TNGAアーキテクチャに1.5Lエンジン
text: Alan Taylor-Jones(アラン・テイラー-ジョーンズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ほとんど意味のないカモフラージュが施されているのが、第4世代へと進化したトヨタ・ヤリス・プロトタイプ。日本では、これまでヴィッツと呼ばれてきたモデルだ。
スポーティなGRヤリスのプロトタイプに以前試乗しているが、今回はより販売台数を稼ぐであろう5ドア。現実世界に適合した欧州仕様のハイブリッド・モデルとなる。
一気に電動化技術の採用が進む昨今の自動車業界にあって、トヨタはきっと誇らしく自らの歩みを感じているだろう。欧州版のトヨタ・ヤリスには、2012年からハイブリッドを搭載してきたのだから。
3代目に習って、生まれ変わった4代目にも、もちろんハイブリッドを搭載する。プラットフォームは、カローラなどと共通のTNGAアーキテクチャを採用。ねじれ剛性は37%向上しているという。
ホイールベースは伸ばされ、全幅も50mm拡大。一方で全長は5mm短くなった。全高も低くなり、シートポジションは21mm、重心高は12mm、路面へ近づいた。
これらは機敏な身のこなしと、ドライバーへの喜びへとつなげる変更ではある。しかし、冴えないこれまでのハイブリッドシステムだったのなら、充分に目的には叶わなかっただろう。
欧州仕様の4代目ヤリスには、1.5Lの3気筒アトキンソンサイクル・エンジンが搭載される。このロングストローク型のエンジンには、2基のモーターと強力なリチウムイオン・バッテリーが組み合わされる。
パワーは16%向上、CO2は20%削減
ありがたいことに、先代ハイブリッド比で16%もパワーは向上。そのうえ二酸化炭素の排出量は20%削減している。システム総合での最高出力は115psで、0-100km/h加速は2秒短縮の10.3秒となっている。
パワーが増したことで、これまでほどエンジンを熱く燃やす必要もなくなった。不満のない加速を得ながら、静寂性も高めているようだ。早速走り始めてみよう。
殆どの場面で、ヤリスは静かなパートナーに徹する。エンジンの発するノイズは控えめで、多くのライバルより大人しい。CVTを採用したハイブリッドらしく、時折エンジンの回転数が高めに留まることがある。だが、さほど息苦しくは聞こえない。
少なくとも都市部での交通環境では、エンジンは長時間回っているわけではない。トヨタによれば、80%程度の時間はEV状態で走行できると主張しているが、筆者も実際にそう思える。
モーターとエンジンとで主役が交代する場面でも、ほとんど知覚はできない。僅かなエンジンノイズと、ステアリングホイールに伝わる振動が、ガソリンをススルように燃やしていることを教えてくれる。
燃やすガソリンは、本当にススル程度。今回試乗したルートには、都市部や高速道路のほか、手強い峠道も含まれていた。2時間走行して得られたトリップコンピューター上の燃費は、21.7km/Lだった。
コーナリングが楽しめるヤリス
この燃費は、ヤリスがワインディング・ロードでずっと楽しく活発に走るようになったことを考えれば、素晴らしい結果だといえる。ステアリングホイールへ伝わる情報量は少ないものの、重さは自然でとても正確。路上で狙った位置にクルマを導け、ボディロールも限定的だ。
グリップ力も高く、操縦性はしっかりしていて機敏。確かにステアリング・フィールやマニュアル・ギア、自然なバランスを持つフォード・フィエスタの方が運転はより楽しい。しかし、ヤリスのコーナリングも楽しめるようになった。
残念だったのが、試乗車が履いていた17インチのホイール。ヤリスで選べる中では最大径のもので、乗り心地は硬め。緩やかに波打った路面は滑らかに処理できるが、大きな路面の剥がれや継ぎ接ぎ部分では、不快な振動を発していた。
16インチなどでは改善されると思いたいが、このクルマはまだプロトタイプでもある。インテリアでも、生産レベルに達していないプラスティック製パーツが目に入った。量産までに良くなることを期待したい。
ダッシュボードはソフト加工され、ドアの内張りにはファブリックが大きく張られている。高級感のあるスイッチ類は、感心するほどだった。
インフォテインメント・システムは少々デキが悪い。グラフィックは数年前風で、反応も鈍い。欧州仕様の場合、ナビゲーションの案内も良いとはいえず、時々ルートを追うのが難しいほどだった。
コンパクトカーのランキング上位へ
荷室容量は286Lとクラスの中でも小さい方。だが、荷室の床面の高さは2段階に調整でき、利便性は高そうだ。乗員空間は3代目より大きくなり、身長180cmを超える人が運転席に座っても、リアシートにも充分同じ体格の大人が座れるだろう。
新しいヤリスは、優れた燃費性能と環境負荷の軽減を果たしながら、明確に良好なドライビングフィールを獲得してきた。大きく前進したことは間違いなさそうだ。
フォード・フィエスタの輝きが薄まることはないが、以前のようにヤリスのパワートレインにヤキモキすることはなくなった。ハンドリングにも、まとまりが出ている。
最終的にどれだけの競争力を獲得するかは、価格と仕様にかかってくる。このプロトタイプから、どこまで最後の磨き込みをかけられるかも重要だ。
まだ具体的な評価を与える段階ではない。しかし、新しいトヨタ・ヤリスが、コンパクトカーのランキング上位に食い込んでくる可能性は充分にあると感じた。
トヨタ・ヤリス・プロトタイプのスペック
価格:1万6000ポンド(228万円)
全長:3940mm
全幅:1695mm
全高:1500mm
最高速度:-
0-100km/h加速:10.3秒
燃費:-
CO2排出量:86g/km(WLTP)
乾燥重量:-
パワートレイン:直列3気筒1490cc自然吸気+ツイン電気モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力:115ps(システム総合)
最大トルク:-
ギアボックス:CVT
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