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テーマは“逃げ馬型”マシンからの脱却。スーパーフォーミュラで9戦ぶり表彰台の野尻智紀、首位坪井への追走で見せた復活の兆し

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テーマは“逃げ馬型”マシンからの脱却。スーパーフォーミュラで9戦ぶり表彰台の野尻智紀、首位坪井への追走で見せた復活の兆し

 絶対王者の復活を予感させるレースだった。オートポリスで行なわれたスーパーフォーミュラ第5戦、2021年・2022年のシリーズチャンピオンである野尻智紀(TEAM MUGEN)は、今季3度目となるポールポジションから発進して2位表彰台を獲得。昨年夏の第5戦(3位)以来、実に9戦ぶりのポディウムとなり、久々にレースでの力強さを見せた。

 優勝はVANTELIN TEAM TOM’Sの坪井翔だったが、野尻も戦略判断次第では坪井を抑えて優勝していてもおかしくないほどのパフォーマンスを見せていたため、野尻本人も担当の田口顕人エンジニアも、勝てるレースを落としたことへの悔しさを滲ませた。

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 とはいえ、今回の2位は大きな意味を持つかもしれない。ここ最近はレースペースに苦しみ、優勝はおろか表彰台にも届かないレースが続いていた野尻にとって、TEAM MUGEN 16号車が抱える課題を解決する糸口が見つかったかもしれないからだ。

 チェッカー後の無線で野尻はこう語っていた。

「こんなペースで決勝走れるのは今までなかったから、悩んでたところが解消された気がする。そこはすごくポジティブ」

■先行逃げ切り型からの脱却

 ここ数年スーパーフォーミュラを観ているファンにとっては周知の事実かもしれないが、野尻(というより野尻のマシン)は典型的な先行逃げ切り型。彼は初王座を獲得した2021年以降で10勝を記録しているが、その内8回がポールトゥウインとなっている。ただ、特にここ最近は予選で上位グリッドを確保してもポジションを落とす場面が目立っていた。

 その要因は当然それぞれのレース展開にも依存するが、野尻のマシンのセットアップ傾向も大きく関係している。近年の16号車は“硬い”マシンが基本コンセプト。つまりサスペンションを固めて低い位置で車高を安定させることによって、強力なダウンフォースを武器にパフォーマンスを出す方向性だ。

 ただ空力に依存した硬いマシンには弱点がある。例えば単独走行の予選では速く走れても、決勝ではひとたびライバルの後ろに回ってしまうとダーティエア(乱れた気流)の影響を人一倍受けてパフォーマンスが落ちてしまう。そしてそもそも、燃料を積んで多く積んで走る決勝では車速が落ちるため、頼みの綱であるダウンフォースの量が予選よりも下がってしまうなどの問題もある。

 しかしながら今回のレースで野尻は、坪井の後ろに下がってからもペースを維持し続けた。ジリジリ離され最後の数周は2秒ほどに差が広がったが、それまでは1秒前後のギャップで周回していた。

 その要因は何だったのか? 野尻が記者会見で語った話と、その後田口エンジニアに聞いた話をそれぞれ整理する。

 まず野尻は、決勝日の朝に行なわれた予選の終盤にコースオフしてしまい、ダメージを負って交換したフロントウイング等のエアロパーツの確認などに時間が必要だったと説明した。ミリ単位どころかコンマ数ミリ単位の調整で速さを追求するスーパーフォーミュラでは、パーツが新品に入れ替わるだけでパフォーマンスに少なからず影響が出ることもある。パーツ交換後のマシンはかなりのダウンフォースが出ていたようで、いつもよりもウイングを寝かせたり、フロント車高を上げたりして調整したほどだという。

■レースペースが良くなった原因

 ただ野尻はそれらの調整に時間がかかったことで、決勝はこれまでと同じコンセプトの“硬い”マシンで走らざるを得なかったと話している。硬いサスでは荷重を適切にかけられないからか、コールドタイヤでのウォームアップも課題に挙げており、それがタイヤ交換後のアウトラップで坪井に逆転を許す一因にもなった。

 にもかかわらず坪井への追走では良いパフォーマンスを見せたわけだが、田口エンジニアは空力パーツの変更が影響した可能性と、限られた時間で行なったメカニカルグリップ(サスペンションから来るグリップ)の調整が功を奏した可能性の両面を指摘した。

「いつもは前走者がいる時のフォローイング(追従性)がめちゃくちゃ良くないのですが、今回それが良かったのはエアロ起因のモノもあるかもしれません」

「また、ウォームアップから決勝にかけてメカニカルの部分でもいじったところはあります。僕たちはエアロ命でクルマを固めて走っている傾向がありますが、それを脱却すべく変更した中でメカニカル方向に向かってくれている感じはあるので、そこはヒントになったかなと思います」

 また野尻も、レースペースが良くなった要因はひとつではないだろうと話した。

「まず、15号車(チームメイト岩佐歩夢のマシン)と16号車で結構違うという部分はずっとあります。特にレースになると違う動きをしているところがあり、セットアップ以外にも何かある印象でした。2台を乗り比べた時も結構違うなと思いました」

「向こう(15号車)の良いところはトラクションだと思っているのですが、今回その辺がだいぶ改善されました。エンジニアが考えるセットアップだけでなく、メカニックがどうクルマを仕立てるかという部分も含め、一歩進んだ気がしています」

■答え合わせは富士テストで!

 いずれにせよ、これらの答え合わせをするのは6月の富士テストとなる。ただ野尻陣営としては、今回のオートポリス戦で様々なヒントを得たことで暗中模索にならずに済みそうな予感。これは田口エンジニアも前向きに捉えている。

「(富士テストに向けて)切り分けて考えられること、省けるもの、新たに見なければいけないものなど、色々と出てきました」

「富士テストでは、ある意味当てずっぽうのような形であちこちコンセプトを変えて……ということになりかねなかったので、ヒントが見つかったのは良かったなと思います」

 2年前、導入されたばかりのSF23に手を焼き低迷していたDOCOMO TEAM DANDELION RACINGが、シーズン途中の富士テストを機にスイートスポットを見つけ、以降シリーズをリードする存在になったのも未だ記憶に新しい。そんな重要な富士テストに向けて野尻陣営は光明が見え始めている。その成果によっては、後半戦のタイトル争いを面白くしてくれる存在になるかもしれない。

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