2026年夏の登場が予定されている日産の新型エルグランド。第3世代e-POWERやe-4ORCEの採用に加え、「AUTECH」「AUTECH LINE」「VIP」といった派生モデルも公開され、日産がこのモデルにかける本気度が伝わってきます。
しかし、その前に立ちはだかるのが、高級ミニバン市場の絶対王者トヨタ「アルファード」です。かつて「キング・オブ・ミニバン」とよばれたエルグランドですが、新型でどこまでその牙城に迫ることができるのでしょうか。見えてきた“逆襲のシナリオ”をもとに、その勝算を探ってみます。
文:吉川賢一/写真:NISSAN、ベストカーWeb編集部
なぜエルグランドはアルファードに敗れたのか
現行型エルグランド(E52)は、2010年に登場した3代目モデルです。初代E50(1997年~2002年)や2代目 E51(2002年~2010年)で高く評価された「走りのミニバン」というエルグランドの伝統を受け継ぎ、低重心化や低全高化によって操縦安定性を高めたモデルで、高速道路での安定感や山坂道での運転のしやすさは、登場から16年が経過したいまでもエルグランドならではの魅力として評価されています。
しかしながら、現行型の人気は低迷。当初こそ販売台数の差は小さかったものの、その差は年を追うごとに広がり、直近5年はアルファードの販売台数の5%にも届かないほど厳しい状況が続いています。ミニバンユーザーの多くは、「走りのよさ」よりも、「広い」「豪華」「偉く見える」といったわかりやすい魅力を磨き続けるアルファードを選んだのです。
もちろん、販売差の理由はそれだけではなく、販売網やブランド力、リセールバリューなど、さまざまな要因があるでしょう。とくに登場から16年もモデルチェンジが行われなかった点は、エルグランドにとって大きな痛手ではありました。ただ、高級ミニバン市場においてユーザーが求める価値の中心が、エルグランドではなくアルファード側にあったことは間違いありません。
その点、今回の新型エルグランドは、エルグランド本来の魅力を維持しながらも、アルファードが支持を集めた理由に真正面から向き合おうとする姿勢が感じられます。象徴的なのが、全長4995mm×全幅1895mm×全高1935mmと、歴代エルグランドのなかでも最大級のボディサイズ。全長と全高はアルファードとほぼ同寸ですが、全幅は約45mmもワイドとなるなど、現行型が重視した低全高路線から一転、新型では「見た目の存在感」という高級ミニバンとして求められる要素に力を入れていることがうかがえます。
ちなみに筆者は、予約注文開始初日の5月28日に新型エルグランドを予約注文しました。納車は8月初旬の予定です。実車がどのような仕上がりになっているのか、いまから楽しみにしています。
これが日産の“逆襲のシナリオ”だ! 新型エルグランドの武器を総点検
新型エルグランド最大の武器はやはり第3世代e-POWERでしょう。新開発の発電専用1.5Lエンジン「ZR15DDTe」と、高効率化された「5-in-1 e-POWERユニット」を組み合わせた第3世代e-POWERによって、WLTCモード燃費は16.8km/L。ライバルであるアルファードハイブリッド(E-Four・Zグレード/16.5km/L)と真正面から競える水準です。
さらにフロント151kW(205PS)・330Nm、リア100kW(136PS)・195Nmを発生するツインモーター式の進化版「e-4ORCE」を採用。加減速時やコーナリング時の車体姿勢を安定させるほか、全車標準装備となる電子制御ショックアブソーバーが走行状況に応じて4輪それぞれの減衰力を自動制御することで、ミニバン特有のふわつきやピッチングなどの大きなボディモーションを抑制します。
上質な乗り心地と操縦安定性を高いレベルで両立しており、歴代エルグランドが大切にしてきた「ドライバーズミニバン」の思想もしっかり受け継がれているようです。
ただ、アルファードも2026年6月の一部改良で、「周波数感応型ショックアブソーバー」を全グレード標準設定としました。新型エルグランドが採用する電子制御ショックアブソーバーほど制御の自由度は高くありませんが、最大のライバルも乗り心地の向上に力を入れてきています。
インテリアは、14.3インチディスプレイを2枚並べたワイドなインパネやボタン式シフトなど、先進的な装備が目を引きますが、新型エルグランドでとくに注目したいのは2列目シートです。オットマン付きプレミアムシートの肘置きは跳ね上げ式を採用したほか、シートバックには、従来モデルから受け継がれてきた「中折れ式」を採用。
シートバックの角度を肩の下あたりで変えることができ、リクライニングしても前方を向きやすいのが特徴です。クルマ酔いの軽減が期待できるほか、前席シートバックに設置されたモニターも見やすくなるなど、固定式肘置きのアルファードよりもさらに「自由な姿勢でくつろげる後席」を実現しています。
ちなみに、賛否ある新型エルグランドの四角いタイルを並べたような独創的な意匠については、ディーラーオプションの「フロントダークグリル」でブラックアウト化すると印象は大きく変わります。フロントマスクが引き締まり、個人的にはこちらのほうがエルグランドらしく感じます。
最大の敵は価格!? 新型エルグランドは高くても売れるのか
ネックなのは価格です。新型エルグランドは、全車e-POWERかつe-4ORCE。エントリーモデルのXグレードでも689万7000円、上級のGグレードは757万9000円です。
プロパイロットはXグレードには非搭載(メーカーセットオプションで24万9700円)で、プロパイロット2.0はGグレードでなければ選択ができず(HUDや自動駐車支援とセットで73万2600円)、Gグレードをベースに充実した仕様に近づけると、登録諸費用込みで900万円がみえてくる価格。商品力を高めた結果とはいえ、かなりの高額車となってしまいます。
熟慮を重ねて、ギリギリ満足のいく仕様に落とし込んで注文した筆者も、見積書を前に「本当に買って大丈夫だろうか……」と何度も考えました。エルグランドを買うというよりも、かつてのシーマのような「フラグシップを買う」感覚に近いものがあります。もうちょっと安くならないものかと、より廉価なFFモデルの可能性を日産関係者に探ってみましたが、現時点ではFFを設定する動きはないようです。
リセールバリューも未知数です。アルファードは国内屈指の人気車種であり、中古車市場でも高い需要を維持していますが、エルグランドは、少なくとも現時点では同じ土俵に立てているとはいいがたい状況です。
ただ、筆者が商談した際には、残価設定ローンの残価率は3年で70%前後、5年で50%程度と、想像していたよりも高い印象を受けました。日産側も新型エルグランドの商品価値に一定の自信を持っていることがうかがえます。
高級ミニバン市場の絶対王者であるアルファードに真正面から挑もうとしている新型エルグランド。アルファードが築き上げた優位性を覆すことは難しくても、どれだけそこに食い込むことができるか。新型エルグランドが市場を再び面白くしてくれる存在になることを期待したいところです。
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