約25年間、ひとりの女性が乗り続けたマツダ「RX-7(FD3S型)」が、メーカーに寄贈された。思い出の詰まった1台を、『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
マツダ RX-7(FD3S型)の特徴
人とクルマの美しい関係を示す象徴──マツダ RX-7(FD3S型)試乗記
1.概要2.運命の出会いと25年の軌跡3.免許返納と、マツダへの帰還4.時が止まったかのような極上のFD3S1.概要
スポーツカーとは、単なる移動の道具ではない。時に人の人生に寄り添い、共に歳月を重ねる“親友”のような存在となり得るかもしれない。ここに1台の、奇跡のようなコンディションを保った銀色のマツダRX-7(FD3S型)がある。このクルマは、長崎県に住むひとりの女性オーナー、西本尚子さんが約25年間、新車から大切に乗り続けた個体だ。
彼女の80歳の誕生日と運転免許証の自主返納を機に、製造元であるマツダへと寄贈された類まれなストーリーを持つ。
今回、数奇な運命を辿りマツダの広報車として新たな“車生”を歩み始めたRX-7のステアリングを握る貴重な機会を得た。
25年の愛情が隅々にまで染み込んだコクピットから見えた景色と、名機13Bロータリーエンジンの現在地とはいかに。
2.運命の出会いと25年の軌跡
西本尚子さんとRX-7の出会いは1999年に遡る。
当時55歳だった彼女は、息子と共に人気アニメ『頭文字(イニシャル)D』を観たことがきっかけで、流麗なロータリースポーツカーであるRX-7に心を奪われたという。
当初は作中の印象から青色のボディカラーを希望していたが、当時の販売店スタッフの勧めで「ハイライトシルバーメタリック」を選択。注文日は1999年12月13日だった。民間企業で一般事務として働き、当時の購入代金約320万円を現金一括払いで購入したというエピソードからも、彼女のRX-7に対する強い憧れと覚悟がうかがえる。
西本さんにとって、RX-7は「スピードと自分が一体化する感じ」を味わえる特別な存在であり、近くへの買い物から遠出まで、常に日常を共にする相棒だった。特に後ろから見たフォルムがお気に入りで、車検のたびにボディコーティングを施し、日常的なメンテナンスを欠かさなかった。
その車体は、約25年・約7万7500kmの走行距離を感じさせないほどの美しい輝きを放ち続けている。
3.免許返納と、マツダへの帰還
「年齢的にいつかは手放さないといけない」
そう考えていた西本さんは、自身の80歳の誕生日を節目として運転免許の自主返納を決意した。それに伴い、愛車を引き継いでくれる人を探す様子が2024年9月に地元のテレビ番組で放送されると、またたく間に全国的な反響を呼んだ。400件を超える譲渡希望のメールが殺到する中、名乗りを上げたのがマツダだった。
マツダからの提案は、「輝かしい人生を引き継いで世の中の人に元気を与えたい」といった、RX-7を公式の広報車として活用したいというものだった。情熱と優しさに溢れた提案に心を打たれた西本さんは、「もうここしかない」と譲渡を決断。2024年12月18日、80歳の誕生日に行われた譲渡セレモニーにて、彼女は約25年間連れ添った相棒のルーフを優しく撫で、「今までありがとう」と語りかけ、キーをマツダへと託したのである。
ちなみにマツダが同車を引き取った背景には、同社の「クラシックマツダ」事業の思想が深く関わっている。マツダは旧車のヘリテージを尊重し、2020年から2021年にかけてはユーザーの声をもとに、2代目および3代目RX-7の復刻パーツ(FD3S用は61点)の再供給を開始している。メーカー自らが過去の車を文化として守り育てる姿勢を持つからこそ、西本さんのRX-7は単なる工業製品としてではなく、人とクルマの美しい物語として迎え入れられたのだ。
4.時が止まったかのような極上のFD3S
実車を前にすると、その凛とした佇まいに息を呑む。
モデルとしては後期型にあたる5型、グレードは「TYPE RB Sパッケージ」の5速マニュアルトランスミッション車だ。最高出力265psを発揮する13B-REW型シーケンシャルツインターボエンジンを搭載し、前後ノーマルのホイールや丸型3連式のテールランプを含め、ほぼ完全なフルノーマル状態を保っている。
13B-REW型ロータリーエンジンは、マツダの技術的頂点とも言える名機。1967年の「コスモスポーツ」から始まったマツダのロータリーエンジンの歴史の中で、1991年の3代目RX-7(FD3S型)のデビューと同時に登場したのが本エンジンである。
量産車として世界初となるシーケンシャルツインターボを搭載した13B-REWは、初期型で255psを発揮。その後、吸気系の改良や過給圧アップを施した中期型では265psへと進化し、最終的にはターボチャージャーの高効率化などを経て当時の国内自主規制値である最高出力280psに到達した。
西本さんが所有していたのは265psを発揮する円熟期の仕様。レシプロエンジンでは決して味わえない、どこまでも滑らかに吹け上がるフィーリングと分厚いトルクを備えたこのエンジンは、今なお世界中のエンスージアストを熱狂させている。
▲次のページ:「人とクルマの美しい関係を示す象徴」
【マツダ関連記事】
“駆け抜ける歓び”──マツダ3ファストバックXツーリング試乗記一部改良を受けた「マツダ3ファストバックXツーリング」に、『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキが試乗した! SKYACTIV-X搭載モデルの魅力に迫る。感性に響くクルマ──マツダ3ファストバックXツーリング試乗記一部改良を受けた「マツダ3ファストバックXツーリング」に、『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキが試乗した! SKYACTIV-X搭載モデルの魅力に迫る。スポーティでありながらもエレガント──新型マツダCX-60 XD Drive Edition Nappa Leather Package試乗記一部改良を受けたマツダのプレミアムSUV「CX-60 XD Drive Edition Nappa Leather Package」は、ほかの和製SUVとは一線を画す1台だった! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。プレミアムSUVとしての進化は続く──新型マツダCX-60 XD Drive Edition Nappa Leather Package試乗記一部改良を受けたマツダのプレミアムSUV「CX-60 XD Drive Edition Nappa Leather Package」は、ほかの和製SUVとは一線を画す1台だった! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。パナソニックが仕立てたマツダCX-60が斬新だった! WELL Cabin Craie 2に注目!──GQ新着カー2026年1月9日から開催された「東京オートサロン2026」(千葉県・幕張メッセ)に、パナソニック オートモーティブは、インフォテインメント機能を強化したマツダ「CX-60」」を展示した!新しいマツダCX-3登場!──GQ新着カー人気装備を標準化!新型マツダ ビジョン クロスクーペは、新しい“マツダデザイン”の幕開けだ!──GQ新着カーデザインテーマは“ネオオーセンティック”。新型マツダ ビジョン クロスコンパクトは、“オリジナリティ”の追求だった──GQ新着カーマツダが有するデザイン力の高さは継承されていく。気合いの入ったフルモデルチェンジ──新型マツダCX-5詳報フルモデルチェンジした新型マツダ「CX-5」が、ジャパンモビリティショー2025に展示された! ひと足はやく実車を取材した『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターの稲垣がリポートする。旧型から変わった点、変わらない点──新型マツダCX-5詳報フルモデルチェンジした新型マツダ「CX-5」が、ジャパンモビリティショー2025に展示された! ひと足はやく実車を取材した『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターの稲垣がリポートする。新しいマツダCX-70登場!──GQ新着カー日本未導入のSUVが進化した!超特別なマツダ スピリットレーシング ロードスターが、ついに登場!──GQ新着カー最高出力200psの「12R」にも注目だ!クラシックな“高級車”の味がする──新型マツダCX-80 XD Lパッケージ試乗記新型マツダ「CX-80」の“素”のディーゼルモデル「XD」に、今尾直樹が試乗した。印象はいかに?高級とは、ゆとりのことである──新型マツダCX-80 XD Lパッケージ試乗記新型マツダ「CX-80」の“素”のディーゼルモデル「XD」に、今尾直樹が試乗した。印象はいかに?愛車の履歴書──Vol78. 伊東美咲さん(前編)愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第78回の前編。俳優の伊東美咲さんが、懐かしのマツダ車と再会した!新型マツダCX-5の全貌、遂に公開!──GQ新着カーマツダの大ヒットモデルが、大きく変わる!“カッコいいクルマ”の流れを汲んだSUV──マツダCX-30 20S Black Selection試乗記一部改良を受けたマツダ「CX-30 20S Black Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った!メーカーの努力に拍手!──マツダCX-30 20S Black Selection試乗記一部改良を受けたマツダ「CX-30 20S Black Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った!ロマンあるSUV──新型マツダCX-60 PHEV Premium Modern試乗記進化したマツダ「CX-60 PHEV Premium Modern」を、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキがテストドライブした。“夢”が膨らむ高級車──新型マツダCX-60 PHEV Premium Modern試乗記進化したマツダ「CX-60 PHEV Premium Modern」を、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキがテストドライブした。11年目の底力──マツダ2 15 BD i Selection試乗記熟成を重ねたマツダ2の新グレード「15 BD i Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った。想像よりもイイじゃん!──マツダ2 15 BD i Selection試乗記熟成を重ねたマツダ2の新グレード「15 BD i Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った。8年目の集大成──マツダCX-5 20S Black Selection試乗記マツダのSUV「CX-5」に新しく設定された「20S Black Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った。熟成を重ねた、マツダの基幹モデルに迫る。コレはお買い得!──マツダCX-5 20S Black Selection試乗記マツダのSUV「CX-5」に新しく設定された「20S Black Selection」に、『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキが乗った。熟成を重ねた、マツダの基幹モデルに迫る。新型マツダEZ-60登場。PHEVは1000km以上走行OK!──GQ新着カー電気自動車(BEV)とプラグイン ハイブリッド車(PHEV)の2機種を設定へ。新型マツダEZ-60登場。スタイリッシュなSUVに注目!──GQ新着カー電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の2機種を設定へ。想像以上の快適性向上──新型マツダCX-60 25S Lパッケージ試乗記一部改良を受けたマツダのSUV「CX-60」のうち、エントリーモデルのガソリン仕様に試乗した。300万円台から購入可能なグレードに迫る。価値ある300万円台──新型マツダCX-60 25S Lパッケージ試乗記一部改良を受けたマツダのSUV「CX-60」のうち、エントリーモデルのガソリン仕様に試乗した。300万円台から購入可能なグレードに迫る。文と編集・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?