2021年4月3~4日に、サウジアラビアのアルウラで最初のレースウイークエンドを迎えた新世代の電動オフロード選手権『Extreme E(エクストリームE)』は、元F1王者ニコ・ロズベルグが率いるRosberg X Racing(ロズベルグXレーシング)から参戦する、WorldRX世界ラリー選手権3冠のヨハン・クリストファーソンと、オーストラリア・ラリー選手権王者モリー・テイラーのデュオが勝利。深い砂地と砂塵が舞う電動デザートバトルを制し、歴史に名を刻む初代ウイナーの称号を手にした。
地球環境保全活動とその啓蒙、さらに男女平等と独創的な放映形態を採用するまったく新しいEVオフロード選手権として、世界から大きな注目を集めて来たエクストリームEが、ついに開幕戦のときを迎えた。
エクストリームE開幕直前にも体制強化。ジェンソン・バトン率いるJBXEがロータスと提携
シリーズはそのユニークなコンセプトに従い、世界各地で気候変動の影響を受ける地域を選出し、各ラウンド特性をArctic(北極圏)、Glacier(氷河)、RainForest(熱帯雨林)、Desert(砂漠)、そしてOcean(海洋)とテーマ別に設定する。
この開幕戦の週末は“Desert X Prix”と銘打ち、中東の砂漠地帯を舞台に選んだ1戦となったが、土曜に行われた予選タイムトライアルから、3台同時出走による“Crazy Race(クレイジーレース)”やシュートアウト、そして準決勝と決勝に至るまで、ロズベルグXレーシングのふたりがペースセッターとして勝負の主導権を握り続けた。
土曜には、男女ドライバーが交代を行う“スイッチゾーン”に設けられた30km/hの速度制限を超え、60秒のタイムペナルティを科せられたにも関わらず、クリストファーソンとテイラーの実力者ふたりは合算タイムで総合3番手となり、F1覇者ルイス・ハミルトン創設のX44から参戦するWRC世界ラリー選手権9連覇王者セバスチャン・ローブとクリスティーナ・グティエレス組や、オール・スパニッシュで構成されるACCIONA | Sainz XE Team(アクシオナ | サインツXEチーム)のダカール・レジェンド、カルロス・サインツ&ライア・サンズ組に次いで、3番手で順当にセミファイナルへと駒を進めた。
■決勝最後のひと枠はアンドレッティ・ユナイテッドが確保
予選トップ通過となったローブ/グティエレス組は、まず準決勝に向けインサイド右側のグリッドを選択しターン1で優位に立つ戦略を採ると、サインツ、クリストファーソンと各種目の世界王者同士が横並びでホールショットを狙う豪華なスタートに。
この争いを制したのは58歳のサインツで、砂埃を舞い上げるダカールラリー覇者の背中を、ラリークロス界のスターが追う展開となる。するとバトル中にワイドラインとなった2台の隙を突き、再びローブがクリアな視界を得てアドバンテージを取り戻すと、今度はラリークロス経験者同士のバトルとなり、最初のゲートを通過するまでにクリストファーソンが首位を奪取してみせる。
そのまま視界不良に苦しむローブとサインツを尻目にスパートを掛けたWTCR世界ツーリングカー・カップ経験者は、2番手につける元所属チームのオーナーに対して13秒ものギャップを築いて、チームメイトの女性ドライバーにマシンを引き渡す。
最大出力400kW(約544PS)ながら、1650kgもの自重を持つワンメイク電動SUVの『ODYSSEY 21(オデッセイ21)』を受け取ったテイラーは、スバルWRX STIでオーストラリア国内選手権史上初の女性タイトルウイナーに輝いた腕前を存分に発揮し、ダカール経験者のグティエレスを30秒近く引き離してフィニッシュ。さらに38秒遅れてサンズがゴールし、ロズベルグXレーシングとX44の2チームがファイナル進出を決める結果となった。
その日曜決勝を前に、最後のファイナル出走枠を賭けて争われたクレイジーレースでは、HISPANO SUIZA XITE ENERGY TEAM(イスパノ・スイザ・XITEエナジー・チーム)から参戦するWorldRX世界ラリークロス選手権経験者のオリバー・ベネットと、新進気鋭の美女ラリースト“クリスティーナGZ”ことクリスティーナ・ジャンパオリ・ゾンカ組や、元F1チャンピオンで2018年スーパーGTのGT500クラス王者でもあるジェンソン・バトン率いるJBXEらを下し、北米の名門Andretti United Extreme E(アンドレッティ・ユナイテッド・エクストリームE)の2019年WorldRXチャンピオン、ティミー・ハンセン/ケイティ・マニングス組が勝利を飾り、決勝最後のひと枠を確保した。
■チーム創設者兼CEOのニコ・ロズベルグはレースに大興奮
そのアンドレッティ・ユナイテッドペアは、ファン主導の“GridPlay”投票の勝者としてスタートグリッド選択の優先権が与えられ、ハンセンは順当にインサイド右側を指定すると、中央にクリストファーソン、左サイドにローブと、さながらWorldRXグリッドのような並びでファイナルがスタート。
そこで敗者復活クレイジーレースと同様にロケットスタートを決めたハンセンだったが、大外のアウトサイドからクロスラインを狙ったクリストファーソンが鮮やかなラインで首位奪取に成功する。一方、この週末に複数の陣営で多発したパワーステアリングの問題に悩まされたローブは、残念ながらメカトラブルでペースが上がらず後退。再び30秒近いマージンを得てマシンを受け取ったロズベルグXレーシングのテイラーがトップで2周目へと入っていく。
安定感あるドライビングでギャップをコントロールした元豪州ラリー王者は、2番手で追いすがるERCヨーロッパ・ラリー選手権レディス・トロフィー獲得のマニングスを振り切り、23秒のマージンを保ってフィニッシュへ。記念すべき電動オフロード選手権初の、総合優勝ドライバーに輝いた。
「本当に“ヤバい!”ほど面白く、想像を絶するイベントだったね。この最先端のレースに対し熱心に努力してくれたチーム全体に感謝しているよ」と、現地で喜びを語ったチーム創設者兼CEOのニコ・ロズベルグ。
「僕らのエンジニアやメカニックは、多くの未知数と予測不能な要素が残るこの最初の週末に向け、完璧な準備をして挑んでくれた。モリーとヨハンは驚異的なドライビングを披露し、この厳しい状況で判断を間違えることなく信じられないほどのスピードを見せてくれた」と興奮気味に振り返ったロズベルグ。
「彼らのパフォーマンスは本当に刺激的で、技術的な問題によって引き起こされた60秒のペナルティの後に、こうしてカムバックして勝利を挙げるのは真に価値がある。チャンピオンシップ全体としても、本当に良いスタートになったね」
これでロズベルグXレーシング、X44、そしてアンドレッティ・ユナイテッドのランキングでスタートが切られたエクストリームEの初年度シーズン。各チームのオデッセイ21と機材はすべて、シリーズの“フローティング・パドック”となる元貨客船セント・ヘレナ号に積み戻され、5月29~30日開催の“Ocean X Prix”ことセネガル・ラックローズでの第2戦に向け出航する。
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