軽量化しない代わりにブレーキ大型化とトルク重視で重さを封じ込めた
「Rに勝てるクルマはRだけ」。そう言い切って、マツダ「RX-7」やトヨタ「スープラ」から乗り換えた男は、GT-Rを速くするうえでひとつの掟を自らに課した。軽量化はしない。快適装備はすべて残す。それでも仙台ハイランドでコースレコードに迫るタイムを刻む。MCR代表・小林真一さんのBNR34を、2004年のヤングバージョン誌から振り返る。
「2000万円で売ってほしい」オファーを即答で拒否。新車から34年乗り続けるR32 GT-Rの圧倒的オーラ
(初出:ヤングバージョン2004年1月号)
「Rに勝てるクルマはRだけ」。RX-7やスープラから乗り換えたMCR代表の原点はストリートにあった
取材当時から屈指のGT-R使いとして知られていたのが、埼玉県八潮市のチューニングショップ「MCR(Matchless Crowd Racing)」を率いる小林真一さんだ。じつは当初、小林さんはRX-7やスープラに乗っていた。当時走っていたストリートのステージで、日産「スカイラインGT-R」のポテンシャルを痛感し、「Rに勝てるクルマはRだけ」と考えて、取材時点から約10年前にGT-Rへの乗り換えを決意したという。以来、乗り継いだGT-Rは10台を超える。
ストリート出身だからこそ、小林さんのチューニングの基幹は「いつでもどこでも乗れるGT-R」にある。取材のころには活躍の場をサーキットへ移していた。それでも、エアコンやリアシート、カーペットといった快適装備を外さないマシンメイクは以前と変わっていない。気が向けば近場の峠を流しに行くこともあり、普段から乗っているからこそGT-Rを手足のように使える。お客さんのクルマも同じポリシーで、快適装備を残したままストリートやサーキットを走り込んでいる。
軽量化しないどころかロールバーで重くなる。だからブレンボのブレーキ大型化とトルク重視のエンジンで勝負する
快適装備を残すぶん、重量面では不利になる。最大のネックはやはり重さだ。軽量化しないどころか、サーキット走行のためのロールバーを装着しているため、ノーマルより確実に重い。ロールバーはリアのみで、斜行バーにはビデオカメラを装着し、走行後に自分の走りをチェックする。シートはBRIDE製のフルバケットシートに交換している。
そこで小林さんは、ブレーキをキャリパーとローターともに大型化した。ブレンボ製キャリパーは元がシルバーだったのに、あっという間に熱でゴールドっぽく変色したという。ブレーキの熱の入り方が、このクルマの走りの激しさを物語る。オリジナルの新製品スペーサーは軽く、強度も高いと小林さんは話す。
エンジンはあえてピークパワーを抑えた、トルク重視のセッティングだ。HKSのGT-RSタービンをツインで装着し、ピストンとカムもHKS製に換装。720ccのインジェクターとボッシュ製燃料ポンプ2基で燃料を供給し、F-CON V Proで制御する。セッティングはダイノパック(シャシーダイナモ)と実走を繰り返して詰めた。出力は650psで、トルクは75kg-m(約735N・m)に達する。このトルクが1.5tを超える重量級ボディを軽々と加速させる。トルクバンドが広く、扱いやすい特性に仕上がっているのがストリート仕様たるゆえんだ。
冷却系はARCで固め、足まわりはスーパー耐久仕込みのテインN1ダンパーとアドバン・ネオバを組み合わせる
エアコンを使ったり渋滞に捕まったりするのもストリートならではで、冷却系も抜かりなく強化している。ラジエータ、オイルクーラー、サーモスタット(温度を自動的に調整する装置)はすべてARCをチョイスした。インタークーラーもARC製で、マフラーはARCのMCR仕様を装着する。夏場のサーキットでも安心して全開走行できるほどの冷却性能だ。
足まわりとタイヤは、取材の直前に仕様変更を行ったばかりだった。スーパー耐久で小林さんが味付けしたテインN1ダンパーに、アドバン・ネオバを組み合わせる。N1ダンパーは本来レース用で、仕様変更によってストリートでも速く快適に走れるようになった。バネレートは前後ともに14kg/mmだ。アームはイケヤフォーミュラ、スタビライザーはニスモ製に換えている。もちろんサーキットではSタイヤを履く。悪天候の日もあるストリートでは、絶大なグリップ力で人気のネオバのほうがベターだという。サイズは前後同一の265/35-18がベストで、普段はエンケイNT03+MのMCRバージョン(11J×18、オフセット22)を履く。撮影時のホイールはエンケイRPF1だった。
駆動系はニスモのLSDとツインプレートクラッチに、4.111のファイナルギアを組み合わせる。外装はMCRオリジナルのバージョンIIフロントバンパーとカナードにニスモのカーボンボンネット、そして長年愛用しているARC製のGTウイングという構成だ。ボディにはフルスポット増し(スポット溶接を追加して剛性を高める加工)が施され、パワー、足まわり、タイヤとのバランスもいい。ちなみに、リアウインドウに貼られた赤いステッカーはMCR最速の証で、知る人が見れば一目でわかる印である。
【AMWノミカタ】
今回紹介したMCRのBNR34は、AMWを運営する交通タイムス社がかつて発行していたチューニング誌『ヤングバージョン』2004年1月号の特集「GT-Rの魔力」に掲載された1台だ。MCRは1994年の創設以来、代表の小林真一さん自らがステアリングを握り、造り手と乗り手の両方のスキルを磨いてきたショップとして知られる。
この記事で見逃せないのは、軽量化を捨てたからこそ生まれた設計思想だ。重さは消せない。ならばブレーキを大型化し、ピークパワーではなくトルクで押し、冷却系を固めて渋滞も夏場のサーキットも乗り切る。速さのために引き算をするのではなく、足し算でバランスを取る。650psという数字よりも、その組み立て方にこそMCRらしさが表れている。
MCRはその後、埼玉県八潮市から千葉県柏市へ拠点を移し、GT-Rに限らず幅広い車種のチューニングを手がけている。快適装備を残したまま速く走るという掟は、20年以上を経たいまも同社の製品ラインアップに息づいているといえるだろう。
軽量化という王道を捨て、快適装備を積んだまま速さを追う。小林さんが2004年に示した答えは、日常の道とサーキットを地続きで楽しみたい人にとって、いまも一つの手がかりになっている。
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みんなのコメント
スープラやRX-7,NSXなんかも凄く良い車なんだけど、ヒストリーも戦歴も次元が違うのがGT-Rなんだよね…
勿論、世界的にもBNR34迄で35からは只の速い日産車だけどね!
ゴーン製だし