McLaren GT
マクラーレン GT
ダラーラ ストラダーレをサーキットで試乗! その斬れ味を田中哲也が報告する
スポーティ&エレガントなミッドシップカー
長年に渡ってこの仕事を続けていると、どうしても“もう一度だけでいいから乗りたい・・・”と強く思うことがある。それは、あまりにも好印象だったということも理由に挙げられるが、その逆に試乗した状況や環境に満足できなかったという時もある。自分の愛車であれば、当然そんなことは思わないだろうが、さすがにいつでも好き勝手に乗り回せるわけではない我々にとって悔いが残るというのは、経験値からしてもけっして好ましくはない。
と、感情論から入ってしまったが、久々にそう思わせたのは、マクラーレン GT。はじめてそのステアリングを握ったのは数ヵ月前のこと。福岡から大分までドライブし、日本でもめずらしい温泉街に建つラグジュアリーホテルに宿泊、マクラーレン GTを使ったライフスタイルを具現化した一泊二日の企画だった。
わずか数ヵ月前に乗ったばかりにも関わらず、駐車されたその佇まいを見た時、久々の再会のように嬉しくなってしまった。やはり他のマクラーレンとは違う。スポーティでありながらもエレガント。流麗で上品なミッドシップカーだと、あらためて思い知らされる。
マクラーレンの特徴でもあるディヘドラルドアを開けると、その雰囲気は格別だ。エクステリア同様に、インテリアもまた同様の印象を与える。この上質なインテリアは、マクラーレンが見た目や手触りにこだわり研究してつくられている成果が表れている。ファッションの分野からヒントを得て、上質な素材を使用しているうえ、独自の配色を生み出した結果、GTに与えられたナッパレザーの質感や雰囲気は他のマクラーレンとは一線を画する。
日常でも使えるほどの快適性
コクピットに収まり、ドアを降ろすと“スッ”と静かに閉まることも特筆すべき点だろう。そう、オートクロージャー機能を備えているのだ。おそらくスポーツカーでは初採用だと思うが、これもGTのコンセプトに相応しい装備。エレガントさを演出するにも効果的で、乗り手を上品に迎える。
こうした演出は、他のスーパースポーツカーとも異なる。赤く光るエンジンスタートボタンを押して、背後にある4.0リッターV8ツインターボに火を入れても、昨今のスーパースポーツのような爆発して驚かせるような演出は若干ほどだが抑えられている。あくまでもGT=グランドツアラーだと主張しているようにも思えるから、かえって日常では有り難く感じるだろう。
しかもカーボンモノコックであるにも関わらず、GTは遮音性が高いため、日常使いでも快適性が高い。カーボン特有の振動も抑えられているうえ、Bowers & Wilkinsのサウンドシステムは高音質、車外からのノイズも気にならないほどだから、微低速が続く都市部のドライブでも従来のスーパースポーツカーとは比較にならないほど付き合いやすい。
こう書き記すと多くの人は、きっと刺激が足りないのでは?と思うかもしれない。しかし、その心配は無用。過剰な演出がない程度で、スポーツの解釈が違うのみ。やみくもに、びっくり箱を開けた時のような刺激を抑え、必要に応じて楽しませてくれることは確かだ。
上質でジェントルな走行性能
とはいえ、走りの部分に関しても、これが見事に上質感をもって接してくるから、たまらない。シャシー、パワートレインともに、ノーマル、スポーツ、トラックとそれぞれ3モードを備えているが、どれを選択してもジェントルに徹する。ここが他のスーパースポーツと決定的に異なるところで、例えば同じマクラーレンでも720Sなどと比較するとわかりやすく、簡単にいえば、全体的に角をとったようなマイルドに仕立てて、どの領域でも快適に思わせるように仕上げている印象だ。
パワーは620ps、トルクも630Nmと十分な数値が並ぶ。これもマクラーレンが意図するところで、GTはそのコンセプトに従ってトルクを重視した味付けにしているため、低回転域から扱いやすい。7速DCT(セミAT)のギア比とファイナル比の設定も実に巧みだ。それなりの速度で走行していても、ドライバーに“飛ばせ!飛ばせ!”みたいに急かすようなことはしないから常に安心感すら伴う。その一方、高速道路ではマクラーレンが得意とする優れたエアロダイナミクス性能が功を奏し、常に安定した姿勢で走り続ける。
飛ばしても流しているような感覚
それはスーパースポーツカーらしいスリリングな一面を味わおうと、ワインディングなどでスポーツモード、もしくはトラックモードに変更しても同様。パンチ力こそ上がるものの、不思議なほど落ち着いた感じがするからGTならではだ。これは720Sと比較して、ホイールベースで5mm、リヤのトレッドで34mmほど延長されていることも考えられるが、主にハンドリングの設定をラグジュアリー方向に振っている効果が大きいと思われる。決してクイックではなく、優雅にドライブを楽しませようという効果を狙っているのは明白。同時にトラクション性能もやや控えめにしていることもあって、それなりにワインディングを攻めても、飛ばしているというよりも流しているように感じる。
こうした印象は、スチールディスクを採用していることも重なる。昨今、ほぼ定番化したといっても過言ではないこのクラスのセラミックディスクは、メリハリの効いたドライブをするにはいいが、長い時間乗っていると疲れを感じることは少なくない。マクラーレン GTは、そうしたことも意識したうえで、敢えてスチールディスクを与え、コンセプトを貫いている。ここがマクラーレンのセンスの良さ! 本質がわかっている証しと言えるだろう。
シートからして造りが違う!
しかも、コーナーを攻めている際、肩がシートにあたっても不快感がない。これは形状こそバケットタイプに見えるものの、実はクッションなど厚めに設定しているおかげ。長時間のドライブでも耐えられるようヒップ部分なども従来のスーパースポーツカーとは異なるほど快適性を重視して造られているから見事だ。
エンジン上部に設けられたラゲッジスペースは420リッターの許容量を誇り、185cmのスキー板やゴルフバッグの搭載なほど長尺物にも対応するが、擦り傷やスクラッチ、摩擦など耐性を優先して、スーパーファブリックという革新的な素材をフロアカバーに使用しているのもマクラーレンのこだわりだろう。元は軍事や航空宇宙分野での活用を前提に開発された素材で、装甲の役割を果たす微細なガードプレートの層が織り込まれているのが特徴。通気性にも優れ、汚れも落ちやすく、乾燥するのも早いとあってラゲッジスペースに用いるには理想的な素材と言える。こういうところもGTを選択するに十分な説得力がある部分だ。
ましてや、フロント側には機内持ち込みサイズのスーツケースが2個入るスペースも設けられている。これだけの荷物を搭載ができるミッドシップカーが他にあるだろうか? 無論、答えはNO! マクラーレン GTとは唯一無二の存在である。
大人のためのミッドシップ スポーツ!
だからこそ思うのは、サーキット走行をさんざん楽しんできた人が、次のステップとして考えるに相応しい1台だということ。「今まで攻めまくってきたけど、そろそろいいかな?」と思い始めたものの「FRじゃ物足りないなぁ・・・」と感じていたなら、マクラーレン GTは最良の選択となるはず。さらに、「今までフロントエンジンのクーペに乗ってきたけど、次はちょっと刺激が欲しいなぁ」と思う人にも最適だと思う。
即ち、マクラーレン GTをひと言で表するなら「大人のためのミッドシップ スポーツ」。ラグジュアリー性をも兼ね備えたジェントルなミッドシップ スーパースポーツは、マクラーレン GTの他に存在しない。分かっている人だけが選択する隠れた名作だと、私は今回の試乗を通じて、あらためて思い知らされた次第だ。ぜひ、本稿の動画とともにこの世界観を知っていただきたい。きっと、今まで知り得なかった、新たなGTの姿を発見することになるはずだ。
REPORT/野口 優(Masaru NOGUCHI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
マクラーレン GT
ボディサイズ:全長4683 全幅2045 全高1213mm
ホイールベース:2675mm
トレッド:前1671 後1663mm
乾燥重量:1466kg
車両重量:1530kg(DIN)
前後重量配分:42.5:57.5
ラゲッジ容量:前150 後420リットル
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:456kW(620ps)/7500rpm
最大トルク:630Nm/5500~6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
ステアリング:電動油圧パワーステアリング
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ローター径:前367 後354mm
キャリパー:前後4ピストン
タイヤサイズ(リム幅):前225/35R20(8J) 後295/30R21(10.5J)
最高速度:326km/h
0 – 100km/h加速:3.2秒
0 – 200km/h加速:9.0秒
燃料消費(WLTP/複合):11.9km/L
CO2排出量(WLTP):270g/km
車両本体価格:2645万円(消費税10%含む)
【問い合わせ】
マクラーレン東京 TEL 03-6438-1963
マクラーレン麻布 TEL 03-3446-0555
マクラーレン名古屋 TEL 052-528-5855
マクラーレン大阪 TEL 06-6121-8821
マクラーレン福岡 TEL 092-611-8899
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