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物流危機どうなる “悪者”扱いされる水屋、政府の「多重下請け構造の是正」は現実的なのか?

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物流危機どうなる “悪者”扱いされる水屋、政府の「多重下請け構造の是正」は現実的なのか?

水屋の本音「自分は何次請けなのか」

 運送会社には2種類ある。自社でトラックを保有し貨物輸送を行う運送会社と、自社ではトラックを保有せず他社のトラックを利用する、つまり運送案件の仲介を行い、手数料で稼ぐ運送会社である。

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 後者のビジネス形態は「貨物利用運送事業」と呼ばれる。業界では、自社トラックを保有しないことをノンアセットと呼び、あるいは貨物利用運送事業を行う事業者を

「水屋(みずや)」

と呼ぶこともある。

 1台もトラックを保有しない純然たるノンアセットの貨物利用運送事業者も世の中にはいるが、自社トラックも保有しつつ、貨物利用運送事業も行っている運送会社も少なくない。西部運輸(広島県福山市)もそういった運送会社の一社である。

 同社は600台(グループ全体では1500台)以上の車両を保有しつつ、同時に利用運送にもチカラを入れている。同社では、利用運送を行うネットワーク開発事業部を18事業所まで拡大した。

 今回インタビューした東京営業所(港区)所長の伊藤研次氏は、同社において貨物利用運送事業を拡大してきた先達(せんだつ)である。

「そもそも仕事を引き受けるときに、自社が何次請けになるのかを確認することはないです。また仕事を依頼する協力会社(下請け)に対し、自社車両を入れるのか、それともさらに下請けを利用するのかをその場で確認することはありません。これらは、『しない』だけではなく、業界の慣習上、『できない』という事情もあります」

と伊藤氏は語る。では下請けに対してはどうなのか。

「必要なのは、実際に輸送を行う企業の車両における車番です。これは発荷主、着荷主から事前連絡を求められることが一般的ですから。ただ、その車両が、私どもが輸送依頼を行った運送会社のものなのか、ましてや間にさらに運送会社が入っているかどうかを確認することはできません」(伊藤氏)

 仮に、西部運輸が3次請けだった場合、同社の協力会社は4次請けとなる。協力会社が、さらに下請けを使った場合、たやすく5次請け、6次請けといった多重下請け構造が発生することになるのだ。

運送ビジネスが産んだ必然

 なぜ、トラック輸送では多重下請けが発生してしまうのか。伊藤氏は

「まず優先されるべきは、トラックの確保(= 輸送手段の確保)です」

と説明する。

 荷主からすれば、貨物が運べないという事態は最悪だ。だから貨物輸送を依頼された側の運送会社は、懸命にツテをたどり、クルマを探そうとする。そのツテが伸び切った場合、4次請け、5次請けといった多重下請け構造を生む。

 次に伊藤氏は、貨物利用運送事業者が果たしている役目を説明する。別の側面もある。

「例えば地方の運送会社の場合、関東まで長距離で来ても、ツテがなく帰り荷(※帰路の積み荷)を探すことが難しいです。だから地方の中堅・大手運送会社は、都市圏には営業所をおいて自社で営業活動を行い確保をしているわけですが、中小運送会社では営業所を設置することは難しいです。私どもはそういった運送会社の、いわば東京営業所として代わりに帰り荷を手配する役目も担っています」(伊藤氏)

 帰り荷がなければ、当の運送会社の経営が苦しくなるばかりでなく、荷主も帰り荷がないことを前提とした割高の運賃を支払うことを強いられる。対して、帰り荷を探してくれる貨物利用運送事業者がいれば、運送会社、荷主、そして貨物利用運送事業者のそれぞれが三方よしとなるわけだ。

 このように、貨物利用運送事業者は、営業能力、対外折衝能力などが乏しい中小運送会社の経営をサポートする役割も担っている。では、荷主や親請けとなる大手物流事業者に対してはどうか。

「大手荷主や大手物流事業者ともなれば、日々手配する車両は数百台超えの規模となります。直接、中間に入る貨物利用運送事業者を排し、実運送を担うすべての運送会社と日々折衝を行うことは、現実的にはとても難しいでしょう」

端的にいえば、多重下請け構造は必要とされているからこそ生じているのだ。

(運送業界に限らず)一般論として多重下請け構造は、中小企業にとって互助組織のような役目を担っている。営業能力・対外折衝能力などが不足している中小企業同士が、お互いの得意分野を生かし、仕事を融通し合うことで、生き残っていくのだ。

 と同時に、大手企業に対し、多重下請け構造の上位に位置する企業は、ビジネスを円滑に回すためのハブとして役目を担っている。

 トラック輸送ビジネスは、従業員20人以下の運送会社が約7割を占め、逆に従業員が1000人を超える会社が0.1%(72社)しかいない、巨大な中小企業の集合体である。この運送業界において、政府が目指す多重下請け構造解消のための施策など、現実的なのだろうか。

対策として政府が考えていること

「トラック事業における多重下請け構造の是正に向け下請け状況を明らかにする実運送体制管理簿の作成」、これは政府が2023年10月6日に発表した物流革新緊急パッケージの一文である。

 実は、全日本トラック協会が2017年3月に発表した自主行動計画では、

「2次下請けまでに制限する」

とあった。

 政府は下請けの数を制限するのではなく、運送案件ごとに下請け事業者をリスト化し、書面に残すことで多重下請け構造の健全化を図る方針のようだ(まだ、法制化されておらず、また具体的な「管理簿」の姿が見えないため、あくまで推測であることは断っておく)。この方針について、伊藤氏はどう考えるのか。

「私ども貨物利用運送事業者にとっては、とても厳しい方針です。いわば、『手の内を見せろ』といわれているようなものですから」

 確かにそのとおりだ。貨物利用運送事業者にとっては、協力会社とのコネクション、分かりやすくいえば

「協力会社の名簿(仕入れ先)」

そのものがノウハウであろう。また、管理簿のような形にされてしまうと、協力会社への下払い金額が、荷主に推測されてしまう危惧もある。

 ただし、運送会社、とりわけ下請けの下位にある運送会社の関係者からは、「多重下請け構造の解消」という政府方針に対し、賛同の声も少なくない。

「私どものような貨物利用運送事業者に対し、『俺たちのアガリをピンハネしやがって……』といった声があるのは、もちろん知っています。しかし、私どもは果たすべき役目をきちんと果たした上で、運営上必要なコストや、ビジネス利益の確保として、その手数料を頂いているに過ぎません。そもそも取引条件(運賃や仕事内容など)に不満があるのであれば、その仕事を受託しなければいいだけです。それを承知で引き受けておいて、後から苦情をいうのは、筋が違うのではないでしょうか」(伊藤氏)

現実的でない価格帯の仕事拒否

 今回、実はインタビューに先んじて、西部運輸東京営業所の事務所で数時間、仕事を見学させてもらった。

 いわゆる水屋というと、同時に数本の電話を受けながら、まるで市場の競りのように運送案件をマッチングしていく様子を思い浮かべる業界関係者もいるだろう。だが、伊藤氏らの仕事は違った。まず、実運送を担っているトラックドライバーと密に連絡を取っている。軒先条件(配達先における注意事項)を丁寧に説明する様子は、とても好感が持てた。

 また、荷主や親請け物流事業者に対し、堂々と運賃交渉を行っている様子も見学していて爽快だった。

「この運賃では、引き受けるところはありませんよ。最低でも◯◯円は出してもらわないと……」

 いわゆる水屋のなかには、協力会社の懐事情などお構いなく、とんでもなく安い運賃で仕事を引き受けるところもある。実際、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)も、水屋から「帰り荷だから3000円でいいでしょう?」といわれ、引き受けていた運送会社を知っている。

「私どものポリシーとして、現実的でない価格帯の仕事は引き受けません」

と伊藤氏は説明する。この貨物利用運送ビジネスに対する倫理観は、大切だ。だが、こういった倫理観を持たない貨物利用運送事業者もいるのが、現実でもある。今回、多重下請け構造について取材を行っていて気になったことがある。

「そもそも政府は、多重下請け構造の何を問題にしているんですか」

 このように尋ねてくる業界関係者が何人もいたのだ。つまり、多重下請け構造の存在は、なんとなく「良くないこと」と感じつつも、その具体的な課題を共有できていないということになる。

多重下請け構造の現実的改善

 政府は、2023年6月に発表した「物流革新に向けた政策パッケージ」において、多重下請け構造の是正の目的を、

「実運送事業者の適正な運賃の確保による賃金水準の向上等を実現するため」

としている。

 確かに、下請け構造の下位にある運送会社の売り上げや利益は、荷主と直接取引をしている運送会社のそれと比べ低くなりがちであろう。当然、ドライバーら従業員の収入も低くなる。また、そういった運送会社が、総じてコンプライアンス違反を犯しがちなのも確かだろうとは思う。

 だが、現在の状況は、多重下請け構造の解消という手段が目的化してしまい、解決すべき課題が置き去りにされている懸念がないだろうか。極論だが、多重下請け構造を維持したままでも、

「実運送事業者の適正な運賃の確保による賃金水準の向上等を実現する」

ことができれば、そのほうが望ましくはないだろうか。

 例えば、最低運賃の法制化や、貨物利用運送事業者に対する下請けルールの制定など、実は多重下請け構造を適正・健全化する方法はあると、筆者は思う。

 ぜひ政府には、貨物貨物利用運送事業者の果たしている役目も検証し、本当に効果のある、そして現実的な多重下請け構造の是正に取り組んでもらいたい。

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みんなのコメント

44件
  • 全ての水屋が悪い訳ではないが、一部の悪い水屋が存在する事は確かです。自社の内で、2つ3つ間に入り2重3重で抜く。
  • 利用運送が一時的なものなら問題ない(スポット便っていう)
    問題なのは、荷主企業が直接、運送会社に委託していた配送を、利用運送会社が営業をかけて、奪ってしまうこと(多くは運賃を下げて配送します。っていう営業ト-ク)。利用運送だからトラックはもってないので、結局下請けにやらせる。さらに、従来の委託運送会社にも下請けでやるよう圧力をかける。
    利用運送は規制が緩すぎる。ピンハネだけして、事故に対する責任も運転手の労働時間も気にせず、挙句に荷物が配送できなくても責任とらない。
    なんで規制しないのか?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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