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マツダ「魂動デザイン」が抱える矛盾? 美を極めたのに「車種の見分けがつかない」逆説、デザイン戦略のジレンマを考える

掲載 更新 151
マツダ「魂動デザイン」が抱える矛盾? 美を極めたのに「車種の見分けがつかない」逆説、デザイン戦略のジレンマを考える

CXシリーズに漂う識別不能感

 マツダの現行デザイン言語「魂動デザイン」は、世界的なデザイン賞を多数受賞してきた。造形の完成度は高く、ボディに浮かぶ陰影や、躍動感のあるプロポーションは確かに美しい。街中でもマツダ車は洗練された佇まいで存在感を放っている。

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 ただし、その印象はマツダの車という大きな枠にとどまる。オープン2シーターの「ロードスター」など、特徴的なモデルを除けば、CX-3とCX-5のようなスポーツタイプ多目的車(SUV)を見分けるのは難しい。車に詳しくない人であれば、なおさらだ。

 それぞれ異なる設計思想を持ちながらも、デザインの統一感が差異を目立たなくしている。美しさの裏で、個性の輪郭が曖昧になっている。

光を操る塗装技術の到達点

 マツダの魂動デザインは、単なるスタイリング手法ではない。テーマは動きの予感、さらに深層には生命感の表現がある。面の移ろいや陰影の変化を通じて、有機的な生命感を宿す。これが魂動デザインの核となる思想だ。

 静止していても、車体には今にも動き出しそうな緊張感が漂う。こうした哲学は、造形だけで完結しない。光と陰影を最大限に引き立てるため、専用の塗装技術「匠塗(たくみぬり)」が開発された。

 なかでも象徴的な存在がソウルレッドクリスタルメタリックだ。光の角度によって、赤の鮮やかさと深みが変化する。ボディに生きた存在感をもたらす仕上がりである。マツダにとって塗装は、単なる最終工程ではなく、デザインの本質的構成要素と位置づけられている。

 こうした徹底した思想とクラフトマンシップは、国際的にも高く評価された。2016年にはロードスター(海外名MX-5)が「World Car Design of the Year」を受賞。2020年にはMAZDA3が同賞を獲得し、さらにCX-30とMX-30も「Red Dot Award:Product Design」部門で表彰された。

 評価されたのは、生命感をまとった存在として、クルマを成立させたことに対する国際的な認証である。しかし、その美は完成度の高さゆえに、別のジレンマを生むことになる。

デザイン哲学と認知ギャップ

 魂動デザインは、すべてのマツダ車に共通する造形言語である。ただし、単に全車種の顔つきを揃えたわけではない。マツダは各モデルごとに、魂動デザインの解釈を丁寧に変えてきた。それぞれに固有の表現を追求している。

 例えばMAZDA3では、引き算の美学を徹底した。余計な線や凹凸を極限まで排除し、面の移ろいと陰影だけで生命感を表現する造形に挑んだ。また、セダンとファストバックで個性を明確に分けている。セダンは伸びやかで端正なシルエットによって品格を強調。一方でファストバックは、動きのある曲面と陰影が艶やかさを演出する。

 CX-30では、「Sleek & Bold(しなやかさと力強さ)」をテーマとした。コンパクトクロスオーバーとしての取り回しの良さと、柔らかく膨らんだ面構成による存在感を両立させている。日常の風景に溶け込みつつ、走行中には光の反射が豊かな表情を生む設計だ。

 さらにCX-60では、「Noble Toughness(品格ある力強さ)」を掲げた。縦置きFRレイアウトを活かしたロングノーズ・ショートデッキの骨格を基盤としつつ、力感の押し出しでは終わらせない。魂動デザインが目指す「静かな生命感」を備える。堂々としたボディラインには、過剰な威圧感がない。伸びやかな面の変化と繊細な陰影表現によって、力強さと緊張感が共存する造形が与えられている。

 このように、魂動デザインという共通言語を使いながらも、マツダは各モデルに固有の生命感と個性を持たせようとしてきた。

 しかし現実には、その違いを直感的に識別するのは難しい。統一感があまりにも強いためだ。各モデルに込められた個性のニュアンスは、ブランド全体の美しさに溶け込んでしまう。設計者が丁寧に仕立てた差異も、一般的な視点では「美しいマツダ車」という大きな印象に吸収されてしまう。

 違いは確かに存在する。だが、その違いが違いとして伝わっていない。そこには、魂動デザインが極められたがゆえに生まれた、表現と伝達のズレがある。

共通化進むデザイン戦略

 デザイン言語の共通化は、マツダに限った現象ではない。日産は「Vモーション」、三菱は「ダイナミックシールド」といった、各社独自のデザインテーマを掲げている。顔つきに共通点があっても、各モデルの個性は明確に区別できる。

 一方、マツダは「ブランド全体でひとつの顔」という印象が極めて強い。たとえばCX-30、CX-5、CX-60は、それぞれ異なる設計思想とキャラクターを備えている。それでも一般的な視点では、「マツダのSUV」として一括りに認識されがちだ。

 この現象は、単に人間の認知心理だけでは説明がつかない。マツダの場合、デザインの完成度と統一感があまりにも高いため、モデルごとの差異が統一美の中に埋没している。

魂動デザインの逆説

 マツダ車は国産車のなかで、数少ないデザインで選ばれるブランドである。それは確かな誇りだ。見た瞬間に美しいと感じさせる力を持つ。

 しかし、魂動デザインという哲学の存在感があまりにも大きくなり過ぎた。結果として、各車種に宿る物語は、ニュアンスの違いにとどまるマイナーな差異に陥っている。

 車種ごとに設計思想やサイズ感は異なる。細部には確かな違いもある。それにもかかわらず、街中で見かけた瞬間、その違いは完成度の高い統一美に圧倒され、記憶から消えてしまうのだ。

 美を極めたゆえに、美しさだけが記憶に残り、モデルのアイデンティティは存在感を失う。この静かな逆説が、現在のマツダデザインに潜んでいる。

 統一された完成美とモデルごとの個性の両立は、容易ではない。

 マツダはこれまで築いた美の世界観をさらに磨き続けるだろう。一方で、モデルごとの輪郭をどう鮮明に描き出すかが課題となる。それは、美しさを維持するうえで避けて通れない問いとなるはずだ。(春宮悠(モビリティライター))

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みんなのコメント

151件
  • dayfirst1266
    車オンチには、レクサスやベンツも大中小くらいしか見分けが付かない
  • mid********
    クルマ好きなら見分けはつくし、興味のない人はそもそも見分けようとしないから、これでいいんじゃないの?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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