手頃にボンドカー気分を楽しめるZ3
執筆:Ben Barry(ベン・バリー)
【画像】ボンドカーになったBMW Z3とZ8、750iL 現行のZ4と7シリーズも 全75枚
撮影:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ジェームズ・ボンド、通称「Q」が1995年のゴールデンアイで銀幕に戻ってきた時、ボンドカーとして選ばれるべきはアストン マーティンDB7だったかもしれない。だが、おとり捜査の相棒になったのはE36/7型の真新しいBMW Z3だった。
ドイツで設計され、アメリカで製造され、女性受けも良いオープン・スポーツカーだ。最新のアストン マーティンではないことに不満を感じた、古くからのファンもいただろう。でもBMW Z3なら、ずっと手頃にボンドカー気分をわれわれも楽しめる。
現在の中古車市場を見れば、数千ポンド(数十万円)も出せば状態の良い例が見つかる。今回取材にご協力いただいたトム・マルコムのZ3は走行距離9万km程度と、その中でも頂点にあるはずだけれど。
新車当時のZ3も比較的手頃な価格設定で、英国では1万9500ポンドから購入できた。そしてすぐに、ポルシェ・ボクスターやメルセデス・ベンツSLKといったライバルとの競争に巻き込まれた。
BMW Z3は、E36型3シリーズ・コンパクトのプラットフォームを流用。リア・サスペンションはマルチリンク式ではなくセミ・トレーリングアーム式となるものの、スケールメリットは得られた。
ホイールベースは約200mm短縮され、ステアリングのレシオは20%クイックに。トレッドもワイド化され、スポーティさを高めている。
ゴールデンアイへ登場したロードスターへ影響を受けたわけではないと思うが、当時BMWの子会社にあったローバーは、1995年にミドシップのMGFを発売。英国ではZ3より安価な価格帯で提供されている。
成熟した味わいのドライビング体験
英国へ導入されたZ3は、1.9Lの4気筒16バルブエンジンがベースグレード。ジェームズ・ボンドも運転したクルマだ。1.8LのZ3が英国にも届いていたら、MGFと一層良いライバル関係を築いていただろう。
Z3のクラムシェル・ボンネットは、改めて見ると低くワイド。ゴールデンアイではデスモンド・リュウェリン演じる「Q」が、ボンドに機能を説明する。「機敏なBMWで、5速ギア。全方向レーダーと自爆システムがついています」
後方からパラシュートが展開し、ヘッドライトの裏側にはミサイルが仕込まれていたらしい。もちろん、マルコムのZ3には特殊機能は備わらないが、見た目の仕様はほぼ同じ。明るめのアトランタブルーのボディに、ベージュのレザー内装が組み合わせてある。
ソフトトップは簡単に手動で開閉できる。折り畳めばトノカバーの下へ収まり、閉めるのも1分あれば充分だろう。エンジンは140psを発揮する1.9L 4気筒。唯一、トランスミッションが4速ATで違っている。
ダッシュボードには1990年代のBMWらしいメーターが並ぶ。スイッチ類や小物入れなどは、頑丈そうなプラスティック。エアコンとクルーズコントロール、シートヒーターが、快適性を高めている。
BMW Z3のドライビング体験は、成熟した味わいがある。例えば、マツダMX-5(ロードスター)よりも。
シャープで、重みに一貫性のあるステアリングホイールを回せば、エネルギッシュに回頭する。ボディロールはボンドカーへ想像する以上。後輪駆動のシャシーを思う存分振り回せるだけのパワーはない。
ボンドカーに選ばれた大型4ドアサルーン
当時のBMWは、1.9L 4気筒エンジンは6気筒に近い滑らかさと洗練性を備えると主張した。筆者はそこまでとは思わないが、独特のキャラクターは感じる。ツインカムで、喜んでレッドラインまで吹け上がる。
MTの方が、ドライバーの気持ちを高めてくれるだろう。だがATでもロックアップが働き、1速から3速まで高回転を充分に活用できる。
パフォーマンスは控えめで、ハンドリングはおっとり気味。ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドがワインディングで悪者と戦っていた最中、従来より危険度が高かったことは想像できる。
Z3は、スター的な輝きが小さい。そのぶん、今でも手頃で楽しいロードスターとして、週末を謳歌できるという魅力がある。
特殊装備は、実際にはゴールデンアイで活躍することがなかった。Z3がどこまで高機能化されていたのか、疑問は残るところだ。
1997年、ブロスナンは再び戦いに呼び出された。トゥモロー・ネバー・ダイでボンドがドライブしたのも、再びBMW。スポーツモデルではなかったが、シリンダー数は3倍に。馬力も2倍以上に高められていた。
大型の4ドアサルーン、7シリーズはボンドカーとして珍しいチョイスではあった。だが、ベースのE38型7シリーズには最新技術が満載で、ガジェット・フェチの英国諜報部にはピッタリ。衛生ナビを標準搭載した、初の欧州車だった。
ジェームズ・ボンドは標準のオプションリストでは満足できず、防弾ガラスと催涙ガス装置を追加。ルーフには、格納式ミサイルを載せている。
伝統的なBMWらしいエレガントさ
英国諜報部は、携帯電話を7シリーズのリモコンへ改造。この映画で、最も記憶に残るスタントシーンを生み出す。
ボンドはリアシートに身を隠しながら、7シリーズをリモコンで運転。メルセデス・ベンツやオペルで執拗に追ってくる悪党を、次々に片付ける。最後にリアシートから飛び降り、BMWを立体駐車場の屋上からレンタカー店めがけて落とし、自分の身を守った。
ボンドカーに用いられた、アスペン・シルバーのボディとブラック・レザーの内装という組み合わせは一般的なもので、映画を真似てコーディネートしたオーナーも多かったはず。今回ご登場願った7シリーズは、その内側でボンドカーに一致する。
オーナーのグルダーブ・レエシは、生粋のBMWファン。5.4L V型12気筒エンジンを搭載する、ホイールベースが長い750iLのオーナーだ。映画トランスポーターにも、この型の7シリーズは登場している。購入する動機にもなったという。
E38型の7シリーズは、伝統的なBMWらしさを湛えるエレガントなモデル。次期型のクリス・バングルのデザインとは対照的な、落ち着いたスタイリングを手掛けたのは、ボイケ・ボイヤーだった。
今でも贅沢な7シリーズのリアシートに身を沈めると、ウールの中に包まれたような、柔らかで静かな時間を過ごせる。車内は広々としていて、ブラインドが付き、リアシートの背もたれは電動でリクライニングできる。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
あれはボンドカーとは呼べない。単なるZ3の宣伝にすぎない。
Qからの受け取りの時、ミサイルが出るとか色々と説明はあったけど、映画で女を横に乗せてちらっと走っただけ。
がっかり感半端ない。まあ、ボンドにはこの車はどちらにしろ似合わないけど。
リモートコントロールの750ILは面白かったけど、なんかボンドカーとしては色気がなかったし、その次のZ8も真っ二つ。
やはりボンドカーといえばアストンかロータスだなあ・・・