター直列6気筒DOHCエンジン搭載車を廃止するなど、バリエーション変更を重ねながら販売を継続しますが、意匠はほとんど変わりませんでした。
2017年にタクシーは専用設計された「ジャパンタクシー」へ移行し、クラウンセダンは2018年に生産終了となりました。
■意外とロングセラーだった名車とは!?
●いすゞ「117クーペ」
1968年、いすゞ「フローリアン」のコンポーネンツを流用した高級パーソナルクーペ「117クーペ」が発売されました。
美しいデザインはイタリアの自動車デザインスタジオである「カロッツェリア・ギア」によるもので、チーフデザイナーは数々のスーパーカーを手がけたジョルジェット・ジウジアーロです。
1966年のジュネーブモーターショーではプロトタイプがコンクール・デレガンスを受賞し、国際自動車デザイン・ビエンナーレでは名誉大賞を獲得するほどの高い評価を得ました。
デビュー時は1.6リッター直列4気筒エンジンを搭載。当時としては珍しいDOHCとなっていました。
台湾クスノキのウッドパネルなどの上質な内装に仕立てられ、高級なGTカーとして販売されましたが、通常の生産ラインでは対応ができなかったために手作業で組み立てをおこなっていたことから、後に初期モデルは「ハンドメイド」と呼ばれます。
1977年のマイナーチェンジでヘッドライトが丸型4灯から角型4灯に変更となり、電子制御燃料噴射装置を採用。1979年にはディーゼルエンジンを搭載するなど、マイナーチェンジが繰り返されましたが、全体のフォルムは変えられることはありませんでした。
1981年に「ピアッツァ」にバトンタッチすることで販売を終了。モデルサイクルが4年ほどだった時代に、13年間も販売されました。
●マツダ「ルーチェレガート」
1966年に、マツダが「ファミリア」に続く普通車第2弾としてデビューさせた「ルーチェ」は、スタイリッシュなヨーロピアンテイストの外観デザインで、オシャレなクルマを好む層に受け入れられました。
そして1977年に追加された3代目は「ルーチェレガート」と名付けられ、5ナンバー枠いっぱいのサイズで、13B型ロータリーエンジンを搭載。
ボディバリエーションは4ドアピラードハードトップと4ドアセダンが設定され、後にバンが追加されます。
特徴的な縦配置の角型4灯ヘッドライトやメッキ加飾されたフロントグリルなどが、クラシカルなアメリカンセダンに似ていると評され、ロータリーエンジン搭載車は燃費も「アメ車並み」といわれていました。
1979年のマイナーチェンジで、フロントマスクがオーソドックスなデザインの角型2灯ヘッドライトに変えられ、個性的な印象は薄れてしまいます。
ルーチェレガートは1981年に4代目ルーチェにバトンタッチしますが、バンはそのまま1988年まで販売されていました。
※ ※ ※
クルマのデザインに正解は無いといわれますが、すぐに陳腐化してしまうデザインは、少なくとも良いデザインとはいえないでしょう。
デビューして長い年月が経つと古く見えるのは当然ですが、それでも色褪せない魅力があるクルマもあります。
近年、旧車といわれる1980年代から1990年代のクルマが見直されていますが、いまのクルマが失ってしまった魅力があるのかもしれません。
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