PURE(ピュア)、LINEAGE(リネージ)に続く、新生アルピーヌA110シリーズ第3のモデルは、シンプルにA110Sという名で登場した。開発の狙いはトラックユース。要するに週末にサーキット走行を楽しむような人たちをターゲットとしている。一般道での軽快なフットワークを志向したPURE、LINEAGEは、タイヤのグリップ力を意図的に低く抑え、サスペンションもソフトに躾けてあったが、A110Sはそのポテンシャルをしっかりと速さに結びつけるべくチューニングしている。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
軽のヨンクから電気自動車までクルマは群雄割拠──ミニバンの雄か、ラスト・サムライか
ボディサイズは全長4205×全幅1800×全高1250mm。シャシーには新設計のSportシャシーを採用、ステアリングコントロールの正確性をより高めた。価格は899万円から。
但し、アルピーヌとしてはA110SをPURE、LINEAGEの上位モデルとする意図はないという。あくまで想定する舞台が異なる、並列した選択肢の追加だといい、実際に開発は同時に行なわれていたそうである。
アルピーヌ A110S|Alpine A110Sキャビンのすぐ背後に横置きで搭載される1.8リッターターボエンジンの最高出力は、40ps増の292psに増強し、最高速260km/hを実現する。しかしながらA110Sの見どころはやはりシャシーだ。タイヤは前後とも10mmずつ太い215/245サイズの、専用の構造とコンパウンドを持つミシュランPilot Sport4が奢られている。それに合わせてサスペンションは、前後のスプリングを約50%、アンチロールバーを約100%もハードにし、電子制御ダンパー、そしてルノー メガーヌRSなどにも使われているハイドロリック・コンプレッション・ストップの減衰力も引き上げられている。ESCも、TRACKモードの制御が見直された。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S内外装の変更点はそう多くない。全体にCFRPのアクセントを使い、ブレーキキャリパーや室内のステッチなどの要所にはオレンジを挿し色としてあしらっている。内張りはDinamicaと呼ばれるマイクロファイバー素材で、シートはPUREと同じSABELT製の軽量バケット。更に、オプションで約2kgとわずかではあるが軽量化に繋がるCFRP製ルーフ、FUCHS社製の軽量鍛造ホイールも用意する。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
トランスミッションは7速DCT。 ステアリング背面のシフトパドルでギアをコントロールできる。ステアリングには、モードセレクターも装備している。
つい遊びたくなる魅力サーキットを視野に入れてはいるものの、日常域の使い勝手を犠牲にしてはいない。エンジンは最高出力が高められただけでなく、数値的には変わらない最大トルクも発生回転域がワイドになっていて、特に低中速域のツキが良くなっている。より刺激的なだけでなく、むしろ扱いやすさも増した印象だ。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
スイッチ式のシフトセレクターの下にエンジンのオン/オフスイッチが。ATはゲトラグ製の7速デュアルクラッチとなる。
サスペンションも、確かに引き締められてはいるのだが、乗り心地は、とても50%もスプリングレートが高まったとは思えないほど優しく、ちゃんとアルピーヌらしさは維持されている。荒れた路面で跳ねて困るようなこともなく、ワインディングロードでもやり過ぎ感はなし。相変わらず、気持ち良い走りを楽しめる。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
シートはSabelt社製のモノコックバケットシートを採用。シートクッションはDinamica素材で、重量は13.1kgに抑えた。
前述したオプションのCFRP製ルーフ、FUCHS社製の軽量鍛造ホイールを装着した仕様で走ったサーキットでも、期待通りA110Sは弾けるような元気な走りで魅了した。エンジンは全域で扱いやすい上にトップエンドにかけての吹け上がりの勢い、パワーの伸び感が更に増していて、回す楽しさを存分に味わえる。7速DCTのおかげもあって、低速コーナーから高速コーナーまで、どこでもパワーバンドを外すことは無い。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
ブレーキキャリパーやインテリアのステッチなど、随所にオレンジがアクセントカラーとして仕込まれている。
そしてフットワークはと言えば、やはりロールやピッチングなどの姿勢変化がPURE、LINEAGEよりも明らかに小さく、サーキットの高い速度域ではクルマとの一体感を一層強調している。とはいえ、姿勢変化も挙動変化も規制され過ぎてはいないのが巧みなところで、ターンインでフロントに荷重を乗せて舵を入れ、敢えて少し待ってやるとリアが本当にちょうどいい按配で回り込んできて、ステアリングを中立方向に戻しながらのニュートラルステアのコーナリングを楽しめるし、更にそこからリアをじわり流していくことも容易い。
アルピーヌ A110S|Alpine A110S
1.8リッターの直4ターボエンジンは新たにチューニングを行い、最高出力を292psまで高めた。最大トルクの320Nmは2000rpmから発生する。
このコントロール性の高さ、幅広さはまったくもってお見事。度々来日しているアルピーヌ/ルノー・スポールのテスター、ロラン・ウルゴン氏などは、エストリル全コーナーでドリフトしていたほどである。全コーナーで、だ。
アルピーヌ A110S|Alpine A110SA110Sの日本仕様はCFRP製ルーフが標準装備に。ブラン イリゼとブルー アルピーヌのボディ色にはフックス製鍛造ホイールが標準装備となり、価格は899万円。グリ トネール マットのボディ色にはGT RACEホイールが組み合わされ、こちらは939万円となる。PURE、LINEAGEも含めて、悩ましくも嬉しい新しい選択肢の登場で、実は世界3番目の市場だという日本でのアルピーヌ、更に人気が盛り上がるのは間違いない。
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アルピーヌのエンブレムもメッキからブラックに。他グレードと差別化が図られている。
文・島下泰久 写真・アルピーヌ
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