日産、起死回生の救世主といえば、e-POWERだろう。e-POWERはエンジンを発電のみに使うシリーズ方式のハイブリッドで、ブレーキペダルを踏まなくてもアクセルペダルの操作だけで速度をコントロールできるワンペダルの目新しさもあって、爆発的な人気となった。
2012年9月に販売されたノートにこのe-POWERが加わったのは2016年11月だがラインナップに加わった途端に人気爆発。発売月の11月にはなんとサニー以来30年ぶりとなる月間販売台数1位を獲得したばかりか、年間販売台数でも2017年2位と伸び続け、2018年には1位を達成してしまう。
自動ブレーキ並みの革新性!? 安全の常識を変えたエポックメイキングな国産車たち
一方、2016年8月に登場したセレナも、2018年3月にe-POWERを追加すると、販売効果は劇的に表れる。2018年1~6月の上半期販売台数では5万6095台でミニバン1位を獲得。2018年の暦年でも9万865台でミニバン1位、2019年も勢いは衰えず9万2956台で2年連続1位を達成した。
まさに、e-POWERは、日産にとっては、逆転ホームラン的な救世主となっている。そのe-POWERは現在、コンパクトSUVのキックスと、新型ノート、そしてセレナe-POWERに加え、2021年秋に登場予定の新型エクストレイルにも搭載される予定だ。
はたして、e-POWERの相次ぐ投入で、ヤリスやヤリスクロス、ライズのトヨタ勢、フィットやヴェゼルなどのホンダ勢を駆逐することができるのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部
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e-POWER追加で年間販売台数1位を獲得したノート
2016年に投入されたe-POWERが人気を博した先代ノート。2017~2019年において、3年連続コンパクトカーの販売台数NO.1を獲得した
今後は二酸化炭素の排出抑制を視野に入れ、従来以上に燃費規制が厳しくなる。そして燃費を向上させれば、ユーザーも出費を抑えられる。つまり販売促進でも大きなメリットを得られるから、各メーカーともに燃費の向上には力を入れる。その結果、ハイブリッド車も増えた。
メーカーによってハイブリッドシステムは異なるが、巧みなCM効果もあって認知度を高めたのが日産のe-POWERだ。e-POWERは2016年11月にノートに搭載され、2018年3月にはセレナも採用した。2020年にはキックスもe-POWER専用車として登場している。
e-POWER搭載車はこの3車種だが、ノートとセレナは好調な売れ行きを達成した。そのために2020年に日本国内で販売された日産の小型/普通車の内、46%をハイブリッドが占める。このなかはスカイラインハイブリッドなども含まれるが、大半はノート/セレナ/キックスのe-POWERと考えてよい。
過去を振り返ると、先代ノートは2016年11月のマイナーチェンジでe-POWERを加え、発売月となる11月の月間販売台数は1万5784台で1位となった。これはサニー以来30年ぶりの快挙。
その後、2017年には売れ行きを前年の1.4倍に急増させ、13万8905台で年間販売台数2位(1位はプリウス)。2018年には。13万6324台を販売し、年間販売台数1位を獲得(2位はアクア)。そして2019年には11万8472台で2位(1位はプリウス)。2020年はヤリスやライズ、フィットが登場したこともあり、7万2205台で年間販売9位となっている。
セレナは2018年3月にe-POWERを追加して、同年の登録台数は前年の1.2倍に増えた。2018年、2019年と2年連続ミニバン販売台数1位に輝いた。
ノートとセレナにe-POWERを追加して販売が伸びた2つの背景とは?
2016年8月に発売、2018年3月にe-POWERが追加された現行セレナ。2019年8月のマイナーチェンジでは、緊急ブレーキなどを含む全方位運転支援システムを全車標準装備
ノートとセレナがe-POWERの追加で売れ行きを伸ばした背景には、2つの理由があった。ひとつ目はe-POWERの商品力が高いことだ。ハイブリッドだから燃費性能が優れ、e-POWERはエンジンが発電を行って駆動はモーターが担当するから、加速感も滑らかでノイズも小さい。
モーターは瞬発力が強いため、アクセル操作に対して車両が機敏に反応するメリットもある。つまりe-POWERは、燃費、動力性能、滑らかさ、静粛性などをバランス良く向上させて、魅力的なパワーユニットになった。
さらにe-POWERでは、エコ/スポーツモードを選択すると、アクセルペダルを戻すと同時に強めの回生が行われる。減速エネルギーを使って発電を行い、駆動用電池に充電する制御が活発になるわけだ。
そのためにエコ/スポーツモード時に、アクセルペダルを大きく戻すと、速度も大幅に下がる。この特性を利用すると、アクセル操作だけで速度を自由に調節できる。強めの減速を必要としない街中の通常走行では、ブレーキペダルを踏む機会がほとんどないほどだ。
この「ワンペダル走行」は、e-POWERの副産物と考えられる。ハイブリッドを含めたほかのクルマとは運転感覚が異なるので、違和感が生じたり好みに合わないこともあるが、日産は上手に宣伝してe-POWER搭載車の好調な売れ行きに結び付けた。
e-POWERの「ワンペダル走行」イメージ図
ノートとセレナがe-POWERで売れ行きを伸ばした2つ目の理由は、日産車のラインナップ事情だ。2011年以降の日産では、リーマンショックによる世界的な不況の影響もあり、国内で発売される新型車が滞っていた。
特に2015年頃になると、ティーダなども廃止され、好調に売れる日産車は、先代ノート、先代セレナ、現行エクストレイル、先代型のデイズやデイズルークスに限られていた。そのために売れ行きも下がり、国内における日産の販売順位は、トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに次ぐ5位となっていた。
その一方で日産は保有台数が多いから、乗り替えを希望するユーザーも豊富だ。2012年には先代ノートが登場したが、ティーダなどのユーザーから見ると物足りない。購入したい車種が見つけられずユーザーが困っていた時、2016年にノートにe-POWERが加わって乗り替え需要が集中した。
e-POWERは前述の通り加速が滑らかでノイズは小さい。ワンペダル走行にも新鮮味がある。当時は先進性を実感できるハイブリッドだったから、ノーマルエンジンを搭載するノートに比べると、満足感も高く売れ行きも伸びた。
一時はノート全体の約80%をe-POWERが占めた。前述の通り2018年には、小型/普通車の登録台数1位にもなった。セレナも事情は似ている。売れ行きを伸ばせるミドルサイズ以上の日産車が乏しく、販売力がセレナに集中した。
当時、トヨタの販売店からは「売れ筋の商品が限られる中で、日産の販売会社があれだけのセールスを保てるのは立派。販売力でしっかりと勝負している」という声も聞かれた。
このようにe-POWERは、CM効果まで含めた商品力と「e-POWERしか売れるクルマがない」切実な事情によって売れ行きを伸ばした。
e-POWERが成功したと一概に喜べる状況ではなかったが、日産はそのように受け取り、当初は日本向けだったe-POWERを環境技術の中心に位置付けている。燃費向上のニーズは海外が日本よりも強いほどだから、e-POWERの開発は世界的にもタイムリーであった。
現行ノートとキックスはe-POWERしかラインナップしなかった理由
e-POWER専用車として販売されているキックス
そして新型ノートやキックスは、e-POWERしか用意していない。この背景にも2つの理由がある。ひとつ目は前述の通りe-POWERの販売比率が高いことだ。
2つ目にはコスト低減がある。低価格のノーマルエンジン車を用意すると、エンジンなどに複数のメカニズムが必要になり、インパネやシートなどの内装まで作りわけなくてはいけない。
NAエンジン車はハイブリッドよりもライバル同士の価格競争が激しく、販売の好調な軽自動車とも競い合う。新型ノートはインパネからシートまで、内装の質を高めたが、同じものを150万~160万円のNAエンジン車に搭載するのは難しい。そうなると内装まで作り分ける必要が生じる。
これらの課題に対応すべく、選択と集中によって、新型ノートとキックスはe-POWER専用車になった。グレードも少ない。
新型ノートは3種類のみで、実際に購入されるのは運転支援機能のプロパイロットを唯一オプション装着できるXに限られる。
キックスはタイの工場で生産される輸入車でもあるから、グレードはXのみで、パッケージオプションを選べるだけだ。
新型ノートe-POWERの魅力とは?
2020年12月23日に発売した新型ノート。直3、1.2Lの発電用エンジンを搭載。モーターの最高出力は116ps/28.6kgmで出力は10%、トルクは6%アップ。価格は202万9500円~
新型ノートを運転すると、e-POWERの魅力を引き出す作りになっている。プラットフォームは、主に業務提携を結ぶルノー側が新規に開発を行い、新型になったルノールーテシアと共通だ。乗り心地、走行安定性、操舵に対する反応の正確性などを高い水準で両立させている。
内装も上質だ。プロパイロットやLEDヘッドランプをオプション装着すると、価格は割高になるが、車両自体の造りはライバル車のヤリスを上まわる。フィットに比べると、後席と荷室の広さでは負けるが、走行安定性と乗り心地では勝る。
2021年後半には新型エクストレイル登場
北米で発売された新型ローグ(日本名:エクストレイル)。アクの強い顔つきだが、もしかすると日本向けにはデザインが変更されるかもしれない
次期エクストレイルにもe-POWERが搭載される。e-POWER搭載車の価格は330万~380万円となる見通し
そして今後は、エクストレイルもe-POWERを搭載して登場する。北米ではエクストレイルの海外版となるローグがすでに発売されている(エンジンは2.5L、直4)。それなのに日本で安全面を含めて商品力の劣る旧型エクストレイルを売るのは好ましくないが、2021年の後半には次期型が登場する見込みだ。
次期エクストレイルの基本部分は海外の新型ローグと共通だが、パワーユニットは異なる。次期エクストレイルにはe-POWERが搭載され、次期アウトランダーと同様のPHEV(プラグインハイブリッド)を採用する可能性も高い。日産/三菱/ルノーの業務提携に基づき、次期アウトランダーを含めて、次期エクストレイルやローグと基本部分の共通化を進めるからだ。
このほかエクストレイルでは、価格の割安な2LのNAエンジンも加える。ノートやキックスよりも大きなミドルサイズカーだから、e-POWER搭載車の価格は、セレナe-POWERハイウェイスターと同等の330万~380万円だ。これだけでは価格帯が大幅に高まるので、270万~330万円のNAエンジン車も用意する。
以上のように、これから日産の国内における小型/普通車は、売れ筋車種についてはe-POWERが中心になる。コンパクトサイズはノートとキックス、ミドルサイズはセレナと次期エクストレイルという構成だ。これに軽自動車のデイズとルークスも加える。
イメージリーダーカーはフェアレディZだ。エルグランドは発売から10年を経過しながら、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジを実施した。同じパターンだった最終型のエスティマと同様、現行型が最後になる可能性もある。セダンも人気の乏しいカテゴリーだから、力が入りそうもない。
アリアなどの電気自動車は充実させるが、気になるのは将来に向けた環境技術だ。日本では総世帯数の約40%が集合住宅に住み、自宅に充電設備を設置できないユーザーも多い。電気自動車は大切な商品だが、直近で大量に売るのは難しい。
そうなると国内市場の主力車種は、前述のe-POWER搭載車と軽自動車だ。これからも少数精鋭で戦う。だからこそ各車種を大切に扱う必要があり、新型ノートは上質な国内専用車に仕上げた。
言い換えれば新型ノートを丁寧に作り込んだ背景には、国内で販売する日産車の数を抑える目的もある。ノートが国内販売を支える大切な柱になり、1車種でしっかりと稼いでもらう戦略だ。
セレナや次期エクストレイルも含めて、各車種の役割が今まで以上に重くなり、優れた商品力で販売の回復を目指す。もちろんトヨタとホンダのライバル車を駆逐することが前提だ。
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みんなのコメント
このライターの無知さ加減に呆れる。
止めました(VOLTボルト)・・・どうしても燃費が伸びなかった・・