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なぜプジョーは「GTi」を電動化したのか?「e-208」からの“深化”に隠された、ブランドの覚悟と挑戦

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なぜプジョーは「GTi」を電動化したのか?「e-208」からの“深化”に隠された、ブランドの覚悟と挑戦

フレンチ・ホットハッチの伝説の名がEVで復活

それぞれの自動車ブランドの歴史には、その名を聞くだけで胸が高鳴るモデルが存在する。プジョーの「GTi」は、間違いなくその一つだ。1984年に登場した「205 GTi」が築き上げた「ホットハッチ」という金字塔は、40年の時を経た今もなお色褪せることはない。そして2025年6月13日、プジョーはレースの聖地ル・マンで、その伝説に新たな章を書き加える一台を発表した。100%電気自動車(BEV)として初めてその名を冠する、「e-208 GTi」である。

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ベース車「e-208」が示した新世代コンパクトの理想像

このe-208 GTiは、単なる電動化モデルではない。市場で高い評価を得ているベース車「e-208」の持つ数々の利点を土台とし、そこにプジョー・スポール(PEUGEOT Sport)の知見とGTiの伝統のすべてを注ぎ込むことで、驚くべき進化を遂げたピュアスポーツマシンとされている。

新型e-208 GTiを理解する上で、まずその素体となったe-208の成功に触れなければならない。e-208は、新世代EVプラットフォーム「e-CMP」を採用したプジョー初の量産EVとして市場に登場した。その評価は極めて高く、特に未来的なデザインと、内燃機関(ICE)モデルと遜色のない自然なドライビングフィールが多くの称賛を集めた。

エクステリアは、ライオンの牙をモチーフとしたLEDデイタイムライトや3本かぎ爪のテールランプなど、プジョーの新たなデザイン言語を体現。ボディ同色のユニークなグリルデザインも相まって、既存のコンパクトカーとは一線を画す強い個性を放っていた。

インテリアの革新性はさらに顕著である。プジョー独自の「i-Cockpit」をさらに進化させた「3D i-Cockpit」は、情報をホログラムのように立体的に表示し、視認性と先進性を両立。小径ステアリングの上からメーターを覗き込む独特のレイアウトは、スポーティな運転感覚を演出し、多くのドライバーを魅了した。

走行性能においても、e-208はEVの新たな可能性を示した。バッテリー搭載による重量増(ガソリンモデル比で約330kg増の1490kg)を感じさせない軽快さと、バッテリーを床下に敷き詰めることによる低重心化がもたらすコーナリング時の安定性は、専門家からも高く評価された。そして何より、静粛でなめらかな加速というEVの特性が、上質な乗り心地に貢献していたのである。

機能美の追求:GTiの魂を宿すエクステリアの進化

e-208 GTiは、ベース車の優れたデザインを破壊することなく、しかし明確に「GTi」であることを主張する機能的な進化を遂げている。その変化は、見る者にただならぬパフォーマンスを予感させるに十分なものだ。

最大の変更点は、その力強いスタンスにある。車高は30mmも下げられ、トレッドはフロントで56mm、リアで27mmも拡幅された。これにより、元々ダイナミックだったe-208のシルエットは、地面に張り付くような低く構えた姿へと変貌した。この変更は単なる見た目のためではない。コーナリング性能を極限まで高めるための、機能に裏打ちされた必然的なフォルムなのである。

拡幅されたトレッドを収めるホイールアーチには、初代205 GTiへのオマージュとして、エレガントな赤いラインが施されている。そして、そのアーチに収まるのは、18インチの専用ホイール「PEUGEOT GTi」だ。これは、205 GTiの象徴であった「ホール」ホイールを彷彿とさせるだけでなく、高性能ブレーキの冷却性能を最適化するという重要な役割を担っている。

フロントバンパー下部には専用のスポイラーが追加され、リアにはグロスブラック仕上げの専用エアロダイナミックディフューザーが装着されるなど、空力性能も徹底的に磨き上げられた。これらの変更はすべて、e-208 GTiをより速く、より安定して走らせるためのものだ。ベース車の持つ優れた空力特性を、さらなる高みへと引き上げるための進化である。

別次元の領域へ:プジョー・スポールが手がけた走りの神髄

もしベースのe-208の走りが「上質でなめらか」なものであるとすれば、e-208 GTiの走りは「獰猛で刺激的」なものへと劇的な変貌を遂げている。その中心にあるのが、プジョー・スポールが全面的に手がけたパワートレインとシャシーだ。

心臓部には、最高出力280ps、最大トルク345Nmという、Bセグメントでは規格外のパワーを発生する電気モーター「M4+」を搭載。これにより、0-100km/h加速はわずか5.7秒という俊足を手に入れた。これはもはやホットハッチの領域を超え、本格的なスポーツカーに匹敵する数値である。

しかし、GTiの真髄は直線加速だけではない。プジョー・スポールのエンジニアたちは、世界耐久選手権(WEC)で戦うハイパーカー「9X8」で培った知見を惜しみなく投入し、シャシーを完璧にチューンした。前述のワイドトレッド化と低重心化に加え、スプリングと油圧ストップ付きの専用ショックアブソーバー、強化されたリアアンチロールバーを採用。さらにリミテッドスリップデフ(LSD)が統合され、コーナリング時のトラクションを最適化し、驚異的な旋回性能と安定性を実現している。

足元を固めるのは、ミシュランとの共同開発による高性能タイヤ「パイロットスポーツ・カップ2」(215/40R18)。そして、その奥にはプジョー・スポールの名が刻まれた4ピストンの固定キャリパーと直径355mmのフロントディスクを備える、高性能ブレーキシステムが収まる。ベース車の持つ優れたプラットフォームの素性を活かしつつ、あらゆるコンポーネントをレース基準で再構築することで、e-208 GTiは日常からサーキットまで、あらゆる場面でドライバーを興奮させるマシンへと昇華したのだ。

一体感の創出:ドライバーを高揚させる専用コクピット

e-208 GTiのインテリアは、ベース車が持つ先進的な「i-Cockpit」の利点を活かしながら、ドライバーとクルマとの一体感を極限まで高めるための演出が随所に施されている。ドアを開けると、目に飛び込んでくるのは鮮やかな赤色だ。205 GTiへのオマージュでもあるブライトレッドのカーペット、フロアマット、そしてシートベルトが、一瞬でキャビンをスポーティな空間へと変える。

ドライバーの体を支えるフロントシートは、GTi専用設計だ。ヘッドレスト一体型のそのデザインは、205 GTi 1.9のシートを彷彿とさせ、強力な横Gがかかるようなスポーティな走行でも体を確実にホールドする。それでいて日常使用での快適性も確保されており、GTiのDNAである多用途性も見事に体現している。
ドライバーが常に触れるコンパクトなステアリングホイールには、パンチング加工されたレッドレザーとアルカンターラが奢られ、完璧なグリップ感を提供する。そして、その向こうに広がる3D i-Cockpitとセンターのインフォテインメントスクリーンは、標準で赤いグラフィックを表示。モーターの性能と連動した独自のサウンド体験も相まって、ドライバーの五感を刺激し、運転への没入感を最大限に高める。ベース車の持つ先進的なインターフェースが、GTiではドライバーを高揚させるための舞台装置として、さらなる進化を遂げたのである。

伝統と革新の融合が生んだ電動ホットハッチの新たな指標

新型プジョーe-208 GTiは、単にパワフルなモーターを搭載しただけのEVではない。それは、市場で成功を収めたベース車「e-208」が持つ、デザイン、プラットフォーム、インターフェースという数々の美点を土台とし、そこに40年にわたるGTiの伝統とプジョー・スポールのレースでの知見という、二つの魂を注ぎ込むことで生まれた、電動化時代におけるホットハッチの新たなベンチマークである。

なめらかで上質だった走りは、心揺さぶるダイナミズムへ。先進的だったコックピットは、ドライバーと一体化する空間へ。そして、愛らしくも個性的だったデザインは、機能美を纏うアスリートの姿へ。e-208 GTiは、あらゆる面でベース車からの「深化」を遂げている。


プジョーは、ドライビングプレジャーに対して真剣である。e-208 GTiの誕生は、その言葉が単なるスローガンではなく、ブランドの哲学そのものであることを、何よりも雄弁に物語っている。電動化の波が押し寄せる現代において、走りの楽しさを追求し続けるすべての人々にとって、この一台は間違いなくキーストーンとなるだろう。

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文:LEVOLANT LE VOLANT web編集部
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みんなのコメント

3件
  • fxnhe501
    なにしろ、オペルもGSiを電動化するからな!
  • mac********
    普通のe-208を代車で借りたけど、めちゃ速かったよ。
    アコード Euro R と出くわしたから、煽って遊んであげちゃった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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