約1200億円で挑む延伸モデル
5月、国土交通省は多摩都市モノレールの延伸を正式に認可した。多摩地域を走るこの路線は、2030年代半ばの開業を目指し、今後工事が本格化する予定だ。
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今回の延伸区間は、東大和市の上北台駅から瑞穂町の箱根ケ崎駅までの約7km。新青梅街道に沿って、七つの新駅を設ける計画となっている。沿線にはこれまで鉄道のなかった武蔵村山市も含まれ、同市にとっては初の鉄道路線の誕生となる。
工事は、東京都と運営会社の多摩都市モノレールが役割を分担する。モノレール会社は東京都が79.9%を出資する第三セクターである。東京都は総額822億円を投じ、支柱・桁・駅舎といったインフラ部の整備を担う。一方、モノレール会社は358億円を負担し、車両や電力系統、変電所、券売機などインフラ外部を整備する。
本稿では、この分担型整備モデルが持つ制度的合理性と財政負担の構造を検証する。また、都市交通政策への波及効果を分析し、他地域の鉄道延伸事業への応用可能性について考察する。
低迷期乗り越えた再建戦略
多摩都市モノレールの延伸は、長年にわたり懸案となってきた。その構想が東京都の長期計画に盛り込まれたのは1982(昭和57)年。具体化に向けた動きが始まったのはその頃である。1986年には運営母体となる多摩都市モノレールが設立され、1990(平成2)年に着工。1998年に立川北~上北台、2000年には多摩センター~立川北が相次いで開業した。
しかし、それ以降の延伸計画は停滞が続いた。この路線は1980年代の経済成長を前提に構想されたものだった。だが、実際に開業した1990年代後半は景気後退の局面にあたり、当初の想定よりも乗車人員が伸び悩んだ。結果として、用地取得など初期投資のための借入金が経営を圧迫。2003年には債務超過に陥り、累積損失は最大で242億円に達した。
転機が訪れたのは2008年。多摩都市モノレールは経営安定化計画を策定し、東京都および沿線自治体の財政支援を受けながら経費削減を進めた。これにより、経営状態は徐々に改善し、一定の安定軌道に乗ることとなった。
ただし、経営環境は依然として不安定だ。コロナ禍によるテレワークやオンライン交流の定着は乗車人員の減少につながり、経営への懸念が再燃している。加えて、少子化による沿線人口の減少、施設・設備の老朽化にともなう大規模更新の必要性も重い課題としてのしかかる。
こうした厳しい状況のなかで、今回の延伸実現には大きな意味がある。なかでも評価すべきは、インフラ整備における公民分担のモデルを早期から導入し、リスクを抑制してきた点にある。1980年代から続くこの構造的工夫が、事業継続性の確保と延伸の実現に寄与したといえる。
交付金239億円の制度的継承
前述のとおり、今回の延伸事業では、東京都が822億円、多摩都市モノレールが358億円を負担する。そのうち358億円の内訳は以下のとおりだ。
・社会資本整備総合交付金(国と東京都で折半):239億円
・東京都からの出資金:45億円
・沿線市町からの出資金:7億円
・事業者負担:67億円(このうち30億円は沿線市町からの無利子貸付、残額は金融機関からの借入)
この枠組みにより、モノレール会社が直接負担する金額は限定的に抑えられる。経営への影響を最小限にとどめたうえで、延伸を可能にしている。
こうした費用分担の考え方は、1970年代にさかのぼる。当時、深刻化する道路渋滞を背景に、モノレールの活用が本格的に推進された。1974年、建設省はモノレールの柱や桁といったインフラ部分を道路施設として整備し、それを事業者が占用して運行する制度を創設した。この制度設計が、現在の費用分担モデルに引き継がれている。
公費8割超の分散投資構造
このスキームは、今後の経営にどのような利点をもたらすのか。
改めて確認すると、今回の延伸事業の総事業費は約1180億円。そのうち多摩都市モノレールの負担額は358億円である。ただし内訳をみると、239億円は国と都からの社会資本整備総合交付金、52億円は都および沿線市町からの出資・貸付。結果として、同社の実質的な自己負担は約37億円にとどまる。
全体の約8割を公的資金が占めているが、従来の全額公費による鉄道整備と比較すれば、財政負担を分散しつつ、民間の関与を取り入れている。その結果、公的支出全体の圧縮にも一定の効果がある。では、他の鉄道整備手法と比較してみよう。
●整備新幹線方式
国が3分の2、地方が3分の1を負担。JRは建設費を負担せず、受益に応じて貸付料を支払うのみ。実質的には100%公的負担である。
●都市鉄道利便増進事業(上下分離)
事業費の3分の2を国と自治体が補助。残り3分の1は整備主体が調達する。ただし整備主体自体が公的機関(鉄道・運輸機構など)であるため、結局は公的負担に依存している。
●従来の上下分離方式
鉄道事業者が線路使用料を負担できない場合、自治体がインフラを無償で貸与する例も多く、施設整備から維持管理までを含めた公的負担が一般的となっている。
これらの方式に対し、多摩都市モノレールの最大の特徴は、民間事業者が一定の投資リスクを直接引き受けている点にある。
他方式では、車両の老朽化や電気設備の更新、券売機などのシステム改修といった運行設備費用の多くが公的支出となる。しかし、多摩都市モノレールでは、これらの長期投資も運行会社の責任で行われる。
加えて、リスク分散の観点でも注目に値する。公設方式では、設備仕様の選定ミスや過大投資のリスクを行政側がすべて抱え込む構造になっていた。
一方、多摩都市モノレールでは、運行設備に関するリスクを民間事業者が負担する。その結果、鉄道事業がインフラの建設・保有・維持といった重い責務から解放され、より柔軟で機動的な運営が可能となる。
東京都は基礎的インフラ(支柱・桁・駅舎)の整備に集中し、多摩都市モノレールは運行効率や設備最適化といった経営判断に専念できる。限られた範囲ではあるが、財政効率の向上も期待できる仕組みといえる。
上下分離方式の変革と実態
一見すると、これまで地域鉄道で採用された上下分離方式に似ている。しかし、実態は大きく異なる。
従来の上下分離方式では、線路や駅を地方自治体や第三セクターが保有・整備し、鉄道会社は運行に専念していた。上下分離方式とは、鉄道事業を「インフラ部門(下部)」と「運行部門(上部)」に分け、異なる事業主体がそれぞれを担当する形態である。鉄道事業法では、インフラ施設を所有・整備する「第三種鉄道事業者」と、列車運行を行う「第二種鉄道事業者」として制度化されている。
具体的には、地方自治体や第三セクターが第三種事業者として線路・駅舎・信号設備などを所有・整備し、民間鉄道会社が第二種事業者として運行サービスを担当する。運行会社は施設保有者に線路使用料を支払うが、多くの場合は経営支援のため無償または低額に設定されている。
この方式は、経営難に陥った地域鉄道の再生策として用いられてきた。例えば、若桜鉄道では沿線の2町が鉄道用地と施設を保有し、信楽高原鉄道では甲賀市が車両を含む全施設を所有している。これらは公有民営方式と呼ばれ、2008(平成20)年の地域公共交通活性化・再生法改正で制度化された。
上下分離方式導入の最大理由は、一般的な旅客輸送市場では上下一体方式のままでは鉄道事業が不採算になるためだ。大手民鉄やJR本州3社は大量輸送により黒字経営が可能だが、多くの地方鉄道は輸送密度が低く、インフラ維持費を運賃収入で賄うことが難しい。
上下分離により、運行会社は高額なインフラ投資・維持費負担から解放され、運行に集中できる。一方、自治体等がインフラを公的資産として保有することで、道路同様の社会基盤として公的資金投入の正当性が確保される。一方、多摩都市モノレールは完全な上下分離ではなく、機能ごとに行政と事業者が分担する仕組みだ。
従来の上下分離は自治体等がインフラを全て保有し、運行会社は運行サービスのみを担当する完全分離が基本だった。多摩都市モノレールでは、東京都が支柱・桁・駅舎といった構造物を担当する一方、運行会社が車両・電車線・変電所・券売機など運行設備を自ら保有・整備する責任を負う。つまり、運行会社は単なる受託者ではなく、設備投資と維持管理を自己責任で行う運営者である。
この方式は、完全な公有民営でもなく、従来の上下一体でもない。公共インフラ整備のスキームには以下のような手法がある。
・PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ):公共施設の建設・維持管理・運営を民間の資金・経営能力・技術力で行う手法。
・PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ):公共と民間がパートナーとして共同でプロジェクトを遂行する手法。
・DB(デザイン・ビルド):設計・施工を一括して民間に発注する手法。
多摩都市モノレールの分担方式は、PPPの一形態であり、機能別に分けたハイブリッド型だ。単なるアウトソーシングではなく、リスク負担を明確に分ける方式である。運行会社は設備オーナーとしての責任とリスクを負うため、単なる運行委託とは異なり、自ら経営主体として行動する。
その結果、運行会社が設備投資を効率的に行い維持管理を適切にすれば費用を抑制でき、経営改善に直結する。逆に設備選択ミスや保守不良は自社負担増となるため、合理的な経営判断を促す構造だ。この制度設計は1974(昭和49)年に生まれた古い仕組みだが、現代の経営環境に非常に適合した形態といえる。
投資権限欠く運行会社の課題
従来の上下分離方式は、経営難に陥った地域鉄道の救済策として一定の成果を上げてきた。しかし、責任の所在が曖昧になる問題もあった。これにより、経営改善への意欲が低下する構造的な課題も抱えている。
設備の改良や更新では、施設保有者である自治体と運行事業者の間で調整が難航するケースが多発していた。運行会社は設備投資の決定権を持たないため、サービス向上や効率化への積極的な取り組みが制限される問題も存在した。
多摩都市モノレールの機能別分担方式は、こうした従来の課題を部分的に改善する効果がある。完全分離でも完全一体でもないこの制度設計は、今後の交通インフラ整備における制度改良の好例といえる。この方式はモノレールだけでなく、今後の路線建設や維持管理にも応用可能性がある。
持続可能なインフラ整備への視点
しかし、事業の本質的な成否を判断するには、単なる財政規模や利用者予測を超えた視点が必要だ。
まず、膨大な初期投資を支える自治体の財政基盤は、財政運営の柔軟性と持続性が問われるのである。東京都は、多角的な歳入構造と税収の多様化により、一時的な負担増にも耐えられる体制を持つ。だが、地方の中小規模自治体が同様の耐性を持つことは極めて困難だ。財政負担の集中は地域間格差をさらに広げるリスクを孕む。
需要面も単純な人口集中度では説明できない複雑さがある。多摩地域では既存交通網との相乗効果が期待される。一方、地方部では人口減少や移動行動の変化が進み、地域経済の構造自体が変わっている。そのため、採算確保には利便性や地域特性を踏まえた柔軟な路線設計が不可欠だ。さらに、路線単独で収支均衡を目指すには、一定以上の利用者数が必要になる。これは新規事業の持続可能性にとって根本的な制約となる。
しかし、この方式の真価はリスク配分の明確化にある。機能別にリスクを分担することで、収益変動や運営負担、資本コストを切り分ける。各責任主体に適切なインセンティブを与える構造が形成されるのだ。このモデルは、地域ごとの事情に応じて応用可能であり、全国的な交通政策の再構築に一石を投じる可能性を秘めている。
とはいえ、最終的な成否は2030年代半ばの開業後の運用実績にかかっている。運行会社が358億円の資本投資に見合う経営効率を達成できるか。想定利用者数を確保できるか。東京都の財政負担が過度にならないか。これらを多面的に検証して初めて、多摩都市モノレール方式の真価が明らかになるだろう。(弘中新一(鉄道ライター))
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