実用部品化が進む半固体電池
2024年の世界の電気自動車(EV)販売台数は前年比26.1%増の1763万台を超え、動力バッテリーの搭載量も同27.2%増の894.4GWhとなるなど、世界のEV市場は拡大を続けている。こうした中、半固体電池は研究段階の技術から実用化へ向けて前進している。中国の電池メーカー、中創新航科技集団(CALB)は400Wh/kg級の固液ハイブリッド電池を小型トラックに導入し、航空向け電池についても成都工場で量産を始めた。
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半固体電池は、液体電解質を使う従来のリチウムイオン電池と、固体電解質を使う全固体電池の中間に位置する。固体と液体を組み合わせた固液ハイブリッド構造によって、エネルギー密度と安全性の両立を目指している。全固体電池は高い安全性と高エネルギー密度が期待される一方、量産やコスト、耐久性には課題が残る。これに対し半固体電池は、今ある製造ラインや生産技術の多くを生かせるため、設備投資の負担を抑えながら早い実用化につなげやすい。
これまで先端技術は高級乗用車から広がる例が多かったが、半固体電池は負荷が大きく、採算性が厳しく問われる分野から導入が進んでいる。CALBは2026年3月、安徽省合肥市で開かれた新エネルギー商用車の展示会で小型トラック向け固液ハイブリッド電池を発表し、すでに奇瑞汽車(Chery Automobile)の車両への搭載を始めている。乗用車でも、上海汽車(SAIC Motor)傘下のMG Motorは、中国国内で販売する新型MG4(約10万2800元)に53.95kWhの半固体電池を搭載し、航続距離530kmを実現した。今後は欧州への展開も予定しており、導入の動きは広がっている。
小型トラックが導入先となった背景には、商用車ならではの事業の仕組みがある。小型商用車は乗用車に比べ、積載量や稼働時間、充電待ち時間の影響を受けやすい。電池が重くなれば積載量は減り、充電時間が長くなれば1日の配送回数にも影響する。そのため半固体電池は、物流事業の収益を支える重要な部品として採り入れられた。技術の進歩は陸上物流にとどまらず、次世代の航空輸送にも広がり、モビリティ産業の供給網にも変化をもたらしている。
高密度と急速充電による採算改善
CALBの小型トラック向け固液ハイブリッド電池では、事業性を左右する大きな要素が400Wh/kgというエネルギー密度だ。テスラの4680セルは約300Wh/kgとされ、国内メーカーの半固体電池の多くも300~360Wh/kgの範囲にあることから、CALBの数値は現在の量産技術では高い水準にある。この高いエネルギー密度により、同じ航続距離であれば電池を軽くでき、重量を変えなければ航続距離をさらに伸ばせる。積載量が収益に直結する商用車では、軽量化によって配送効率が高まり、車両運用の幅も広がる。
物流現場では、充電性能の向上も大きな利点となる。この電池は2C急速充電に対応し、30%から80%まで約15分で充電できる。配送車両は1日を通して拠点との往復や荷役作業を繰り返すため、充電による長い待ち時間は稼働率の低下につながっていた。しかし約15分で充電できれば、荷役や休憩の時間に充電を済ませることができ、車両の稼働率を高く保ちやすい。このため、EV導入は環境規制への対応だけでなく、車両の運用効率を高める取り組みとしての意味も持つ。
寒冷地での使いやすさも大きな特徴だ。CALBが示した仕様では、マイナス25度の低温環境でも従来型の電池より航続距離が20%向上し、1C連続放電にも対応する。冬場の配送では、低温による航続距離の低下が運行管理上の課題となってきたが、この技術によって商用EVは北米や欧州北部、中国東北部など寒冷地での導入が進む可能性がある。400Wh/kgのエネルギー密度、約15分の急速充電、マイナス25度への対応に加え、44項目の安全試験をクリアした実績は、積載量や運行回数を高めながら、稼働停止時間を抑えるうえで重要な強みとなっている。
電池軽量化がもたらす稼働率向上
半固体電池の導入による効果は、高級EV市場だけにとどまらない。むしろ効果がはっきり表れるのは商用車の現場だ。物流事業者は車両の導入費だけでなく、稼働率や積載効率、充電時間、整備による稼働停止時間まで含めて車両を運用している。電池が軽くなれば積載量を増やせるほか、充電時間が短くなれば待機時間も減る。
これらは配送単価や人件費など日々の収支に直結し、荷役作業と充電を同じ時間内で進められるようになることで、深刻化する運転手不足や労働時間規制への対応を進めながら、車両の稼働効率を高められる。
メーカーにとっても、半固体電池は商用EVが抱える課題を改善する有力な手段となる。これまでのEVトラックは、航続距離を延ばそうとすると電池が重くなり、積載量との両立が難しかった。高いエネルギー密度を持つ電池を採用すれば、同じ車格でも航続距離と積載量のバランスを取りやすくなる。この変化によって、完成車メーカーだけでなく、運行管理ソフトとの連携も進み、車両全体を効率よく運用しやすくなる。
この動きは、荷主企業が進めるサプライチェーン全体の脱炭素化、いわゆるスコープ3削減とも深く結び付いている。物流の電動化を取引条件とする動きが広がる中、これまでのEVは配送の遅れや費用の増加が荷主側の懸念となっていた。半固体電池によって充電待ち時間や冬場の航続距離の低下を抑えられれば、輸送品質を保ちながら二酸化炭素排出量も減らすことができる。
その結果、荷主と物流事業者の双方に利益のある事業環境が広がる。商用車では、エネルギー密度や充電速度、安全性といった技術面の性能が、そのまま事業の収益性に結び付く。
航空級電池による低空経済の始動
CALBの取り組みは、小型トラック向け電池にとどまらない。同社は2026年3月、小鵬汽車(Xpeng)傘下で空飛ぶクルマを開発するAridge(小鵬匯天)向けに、航空向けの「頂流(Dingliu)」動力電池を成都工場の量産ラインから出荷した。供給先は、Aridgeが開発するモジュール式の空飛ぶクルマ「陸地航母(Land Aircraft Carrier、開発コードX3-F)」である。Aridgeは2026年内の量産と納入開始を予定しており、市場価格は200万元以下となる見込みだ。
「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOLは、電動技術とマルチコプター技術、自律飛行を組み合わせた新しい航空モビリティだ。従来の航空機より騒音が少なく、垂直離着陸ができるため滑走路を必要としない。都市部の渋滞を避けるエアタクシーや災害対応、救急医療など幅広い用途が期待されている。一方、従来のリチウムイオン電池では航続距離が100km~150kmほどにとどまり、普及に向けた大きな課題となっていた。
この課題に対し、CALBの航空向け電池は高シリコン・高ニッケル系セルを採用し、エネルギー密度は最大360Wh/kg、最大放電倍率は25Cを実現した。eVTOLでは電池の重さが飛行時間や積載量を左右する。自動車以上に重量の制約が厳しいため、高いエネルギー密度と大出力の両立は、長距離飛行だけでなく事業として成り立たせるうえでも欠かせない。この量産ラインの稼働は、試作や展示が中心だったeVTOL産業が、本格的な量産体制へ移り始めたことを示している。
安全面でも、自動車以上に厳しい基準が求められる。CALBの航空向け電池は15.2mの落下試験で発火や爆発、液漏れを起こさず、累計10万セルを超える検証を経て、自動車の安全基準と航空機の耐空性認証の双方に対応した業界初の製品となった。こうした実績は、今後、自動車向けやほかの産業向けに次世代電池を広げる際にも、製品への信頼を高める材料となる。一方で、機体側の冗長化や熱管理に加え、運航ルールや空域管理、形式認証などの制度整備は引き続き進める必要がある。
それでも、電池メーカーが航空用途を前提とした厳しい安全試験をクリアし、量産供給の体制を整えた意義は大きい。量産化と自律飛行技術が進み、機体価格や運航費が下がれば、空の移動は広く利用される可能性がある。eVTOLの実用化と市場拡大には、機体メーカーだけでなく、電池やモーター、制御システム、保守網まで含めた幅広い供給体制が欠かせない。CALBによる航空向け電池の供給開始は、低空経済と呼ばれる新たな移動・輸送市場が、部品供給と実際の事業運営の段階へ進み始めたことを示している。
巨頭回避の非対称な新市場戦略
CALBが進める半固体電池の実用化は、新製品の投入にとどまらず、世界の電池市場における競争の流れを映し出している。世界のEV用電池市場では、寧徳時代新能源科技(CATL)と比亜迪(BYD)が大きな存在感を持つ。中国市場では両社が全体の62%以上のシェアを占める一方、海外市場では韓国メーカー3社のシェアが25.5%まで低下し、中国メーカーの伸びが目立つ。特にCATLは、トヨタ、ホンダ、日産、テスラ、VWなど主要自動車メーカーとの提携を広げ、世界の供給網を支えている。
その中でCALBは、2024年の世界の電池搭載量で4位(シェア5.3%)となり、2026年2月時点でも中国国内で6.00%のシェアを維持している。2024年通期の業績は、売上高が前年比2.8%増の277億5152万元となり、粗利率は13.0%から15.9%へ上昇した。技術力と製品力を生かした費用削減や生産能力の見直しによって、純利益は前年比93.0%増の8億4362万元となり、大きく伸びた。
新技術を広く普及させるうえで重要なのは、生産量を増やして製品ひとつあたりの費用を下げる「規模の経済」だ。乗用EV向け電池では、強い顧客基盤を持つCATLとBYDに正面から価格競争を挑むことは容易ではない。そのためCALBは、半固体電池を軸に小型商用車や航空向け電池など新しい用途を先行して開拓する道を選んでいる。小型トラックでは積載量を保ちながら急速充電に対応することが求められ、eVTOLでは軽量化や大出力、高い安全性が欠かせない。CALBは半固体電池を生かし、こうした分野で競争力を高めようとしている。
その先には、次世代電池として開発を進める全固体電池「無界(WUJIE)」がある。全固体電池は燃えにくい無機固体電解質を使うことで高い安全性を確保し、理論上は従来の約4倍となる最大1440Wh/kgのエネルギー密度を実現できる可能性がある。耐熱性やイオン伝導率にも優れ、数分での急速充電や長寿命も期待されている。
大型化・高性能化を進めた第3世代の全固体電池は、業界全体で2026年から2028年ごろの量産開始を目標としている。CALBも430Wh/kgのエネルギー密度と50Ahを超える容量を持つセルの開発を進め、生産ラインを整えたうえで、2027年に実車への小規模な搭載を始め、その後に量産へ移る予定だ。この計画では、先行する半固体電池の事業化によって収益を確保しながら運用データを蓄積し、その成果を全固体電池の製造にも生かす考えだ。
電池技術の流れを見ると、次世代への移行は一気に全固体電池へ切り替わるわけではない。半固体電池は、性能の違いが稼働効率や安全性に直結する分野から導入が進み、その後に全固体電池へ移っていく流れにある。半固体電池は遠い将来の技術ではなく、次の段階へ向かう中で実用化が進んでいる現実的な技術だ。
小型トラックと空飛ぶクルマという異なる移動手段で同じ電池技術の採用が進んでいることは、モビリティの電動化が乗用車中心の段階から広がり、2030年代に向けて空の移動も含めた市場へ広がりつつあることを示しているのだ。(恵美亜梨紗(自動車ライター))
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みんなのコメント
どんなにすごい技術を開発しても原材料を中国に依存している限り覇権は取れないだろう。
中国以外からの調達、もしくは新材料での開発ができない限り中国を超えるのは難しい。
その前に中国の技術を追い越すことができるのかも心配だが、、、。