革新技術を搭載したホンダのキング・オブ・コンパクト「シティ」
ホンダといえば、1963年に軽トラックのT360で4輪市場に参入して以来、現在のN-ONEのご先祖モデルであるN360や世界初の低公害エンジンであるCVCCを搭載したシビックなど、数々の実用車やスポーツカーを発売してきたメーカーだ。そんなホンダが突如ファニーな、まるでファッションアイテムのごとく個性を主張するモデルを発売。それが1981年登場の「シティ」である。
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現代のクルマづくりにも通じる哲学を40年以上も前に採用
シティの魅力は、小さな専有面積で居住性に優れる背の高いトールボーイデザインを採用しながら、優れた燃費と動力性能を発揮するコンバックスエンジンを搭載した、新しいコンセプトで登場したこと。パッケージングは現在の軽ハイト系につながるライフ・ステップバンの後継とも言えるし、小さなボディで広い車内と優れた燃費&動力性能は、まさに現在のクルマにも共通するもので、時代をいち早く先取りしていたとも言える。
マン・マキシム/メカ・ミニマムを貫いた斬新のスタイリングは衝撃的
この初代シティは丸目2灯の可愛らしいフロントマスクが印象的だが、ホンダの根底にあるマン・マキシマム/メカ・ミニマムの思想が貫かれ、エンジンルームの空間を極力抑えた構造であった。その分、前後席は背が高いことを活かした着座位置で、広いと感じられる室内空間を実現。そして後輪の後ろはわずかなバンパーがあるほどの短さで、3ボックスの4ドアセダンが基本の時代に、斬新なハッチバックスタイルは衝撃的であった。
もちろんシティのような2ボックスの3ドアハッチバックモデルが珍しかったわけではないが(軽乗用車はこの形が基本)、二輪も手掛けるホンダならではのシティに積み込めるモトコンポ(原付バイク)の発売もあり、旅行先ではバイクで移動する6輪ライフの提案も含め、当時の若者たちに新しいライフスタイルの形として新風を吹き込んだ。
ターボに続いてブルドッグの愛称で親しまれたターボIIも登場
そして発売から一年後の1982年には早くもターボ仕様を追加した。現在にも続く電子制御式燃料噴射であるPGM-FIとターボを組み合わせたエンジンは、当時世界初となる1.2Lの小排気量ターボで、最高出力100ps/最大トルク15.0kg-mを発揮。当時の10モード燃費で18.6km/Lの低燃費も両立したことでヒットモデルとなった。また、ボンネットにはパワーバルジが備わり、ひと目でターボだとわかる性能とスタイリングがリンクして、オーナーは「うちのはターボだよ!」とアピールできる優越感に浸れるエクステリアとなっていた。
1983年にはインタークーラーターボを採用したターボIIを発売。オーバーフェンダーとバッヂからステッカーに代わったホンダのエンブレム、フェンダーミラーからドアミラーに変更されスッキリしたエクステリアに一段と迫力を見せるパワーバルジをデザインしたことで、このターボIIには「ブルドック」の愛称が与えられた。
さぞかし1981年のデビュー直後にシティを購入したユーザーや、翌年ターボを手に入れたオーナーたちは「えっ? こんな新型が出ちゃうの!?」という思いに駆られたことだろう。国産車が急激に高性能化した時代とはいえ、これほどの短期間で性能向上を果たしたことでユーザーを惑わせたクルマはこれまでにあっただろうか。
唯一、当時としては貴重であり物珍しかった1984年発売の「カブリオレ」を手にしたオーナーはこうした波風を知らないユーザーだろう。というのも、著名なイタリアのカロッツェリアである「ピニンファリーナ」の手を借りて開発されたカブリオレは、流麗なスタイリングと唯一無二といえる機能性もあって、ターボIIに引けととらない存在感をアピールすることができた。
大ヒットのなかでホンダが不得手だった商用バンのプロは不評に終わる
あらためて初代シティを振り返ると、偉大な大ヒットモデルであった。だが、あまりにも短期間でモデルチェンジが行われ、ユーザーを複雑な思いにさせたクルマであったとも言える。また、商用が前提の4速MTの「プロ」(ATの設定あり)は不評であった。
販売店によると、理由はそもそもホンダは商用車を売り慣れていないということと、耐久性に難があったとのこと。そういえば、バンやタクシーなどハードに使われるクルマを現在でも実際に生産しているメーカーは少ない。つまり商用車を作るのは乗用車とはまた違ったノウハウが必要ということだろう。
2代目シティは初代のコンセプトを覆すロースタンスでデビュー
そして新開発の1カム(SOHC)16バルブのエンジンと、クラス初の新設計4速ATをウリに登場した2代目シティは、一転して背の低いホンダらしいスポーティなスタイリングに変わってしまった。
これは初代シティが「ライフ・ビークル」、2代目が「パーソナル・トランスポーター」というコンセプトであったことに注目したい。初代はたとえ独身者であっても後席を常時使うような、仲間とワイワイ楽しむクルマであり後席の居住性が求められた。対して2代目は、物が豊かな時代に育った若者向けの前席優先車という違いがあり、ホンダとしては時代を先取りした感覚だったに違いない。
もちろん、環境性能(低燃費)を高めるためには空気抵抗を減らすことも重要であり、低いスタンスとしたことが結果的に軽自動車のトゥデイと似てしまったのだろう。ちなみにどちらもマイナーチェンジを受けると、ますます似たようなスタイリングになるのが面白い。そして筆者は初代オデッセイを初めて目にした際に思ったのが、2代目シティのマイチェン後モデルに似ていること。昔からホンダはこうした形状がお気に入りだったのだろう。
2代目のジンクスにハマり偉大すぎる初代の陰で泣いた次男坊
最後に環境性能追求の話だが、ホンダは早くから環境や燃費を意識し続けたメーカーであり、初代シティもターボ化によって出力が向上しているにも関わらず燃費が悪くなっていないことをアピールしている。自然吸気67psの10モード燃費は10.0km/L、ターボIIが110psで10モード燃費が17.6km/Lだから、ホンダの言い分もわかる。そして2代目シティでもっとも燃費に優れた仕様で10モード燃費が20.0km/Lとなっている。こちらはターボなしの76ps仕様であり、実用燃費とかけ離れていると言われる10モードだが、ホンダは早くから環境性能にこだわってきたことだけは、この数値を見て疑う余地はない。
初代シティは大ヒットモデルとなった。それゆえに大なたを振るったような2代目の方向転換で、良くも悪くも話題となった。人はクルマに愛着を持つ。そしてそれは車名にもおよび、自分の理解の範囲(許容範囲)を超えてしまうと、さほど興味のないクルマになってしまう。
2代目シティは大ヒットとは言えないまでも、後世で語られるほど販売が不振に陥るような「外した」クルマではなかった。それ故に光と影で表現するならば、2代目シティを影と表現するのは酷であるように思うが、それでもターボやブルドッグのターボII、そしてカブリオレなど、話題を次々に振りました初代シティは偉大であり文句なしに光り輝いていたと言える。
■ホンダ・シティターボ主要諸元○全長×全幅×全高:3380×1570×1460mm○ホイールベース:2220mm○トレッド 前/後:1370mm/1370mm○車両重量:690kg(サンルーフ装着車700kg)○乗車定員:5名○最小回転半径:4.5m○室内長×全幅×全高:1615mm×1310mm×1175mm○エンジン ER型直列4気筒OHC12バルブ○総排気量 1231cc○最高出力 100ps/5500rpm○最大トルク 15.0kg-m/3000rpm○サスペンション 前後:ストラット式○ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/LT油圧式○タイヤサイズ 前後:175/70HR12
■ホンダ・シティターボII主要諸元○全長×全幅×全高:3420mm×1625mm×1470mm○ホイールベース:2220mm○トレッド 前/後:1400mm/1390mm○車両重量:735kg(サンルーフ装着車745kg)○乗車定員:5名○最小回転半径:4.6m○室内長×室内幅×室内高:1615mm×1310mm×1175mm○エンジン:ER型直列4気筒OHC12バルブ インタークーラーターボ○総排気量:1231cc○最高出力:110ps/5500rpm○最大トルク:16.3kg-m/3000rpm○サスペンション 前後:ストラット式○ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/LT油圧式○タイヤサイズ 前後:185/60R13
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