映画『スマッシング・マシーン』で新境地を拓いたドウェイン・ジョンソン。実在の格闘家マーク・ケアーを演じ切るために取り組んだトレーニングの全貌を、長年ジョンソンを支えてきたトレーナーが語る。
ドウェイン・ジョンソンは、おそらくそのキャリアのなかで「もっとカラダを大きく」してほしいという言葉を聞いたことは一度もなかっただろう。しかし、実在の格闘家マーク・ケアーを演じる映画『スマッシング・マシーン』に向けた役作りに励むなか、ジョンソンが監督のベニー・サフディから受けたのがまさにそのような指示だった。
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俳優としてひとつの転機となるケアー役に向けて、ジョンソンはこれまでの映画で、さらにはWWE時代でさえも見せたことのないほどの体格にまでカラダを大きくした。そして、その努力は報われたといえよう。本作を観た批評家や観客は、ジョンソンが肉体的にも感情的にもケアーを演じ切ったことを絶賛している。
『スマッシング・マシーン』でのカラダ作りのためにジョンソンが組んだのが、彼の長年のトレーナーであるデイヴ・リエンツィだ。リエンツィに与えられた準備期間は約6カ月。彼はその間にジョンソンを撮影に適した体格へと鍛え上げると同時に、「レッスルマニアXL」にも出場できるよう手はずを整えた。
IFBBプロのボディビルダーであり、Rienzi Strength & Conditioningの創設者でもあるリエンツィは、『ブラックアダム』や『ワイルド・スピード』シリーズといった作品でもジョンソンのカラダ作りを指導してきた。しかし、『スマッシング・マシーン』では事情が異なる。「霊長類ヒト科最強」とも呼ばれた2度のUFCヘビー級トーナメント王者の体格を再現するため、ヒトとして可能な限りの筋肉量を増やすことが求められたのである。
トレーニングに向けてはリエンツィがケアーの映像を研究し、ジョンソンをその姿へと近づけていった。その結果、元MMAスターのほぼ生き写しのような仕上がりとなった。リエンツィはジョンソンを親しみを込めて「DJ」と呼びながら、彼を「バカでかい体格」へと変貌させるトレーニング、高タンパク食、そして観客がいまだ十分に評価していないという彼のある側面について『GQ』に語った。
マーク・ケアーを再現するためカラダ作り
──ドウェインとトレーニングを最初に始めたのはいつですか?デイヴ・リエンツィ 2012年に遡ります。当時、彼のビジネスパートナーで製作パートナーでもある私の妻(ダニー・ガルシア。ジョンソンの元妻でもあるが、2014年にリエンツィと再婚)が彼のキャリアをマネジメントしていました。彼女は科学的なバックグラウンドとボディビルディングや栄養の専門知識を持つ人物を探していたのですが、すぐに意気投合しました。初めてDJに会ったときは筋トレについて話し込んで、お互いトレーニングやボディビルディングへの愛を共有していると感じました。最初に一緒に準備したのは、その年の「レッスルマニア」だったと思います。
──ドウェインから実在のMMAファイター、マーク・ケアーを題材にした『スマッシング・マシーン』に取り組むと聞いたとき、彼や監督のベニー・サフディからどのようなリクエストがありましたか?この機会が舞い込んだときにはふたりでマークの昔の映像を観て、彼の見た目やリングでの動きを研究しました。DJと私で、マークの体格を再現するために取り組むべき重要なポイントをいくつか特定できました。そのための方法をいろいろ考えていたところにベニーが加わったのですが、これまでどの監督からも聞いたことがないことを言うんです。「ドウェイン、もっとカラダを大きくしてくれ」とね(笑)。
私たちはすでに筋肉量を増やして体格を大きくする計画を立てていましたが、ベニーはさらにそれを強化することを望んだのです。同時にドウェインは「レッスルマニア」に出場する準備もしていました。撮影前には、おそらく5、6カ月ほどかけて彼をマークの体格に近づけていきました。
興味深いことがあります。これまでのトレーニングの多くは、例えば『ブラックアダム』などのためにスーパーヒーロー的なカラダに仕上げるのが目的でした。今回はそれとは違います。というのも、マークは実在の人物ですからね。当時の彼は当然ながら非常に筋肉質で、彼特有の身体的特徴があり、それを再現することが目標でした。
マークは巨大な僧帽筋と、非常に発達した丸みのある肩を持っていました。だから彼の体格に匹敵する筋肉量をつけると同時に、そのシルエットを再現できる部位を発達させる必要がありました。そうすれば、DJがシャツを着ていても僧帽筋や肩の発達具合がわかり、そこに特殊メイクやウィッグを加えさえすれば、「ああ、マーク・ケアーだ」と感じられるようになるわけです。
──確かにあの僧帽筋と三角筋はすごかったですね。そうした部位を鍛えるためにどんな種目をDJに課したのですか?これまで以上に筋肉量を増やしたのは確かです。従来のプッシュ、プル、レッグのローテーションに加えて、肩だけの日を別に設けてさらにボリュームを増やしました。それと、ダンベルやトラップバーを使ったシュラッグを週に2、3回組み込みました。あの大きな肩を手に入れるために、DJはそれに加えてさらにシュラッグをやっていたと思いますね。
実を言うと、彼には長年シュラッグはさせていませんでした。肩の健康を考えたとき、僧帽筋上部が過度に発達すると肩の動きに影響が出るため避けていたんです。DJはマーク・ケアーの体格が出来上がっていくのをとても楽しんでいましたね。
7、8週間の撮影期間中、私はバンクーバーの現場にずっといましたが、彼はかなり多くの格闘シーンをこなさないといけませんでした。上半身裸でウエイトトレーニングをする最初のトレーニングシーンでは、バス・ルッテン(ドキュメンタリー『The Smashing Machine: The Life and Times of Extreme Fighter Mark Kerr』でのマーク・ケアーのコーチ)が現場に来ていました。彼がDJの上半身を見るのは初めてで、DJがカールかアップライトロウをしていたとき、「なんてこった、まさにケアーじゃないか」と言ったんです。彼は、DJがいかにマークを体現すべく変身したかに驚いていました。私にとっては最高の賛辞でしたね。元コーチが「彼はマークだ」と言うなら、成功したということです。
多様なトレーニングが絡み合う現場
──おっしゃる通り、筋肉量を最大限増やすことが目的だったと思いますが、それと同時に可動性や持久力をどう維持したのでしょうか。それも重要なポイントでした。サイズを増やしつつ、ドウェインの爆発力を維持すること。マークはリングで非常に爆発力があり、パワフルで速筋繊維が多いタイプでした。そのため、動作のテンポを変えたり様々な動きを組み合わせてDJが爆発力を保てるようにしたんです。また、臀部、ハムストリングス、腰など後部連鎖筋のトレーニングも多く取り入れました。
さらに組み込まなければならないピースのひとつとして、彼は「レッスルマニア」の準備としてリング練習も行い、映画のためにグレッグ(・レメンター。スタントコーディネーター)とともにMMAのトレーニングも行っていました。筋肉を増やしながらも、トレーニングのなかで身体を爆発的に使うことで、可動性やスピードを失うことなく仕上げることができました。
──WWEのリングトレーニングとMMAのトレーニングの違いは何なのでしょう?MMAはより地に足を着けたもので、それが最大の違いでしょう。MMAは柔術のような動きが多く、より激しいトレーニングだといえます。WWEでは疲れたり怪我をしないことが重要です。DJはトップレベルのMMAスタントダブルやコーディネーターと多くの訓練を行ってきましたから、確実に様々な格闘技を学んできています。それでも、彼のレスリングでの経験が今回の映画でも活きていると思いますね。パンチをリアルに見せながら加減する技術や、打たれる演技にも役立ちましたから。
あるとき、相手がDJを殴るシーンの撮影があったのですが、どうしてもそのパンチがそれらしく見えませんでした。DJは彼に「本当に顎を殴ってくれ」と言い、実際に打たれた姿を撮影しました。彼はそのレベルでこの映画に献身しているんです。
──トレーニングや撮影中に怪我はありましたか。不測の事態に対応を考えなければならない場面はあったのでしょうか?撮影は本当に激しかったといえます。おそらく18日間ほど格闘シーンの撮影をしていたので、それだけで身体にはかなりの消耗がありました。スタントコーディネーターがいても、要所要所で殴られたりしますし、身体を不自然な姿勢に置くことにもなります。ですから、撮影の終盤には間違いなくかなり身体にダメージを感じていたと思いますね。
ドウェインをあのカラダに仕上げるうえでもうひとつ大きな要素だったのが栄養面です。私が撮影期間中ずっと現場にいたのもそのためでした。彼が受けている肉体的負荷に応じて、トレーニングや食事を細かく調整していく必要があったからです。筋肉量を維持しながら、どれほど身体が消耗しているかを見極めるには、とにかく大量に食べる必要がありました。彼は1日に6、7回の通常の食事に加えて、シェイクを1回摂っていました。内容は高タンパク・高炭水化物です。
私たちが避けたかったのは、いわゆる“ダーティーバルク”(食事内容を気にせず、高カロリーなジャンクフードも積極的に摂取する食事法)です。あれは本質的に、望まない余分な体重増加につながりますし、見た目もだらしなくなってしまいますから。彼はこれまでどの映画のためよりも多く食べましたよ。
──筋肉量を増やすために、ほかにはどんなことをしましたか。食事に加えて、トレーニングの強度も確実に高めました。より重いウエイトを扱い、ボリュームも増やしていったんです。後部連鎖筋に完全に特化した日も設けました。通常ならそういうことはしません。普段であれば脚トレーニングの中に組み込むからです。でも今回は、それをさらに別次元に引き上げました。
もちろん肩のトレーニング量もかなり多かったですが、彼の習慣である週末の脚の日もそのままにしました。週末に重いウエイトで脚を鍛えるのは彼の大好きなことのひとつですからね。彼は毎週写真を送ってくれていたので、私がその進捗を見ながらトレーニングプログラムを調整したり微修正したりできました。
もうひとつ重要だったのが心肺持久力です。マークのように動くには欠かせませんから。朝の空腹時に有酸素運動を行い、高強度インターバルも取り入れて心拍数をしっかり上げました。それを1日おきに、週4回ほど行いました。
──休養日はあったのでしょうか。撮影がある週は、土曜日を休みにしていました。しっかり回復できるようにするためです。そういう日は、彼も本当にリラックスして過ごしていました。何かやるとしても軽い有酸素運動をしたり、ストレッチやフォームローリングをしたりする程度です。
彼はトレーニングが大好きなんです。特に背中は昔から非常に強い部位でした。なので、背中以外の筋肉群は週2回鍛えていましたが、背中だけは週1回にしました。繰り返しになりますがマーク・ケアー特有の肩や僧帽筋を作り込むために、そのおかげでより集中的に取り組むことができたんです。同時に、脚、胸、上半身全体にも筋肉量を加えていきました。
一貫性は過小評価されている
──DJは長年トレーニングを続けています。この役のために従来のトレーニング習慣を変えたり、何かを“アンラーニング(学びほぐし)”する必要はありましたか?特にはありません。そもそもトレーニングというのは常に進化させていく必要があります。5年前と同じことを続けていてはいけないんです。私がトレーニングで重視しているのは「長く続けられること」です。なので、効率的な種目やプログラムを作ることを大切にしています。例えば1種目につき3、4セット程度にして、そのワーキングセットでは限界、あるいは限界近くまで追い込む。ただし、怪我のリスクがあるような無茶な重量ではなく、賢く、目的意識を持って持ち上げることが重要なんです。
私にとって、怪我の予防は非常に重要です。DJが怪我をしてしまったら、彼はやるべきことができなくなり、すべての予定が狂ってしまいます。特別に避けたものがあったとはいえませんが、さっきも話したように、常にトレーニングを進化させ続けていた、ということですね。
──DJには特に嫌いな種目や、逆に大好きだという種目はありますか。彼から「これが嫌いだ」と聞いた種目は特にありません。ただ、脚のトレーニングは本当に大好きです。レッグデイの大ファンですよ。それに背中のトレーニングも大好きです。最近はSNSもあって面白いことがわかるんですが、皆DJが何かの種目を行っているのを見ても、彼が使っているテクニックを理解していないようなんです。ただ扱っているウエイトの重さに注目するだけでね。
例えば、彼がインクラインベンチでダンベルローイングをしているとします。片手80ポンド(約36kg)を持ってトップで静止し、その後3、4秒かけてゆっくりとネガティブ動作を行う。そういうやり方で行うトレーニングのキツさを、人々は理解していないと思います。
DJに関して言えば、彼はトレーニングそのものと、そのキツさを愛しているんです。ウエイトルームは、彼にとって自分を整えることができるハッピーな場所なんですよ。
──DJが長期的かつ持続可能なパフォーマンスを維持できるように、何か特別なことをしていますか。それとも彼がただひたすら真面目に取り組んでいるだけでしょうか?私が意識しているのは、彼にとって長期的に持続可能な形になるようトレーニングプログラムを組むこと。ですから、強度を上げるフェーズもあれば、逆にボリュームや強度を落として継続できるようにするフェーズもあります。
でも彼は本当に勤勉ですし、トレーニングを理解してもいます。特に努力を注ぐべきフェーズに入ったとき、それが自分でわかるんです。今まさに、この映画の猛烈なプロモーションツアーをこなしていますよね(注:米版『GQ』掲載の原文は2025年10月に公開)。信じられないほど移動が多い時期もあれば、少し落ち着く期間もある。その後には『ジュマンジ』続編の撮影に入るはずです。そうしたすべてを、彼は非常にうまくバランスをとっています。いつものことながら感心してしまいますよ。
──『ジュマンジ』に向けたトレーニングも手伝っているんですか?皆見ていると思いますが、明らかに少しサイズダウンしていますよね。それは彼自身でやっていることです。ベニーとももうひとつ作品が控えていて、よりドラマ寄りの演技へシフトしているところなので、そこまで大きなカラダを維持する必要がなくなっているんです。
彼は自分自身で取り組んでおり、「自分の身体をもっと理解したいし、食事やいろいろな要素にどう反応するのか知りたい」と話していました。ただ、最近また連絡を取って、『ジュマンジ』ではどんな方向性になるのかについて話し始めたところです。でも全体的にはとてもいい状態にいて、今の体型に満足しているようです。
──ドウェインが自身に課している規律や仕事への姿勢で、人々が今も過小評価していることがあるとすれば何でしょうか。一貫性ですね。一貫性というものは非常に過小評価されていると思います。フィットネスの目標について語られるときは特に。ドウェインはどれだけ移動が多かろうと、何をしていようと、どれだけ忙しかろうと、必ずトレーニングをします。必ずワークアウトの時間をとるんです。
あれほど一貫していれば結果が出るのは当然ですが、その一貫性を長期間維持するために必要な自律のレベルを多くの人は理解していないと思います。私はトレーニングプログラムを組めば、彼が必ず実行するとわかっています。彼がトレーニングをサボるとか、ワークアウトを欠かすとか、そういう疑いを持ったことは一度もありません。だからこそ、彼の一貫性、献身、そしてその規律には、いつも本当に感心させられるんです。
From GQ.COM
By Tyler Chin
Translated and Adapted by Yuzuru Todayama
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