ロールス・ロイスの最上級モデル「ファントム」がマイナーチェンジを受けた。南仏で試乗した今尾直樹がレポートする。
現代のラグジュアリーを考える旅
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イギリスの高級車メーカー、ロールス・ロイス・モーター・カーズが旗艦、ファントムのマイナーチェンジ版を5月に発表し、6月に南仏コート・ダジュール、フレンチ・リヴィエラとも呼ばれる高級リゾート地で「ファントム・ランデヴー」と題したプレス試乗会を開いた。
筆者はシリーズIIとなった新型ファントムをテストするとともに、彼らが組んだ2泊3日のラグジュアリーなプログラムを満喫してきた。それは現代のラグジュアリーについて、いろんなことをあれこれ考える旅だった。
ロールス・ロイスから事前に送られてきた写真で見た通り、宿のメイボーン・リヴィエラ・ホテルはモナコを見下ろす崖の上に建っていた。クラリッジやコノート、バークレイなど、ロンドンの名門ホテルを傘下にもつメイボーン・ホテル・グループが2021年夏にオープンした5つ星のリゾート・ホテルである。
部屋に案内されると、南向きのプライベート・テラスがあり、薄いブルーの地中海が彼方に広がっている。空と海の境界の定かならぬ水平線を確かめつつ視線を右に移動していくと、白い豪華客船が2隻、そしてモナコの街が見えた。絶景である。
到着したのはちょうどお昼どきで、レストランでランチが用意されているということで行ってみると、広報の女性が歓迎してくれた。「何を飲みます? シャンペン?」と聞かれ、「イエス、プリーズ」とお願いすると、ゴッセという世界最古のシャンパーニュ・メゾンの赤いラベルのついたボトルが開けられ、グラスに琥珀色の液体が注がれた。酵母と柑橘系の果実の香りが漂い、ひとくちふくめば、爽やかな酸味と軽い炭酸の味わいが広がる。う~、うまいッ!
昼食後、私はロールス・ロイス初のSUV「カリナン」の後席に乗せてもらってモナコにある水族館見物に出かけた。1910年にプリンス・アルバート1世が設立した「オウシャナグラフィック」という、元とは海洋博物館としてつくられた施設で、現在は水族館と海洋研究の拠点になっている。
館内は子ども連れのファミリー、若者のグループなど、老若男女でいっぱいで、私はシンガポールの記者と一緒に、海洋学を学ぶ大学院生でもある青年の解説を聞きながら、ガラスの向こうの透明のクラゲやカラフルなサンゴ、熱帯魚、そしてサメやカメやタコ、さらに特別ツアーとして、展示の舞台裏やサンゴの養殖施設などを見せてもらった。
クラゲは原始的な生き物だけどオスとメスがあるとか、ナントカという小さな魚はオスとメスが変わるとか、ヒトデは切っても再生するとか、サメは泳いでいないと呼吸ができなくなるから泳ぎながら眠る、でも同じサメでも水槽の下のほうにいる大きなサメは動かなくても呼吸できるとか、生命の不思議について少しだけ思いを馳せた。少しだけ、というのは私の英語力では青年のお話がほとんどわからなかったからだ。う~む。ちょっと悔しい……。
ロールスとコート・ダジュール
ホテルに戻ってひと休みしたあと、18:30からプレゼンテーションが始まった。最初に広報のリチャードさんがロールス・ロイス・ブランドと今回のイベントの目的について語った。
ロールス・ロイスは高級車のピナクル(頂点)ではない。ラグジュアリー・プロダクトのピナクルである。だからこそ、高級時計のロールス・ロイスだとか、ナントカのロールス・ロイスという表現が使われる。
フレンチ・リヴィエラをファントム・ランデヴーの場所に選んだのは、ラグジュアリーといえばコート・ダジュールであり、ロールス・ロイスとも浅からぬ因縁があるからだ。
余談ながら、リチャードさんは南アフリカ出身で、1980年代の数年間を東京で過ごした。なにをやっていたのですか?と訊ねると、それは言えない。あの頃のロッポンギはパーティ・タウンだったぁ、とだけ元気に言って煙に巻くのだった。
閑話休題。コート・ダジュールは大英帝国の絶頂期の19世紀末、ヴィクトリア女王が静養のためにしばしばこの地に滞在したこともあって英国民に、さらには世界に知られるようになった。女王が滞在するとなれば、貴族・富裕階級も一緒にやってくる。上級階級が冬になると引っ越してくるのだから、この地がラグジュアリーの代名詞となるのも当然だ。
ロールス・ロイスのふたりの創設者、チャールズ・スチュワート・ロールスとヘンリー・ロイスがロンドンのホテルで初めて会ったのは1904年5月4日のことで、そのわずか2年後、パイオニア・モータリストのロールスがロイスのつくった「ライト20」という4気筒モデルでモンテカルロ~ロンドン間を、ブーローニュ~ドーバー間の船旅も含めて平均27.3mph(43.7km/h)で走破するという新記録を打ち立てた。若きロールスの活躍で、ロールス・ロイスという新しいブランド名とそのタフネスぶりは上流階級のあいだにたちまちにして広まったのである。
ロールスは貴族だったから、コート・ダジュールには馴染みがあっただろうし、いっぽうのヘンリー・ロイスは1912年に、モナコから150kmほど南のカナデルという村に別荘を建てて、1933年に亡くなるまで、毎冬をラ・ミモザと名づけたこの別荘で過ごした。
ロイスは貧しい粉挽の息子として生まれ、刻苦勉励して、ほとんど独学で電気技師となり、発電機や電動クレーンを開発、40歳になってから自動車づくりに挑み、ロールスと出会って成功をつかんだ。飛行家でもあった冒険野郎のロールスは1910年、飛行機事故で亡くなる。享年33歳。同じ頃、ロイスも長年の不摂生から大病を患い、このままでは死ぬぞ、と医者に転地療養をすすめられ、70歳の天寿をまっとうした。
今回は行けなかったけれど、ラ・ミモザは現存しているそうで、もしかして最新のファントムでわれわれが走った同じグラン・コーニッシュを、サー・ヘンリー・ロイスも1925年発表の「ファントムI」でドライブしたかもしれない。およそ100年後にコート・ダジュールを走る新型ファントムを、サー・ヘンリーも見たかったに違いない。幽霊が出てこなくてよかった……というのは筆者がファントムつながりで、いま思いついただけですけれど、そろそろ肝心のファントム・シリーズIIのフェイスリフトについて触れておかなければならない。
さらに充実したビスポーク
どこが変わったのか?というと、ほとんど変わっていない。ローマのパンテオン神殿をモチーフにしたグリルとヘッドライトの水平の線が一直線で結ばれるようになったのと、グリルに2020年発表のゴースト同様、LEDで夜、ライトアップされるという仕掛けが組み込まれた。それと、ヘッドライトのまわりにレーザー加工で小さな穴が左右それぞれ560個ずつ開けられ、星空のように光る。これはロールス・ロイスの最近の名物、天井のスターライト、人工の星空と対をなしていて、このあと実物で確かめてみたら、ピカピカ神秘的に光って、目のメイクの一種のようでもあった。
それ以外、ハードウェアの変更は基本的になく、それよりも強調されたのはビスポークの充実ぶりだった。リチャードさんのお話のあと、隣の部屋に移動し、ビスポークの責任者がスクリーンにその例を映し出しながらこんなことを語った。
「ファントムはクライアントにとって大きな白いキャンバスとして信じられないほど最適です。ファントムは単なる“ザ・ベスト・カー・イン・ザ・ワールド”ではない。クライアントそれぞれの世界でベスト・カーでなければならない。彼らのライフスタイルにフィットし、そのキャラクターにとってのキャンバスでなければならない。われわれのクライアントと手がけた作品をお見せしましょう」
そうしてビスポークの実例が次々に紹介された。日本の庭にヒントを得たという、天井とシートの部分にブルーのシルクが張られ、そこに手書きで花の絵が描かれた例だとか、南アフリカのクライアントが発注した南アの国宝と呼ばれるアーティストのアフリカっぽい幾何学模様が内装に施された例、あるいはZOZO創業者の前澤友作氏発注の、エルメスとのコラボを実現した“オリベ”だとかがスクリーンに映された。
ファントムのクライアントには20代もいれば、60代もいて、伝統を好むひともいれば、モダンが好きなひともいる。ラグジュアリー・プロダクトのピナクルであるロールス・ロイスの頂点。ファントムを所有するということは、それ自体がステイトメント、主張なのだ。それをさらに自分らしく主張するために、国や家族との思い出の品、たとえばロッキング・チェアだとかに思いを託す。こうした多様な一人ひとりに応えるのがビスポークなのである。
そのビスポークの見本として、ロールス・ロイスは今回、8種類のユニークなキャラクターのファントムを製作。“ペイトリオット(愛国者)”、“ファウンダー(創設者)”、“アイコクライスト(因習打破主義者)”、“センチメンタリスト(感傷的なひと)”、“プロディジー(神童)”、“エクストラバート”(外向性のひと)、“コニッサー(目利き)”、そして“アリストクラート(貴族)”というのがそれらで、このプレゼンでは出てこなかったけれど、さらに“プラチノ(プラチナ)”、“マーヴェリック(異端者)”というのも資料にはある。
う~む。なんだか、とにかくすごいなぁ……、と呆気にとられつつ、ホテルの中庭に実物がおいてあるということで、筆者もシャンパーニュのグラスを手に外に出た。
中庭には、“ペイトリオット“と“センチメンタリスト”が展示されており、筆者はより近くにあったペイトリオットをまずはマジマジと眺めた。濃い赤のメタリック・ペイントのCピラーには風にはためくユニオン・ジャックのデザインが白線で描かれ、純白の内装の後席のテーブルにはエリザベス女王がお好きだというアペリティフ、フランスのワイン・リキュール「デュボネ・ルージュ」のボトルが置いてある。イングランドの愛国者、ということなのだろうけれど、セックス・ピストルズのメンバーが乗っていてもおかしくない、パンクな雰囲気もなんとなく漂う。
センチメンタリストのほうは純白のボディに、ローズ・ゴールドのスピリット・オブ・エクスタシーがグリルの上に鎮座している。
筆者は翌日、この10台のうち、センチメンタリストでモナコの背後の山中の狭いワインディング・ロードを駆け巡ったのだった(つづく)。
文・今尾直樹
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