■今、何よりも欲しいのは水素仲間
水素を燃料とする水素エンジンを搭載したトヨタの「水素エンジンカローラ」が、3回目となるレース参戦としてスーパー耐久の鈴鹿大会(9月18~19日)にエントリー。参戦1回目の富士大会(24時間耐久)、2回目のオートポリス大会(5時間耐久)に続き、5時間のレースで完走を果たした。
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ガソリン車より燃料補充の回数が増える関係上、周回数的はST-5クラス(=ロードスターやデミオ/同ディーゼルなどが参戦)の最上位より20周以上少ないものの、スピードではその上のST-4クラス(=86が参戦)にも並ぶタイムをマーク。着実な進化を伺わせる結果となった。
この水素カローラは“カーボンニュートラル時代に選択肢を広げる”ために、水素社会の実現に立ちはだかる様々な課題に挑戦、その可能性を実証することを目的としている。豊田章男社長肝いりのプロジェクトでもあり、自ら“モリゾウ”のエントリー名で参戦ドライバーのひとりを務めているのも特徴だ。
その豊田社長は以前より「敵は内燃機関ではなく炭素」と訴えているのはご存知のとおり。カーボンニュートラルに向けて電動化を唯一絶対の正解とするのではなく、ハイブリッドや内燃機関などを含め、様々な選択肢を使い分けてトータルで効果的にCO2を減らす方法を模索すべきというのがその主旨で、それが日本で自動車産業に関わる人々の雇用を守り、日本の基幹産業を守ることにもつながると繰り返し主張している。
その選択肢のひとつが“燃焼させても水しか発生しない”水素というわけだが、実現にはまだかなりの研究余地が残るため、トヨタは一緒に動く“水素仲間”が喉から手が出るほど欲しいのが実情。つまり水素カローラはレースで水素エンジンをアピールし、共感を集める広告塔という側面もあるわけだ。実際、Jパワーや川崎重工、岩谷産業などがプロジェクト参画を表明するなど、水素を「使う」トヨタを軸に、「作る」や「運ぶ」企業を巻き込んで仲間の輪は広がりつつある。
つまり今、モリゾウ選手はカローラでレースに出て“水素は面白いよ、日本の未来はココにあるよ”とアピールし、そんな活動に賛同してくれる仲間を絶賛募集中…というわけなのである。
■鈴鹿の水素カローラは“戦えるクルマ”に
前置きが長くなったが、以前のレポートにもあったとおり、富士戦でもある程度の速さは備えていた水素カローラ。しかしGAZOO Racingカンパニーの佐藤恒治プレジデントによれば、今回の鈴鹿戦に持ち込んだ車両は「開発が非常に順調に進み、クルマとしてのフェイズが1段階上がった」という。
この水素カローラのエンジンは、GRヤリスが搭載する1.6L・3気筒ターボのG16E-GTSに、インジェクターを水素対応品(ガソリンのように液体ではなく、気体を噴射する)とするなどの変更を加えたもの。しかし富士戦では市販GRヤリス(272馬力)よりも出力では10%以上低く、アクセルを踏んでもトルクが立ち上がってこないなどドライバビリティにも問題を抱えていた。
しかし鈴鹿戦の車両では、エンジン性能は市販GRヤリスと全く同等にまで向上。ドライバーからのコメントも“パワーがないなりにクルマをどうまとめるか”という方向だった富士戦に対し、鈴鹿戦では“130Rでもっと空力を効かせたい”など、より速く走るための要求へと変化。実際に鈴鹿でのタイムは想定していたより約2秒も速かったという。
モリゾウ選手も「富士はST-5クラスと競争していたが、鈴鹿ではST-4クラスを直線で抜けるかも?くらいまで来た」とコメントしており、水素カローラの所属チーム・ルーキーレーシングの片岡龍也監督も「車重が重いのでタイムはST-4と同等だが、出力的にはST-2(=GRヤリスやWRXが参戦)に近いところに来ている」と述べる。
他にも、水素のチャージ口を車体左右に設け、両サイドから給水素を行う仕様として富士戦で4分30秒掛かっていた給水素時間を約半分に短縮。富士戦からわずか1.5ヶ月でこれだけの改良を行えたのは、次のレースという期限があるモータースポーツゆえのスピード感だと佐藤プレジデントは語る。「モータースポーツのノウハウでもっといいクルマを作る」を旗印に掲げる豊田社長の面目躍如といったところだ。
■レースの場を借りた水素社会の実証実験
燃費に関しては富士戦から大きな進化はないものの、それでも高圧水素タンク内にフル充填された約7.9kgの水素で鈴鹿を8~9周(≒50km)走れると聞けば、レーシングスピードにおけるガソリン車の燃費と大きな差はないようにも感じる。水素タンクの容量アップや高圧化が図れれば、さらに面白いことになるかもしれない。
関わるエンジニアたちの表情からも「水素を使う」未来は明るそうに思えるが、水素社会実現への本当の課題は「どうやって水素を作るか」「それをいかに運ぶか」の2点に掛かっている。安く大量に水素を作り、それを末端にまで確実に供給できないことには、エンジンだけが快調に回っても水素社会の到来など絵に描いた餅だからだ。
ここに絡むのが冒頭の水素仲間たち。まずはJパワーが“褐炭”から水素を作る。褐炭とは水分量の多い若い石炭のことで、世界中に大量に分布するものの、乾燥させると自然発火しやすいため輸送が困難で、現地での発電程度にしか利用されていないという未開拓のエネルギー。価格も石炭の約10分の1と非常に安い。これを水素化して運ぼうというわけだ。今回はオーストラリアのラトロープバレーという場所で露天掘りされた褐炭を使うが、この場所だけでも日本の総発電量の240年分(!)に相当する埋蔵量があるのだという。
この水素を日本まで運ぶのは、今年6月に川崎重工が完成させた世界初の水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」。マイナス253度で液体化させ、気体時の800分の1の体積になった水素を1250立方メートルのタンクに貯蔵、9000km離れた日本まで16日間で運ぶ船だ(コロナ禍で完成が遅れ、今回の鈴鹿には水素運搬は間に合わず)。実験船なので一度に運べる量は約75トンとトヨタ・ミライ(満タンで約5kg)の1.5万台分程度に留まるが、この水素タンクは超高性能な魔法瓶とでも呼べそうな代物で、100℃の液体を入れて1ヶ月放置しても、温度の低下はなんと1℃以下(!!)。そんなものが物理的に作れるのか…と素直に驚かされる。
そして日本に到着した褐炭由来の水素は、すでにLPガスやLNGの輸送/供給に多大なノウハウを持ち、日本全国に53ヶ所の水素ステーションを持つ岩谷産業が中心となって「使う」人の元へと運ぶ。オーストラリアから日本への船舶輸送を大動脈とすれば、こちらは毛細血管に例えられるだろうか。ここも非常に重要な要素で、市場の末端にまで行き届く供給網が構築できて初めて、我々が気軽に水素を使える社会も実現できるといって過言ではない。
こうして作り、運んだ水素でカローラを走らせるというこのサイクル、それ自体がそのまま水素社会の縮図になっているという点にも注目して欲しい。この規模を大きくしていけば、それは水素の大規模サプライチェーンを構築することに繋がる。つまりは水素カローラのプロジェクト自体、レースの場を借りた水素社会の実証実験でもあるというわけだ。
このプロジェクトに対して批判的な意見、曰く「その水素カローラ、1km走るのにいくら掛かるのよ?」といった向きもあるだろう。しかし現状は「作る」「運ぶ」「使う」の小さな水素社会ムラを作り、それを回して起きる問題をあぶり出している段階だから、そこを切り取って追求する必然性は薄い。もちろん単純にコスト計算すれば天文学的な数字になるだろうが、実験段階である以上、現状のゼニカネを問うてもあまり意味はないだろう。
とはいえ“商用化”への仕込みも確実に進んでいる。企業公約としても水素社会の実現を掲げている川崎重工は「すいそ ふろんてぃあ」の128倍の水素を運べる超巨大運搬船の計画に既に着手しており、大量運搬でコストを下げ、2030年頃に本格商用化というスケジュールを早くも描いている。すべての計画が目論見どおりに進んだ場合、褐炭由来の水素はLNGよりやや高いくらいの価格で市場提供できるのでは…という目論見もあるという。
実は水素エネルギーの研究や開発は、日本が世界をリードしている数少ないエネルギー分野。某国のプロパガンダの匂いもする電動化の流れに対抗し、日本がエネルギー面でイニシアチブを握れる可能性をも秘めている。これが前述の豊田社長の主張にもつながるというわけだ。日本全体が水素社会への共感を通じて仲間となり、一致団結して日本を守り、日本を救う。トヨタが推進する水素カローラプロジェクトは、裏にそんな壮大な絵図を描いている……のかもしれない?
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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みんなのコメント
なにせ、10年以上先なんて非常識が常識になるくらい進歩が早いのだから。
水素燃料電池と水素内燃機関、だけでなく、
アンモニア燃料、藻のバイオ燃料、サトウキビ由来などアプローチは無限だ!