量産化へと踏み出すルノーの限定EV
ここ4、5年で目覚ましい発展を遂げた電気自動車(EV)は、すでにグローバル市場で主要なカテゴリーへと定着した。一方で、優れた駆動力伝達機構として古くから検討されてきた「インホイールモーター」は、環境耐性や足回りへの負荷という壁に阻まれ、長らく研究や試作の域を出ずにいた。
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こうしたなか、仏ルノーがスポーツカーRenault 5(サンク) Turbo 3Eにインホイールモーターを量産採用すると発表したニュースは、技術革新の新たなフェーズを象徴する動きとして強い関心を集めている。
背景には、同社が進める全社規模の構造改革がある。ルノーはEV開発に特化した新会社アンペアと、中国の吉利汽車などと組んでエンジン開発を担うホースへ組織を分社化し、領域ごとに素早い技術革新が可能な体制を整えた。
2025年には前CEOのルカ・デ・メオが辞任し、後任のフランソワ・プロボCEOのもとで電動化戦略を一段と加速させている。その象徴といえるのが、2026年5月に量産適用が公式発表されたRenault 5 Turbo 3Eだ。2022年のパリサロンで試作車がお披露目された当時は先鋭的なコンセプトと受け止められていたが、市販化の具体策が明かされたことで市場に大きな衝撃が走った。
後輪の左右に1基ずつ、計2基のインホイールモーターを搭載する同モデル。スペックは最高出力555PS、最大トルク4800Nmを誇り、カーボンモノコックシャシーの採用によって車重は1450kgに抑えられた。減速機構を経ず路面へダイレクトに届く巨大なホイールトルクは、0-100km/h加速3.5秒以下、最高速度270km/hというスーパーカー並みの動力性能を叩き出す。
EVでありながらTurboの名を冠する理由は、ルノーが誇るモータースポーツの歴史にある。初代ルノー・5は1972年、世界初の樹脂バンパーや左右でホイールベースが30mm異なる特殊なトーションバーサスペンションを備えて登場した。続く1980年には、後席をつぶして160馬力の1.4Lターボエンジンをミッドシップ配置した過激な5ターボが誕生し、世界ラリー選手権を席巻する。
このスポーツDNAはシュペール5やGTターボへと受け継がれ、今回の新型車で最新の電動技術と融合を果たした。伝統の系譜と先進技術を掛け合わせる戦略は、走りのエモーショナルな価値を高め、新しい駆動方式に対するファンの支持層を広げる効果を生んでいる。
発売時期は2027年を予定しており、欧州の乗用車としては初となるインホイールモーター搭載車として1980台が限定販売される見通しだ。まずは高価格帯の限定モデルで先行投入し、過酷な実走データを取りながら技術の信頼性を高めていく。このアプローチこそ、次代の本格的な量産化へ繋げる着実なプロセスといえる。
バネ下重量の克服と制御技術の進化
インホイールモーターがもたらす最大の利点は、車体パッケージングの根本的な解放にある。エンジンや変速機といったパワートレインの専有スペースが不要になるため、車内空間の大幅な拡大や自由度の高いレイアウトが実現する。
駆動メカニズムの進化も見逃せない。大トルクの発生に適したアウターローター型のダイレクトドライブ方式は、機械的な摩擦損失が皆無で俊敏な制御力を発揮する。一方、小型モーターと同軸に減速機を配するギアリダクション方式は、ユニットの小型軽量化と熱損失の抑制に長ける。アプローチこそ異なるものの、どちらも高効率化と電費性能の改善に大きく貢献する技術だ。
もっとも、量産化に至るまでの道筋にはふたつの大きな壁が立ちはだかっていた。第一の課題が、車輪内に重量物が集中することによるバネ下重量の増大だ。サスペンション下部の軽量化は、車体側の軽量化に比べて4~15倍もの運動性能・燃費改善効果があるとされる。それだけに、1輪あたり約36kg(Protean社のフラッグシップモデルPdl8の場合)という質量増加は、接地性や乗り心地を損なう致命的な要因と見なされてきた。
この定説に疑問を投げかけたのが、今回の量産車にシステムを供給する英Protean Electricだ。同社が車両運動の権威であるロータス・エンジニアリングと共同で実施した公道実証試験では、意外な事実が判明している。
重量増加による影響は路面凹凸の入力に比べれば遥かに小さく、平均的なドライバーが知覚するのは困難なレベルだと実証されたのだ。サスペンションの減衰力やブッシュ特性を最適化すれば違和感は解消できるうえ、適度な質量増がトラクションを高めてグリップ向上をもたらす側面もある。さらに共振周波数が下がり、特定の高速域で振動レベル自体が低下するという効果まで確認された。
第二の壁となったのが、足回りの極めて過酷な環境だ。タイヤハウス周辺は10G以上の激しい衝撃をはじめ、水や泥、塩害、さらには300~600度超に達するブレーキローターの強烈な輻射熱に晒される。熱害による永久磁石の機能低下や制御不具合を防ぐため、各社は補強構造と冷却技術の開発にしのぎを削ってきた。
日立製作所と日立Astemoはハルバッハ配列磁気回路を用いた大型モーターを開発し、2.5kW/kgという世界最高水準のパワー密度(最大出力60kW)を達成。モーターとインバーターを単一の油冷回路でまとめて冷やすシステムを作り上げ、19インチホイールに収まるコンパクトさと卓越した放熱性能を両立させている。
タフな使用条件に耐える構造の熟成とともに、四輪独立制御によるトルクベクタリングの技術も飛躍的な進歩を遂げた。ギアの噛み合わせを介することなく、左右輪のトルク配分を100対0から0対100までミリ秒単位で制御できる。
ロールやアンダーステアといった車両の乱れを駆動力配分だけで抑え込めるため、サスペンション設計で走行安定性のために乗り心地を犠牲にする必要がなくなる。シャシーエンジニアリングの意識を、快適性の徹底的な追求へと振り向けられるようになった意義は大きい。
車体骨格の革新とモビリティの未来
インホイールモーターの実用化は、自動車の黎明期から続いてきた基本構造を根底から変革するポテンシャルを秘めている。この動きを先頭でけん引するのがルノーであり、システムを供給する英Protean Electric、そして2026年3月に同社を連結子会社化した国内駆動系部品大手のエクセディ(大阪府寝屋川市)だ。
Proteanとエクセディが手掛けるユニットは、モーターにとどまらずブレーキやインバーターまで一体化されたモジュール構造を持つ。前後をつなぐドライブシャフトや大型のeAxleが姿を消す結果、車体側に残る大物はバッテリー程度だ。
駆動部がすべてホイール内に収まることでフロアの完全フラット化が可能になり、Renault 5 Turbo 3Eのような伝統スタイルはもちろん、従来デザインの枠に囚われない自由な車体設計への道が拓かれた。自動運転レベル4の普及が見込まれる2025年以降に向け、自動車を動く快適な居住空間へと変貌させる物理的基盤が整いつつある。
構造の変化はサプライチェーンの構図にも波及する。クラッチなど単体部品の供給を主力としてきたエクセディは、制御ソフトウェアを含めたパワートレインシステムの統合プロバイダーへと足場を広げた。システム全体をパッケージ供給できる強みは、完成車メーカーの系列を超えた水平的な展開を可能にし、Tier1サプライヤーのビジネスモデルをより高次元なソリューション型へと引き上げていく。
各輪を独立制御できる構造は、ソフトウェア主導で車を変化させるソフトウェア定義車両(SDV)とも親和性が高い。出荷時のハードウェアで性能が決まる従来のあり方から抜け出し、通信(OTA)を通じて購入後も走行モードや安全機能をアップデートし続けられるからだ。完成車メーカーの収益モデルも、一度の車両販売で完結する売り切り型から、機能課金などを通じた継続的なストック型へとかじを切る。初期トラブルを遠隔修正できる点など、運用コストの削減効果も極めて大きい。
ただし、デジタル化の加速にともなうリスクも無視できない。すべての駆動・制動が集中コンピューターで管理される構造上、サイバー攻撃による遠隔操作を許せば重大な事故に直結しかねない危険性を孕む。物理的なリコールが必要な欠陥を、ソフトウェアの更新だけで表面上繕うといったコンプライアンス上の懸念も拭えない。どれほど高度なソフトウェアを用意しようと、ベアリングの摩耗や熱劣化といったハードウェア固有の物理的限界までカバーできるわけではなく、拠点での直接的な整備は依然として不可欠だ。
ルノー、エクセディ、Proteanの連合が2027年に踏み出す量産化は、セキュリティやガバナンス体制の実効性を市場に示す重要な検証の場となる。自動運転とSDVがもたらす空間価値、そして四輪独立制御の可能性を証明できるかが問われる局面だ。実際の市場で得られる実走データや運用の知見は、同連合がグローバルな競争において先行優位を固める揺るぎない土台となる。この革新的な駆動技術を各社がどう自社モデルに取り込み、新しい移動体験へと昇華させていくのか、今後の展開から目が離せない。(青弓茂(自動車ライター))
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みんなのコメント
面白いなー。
中身は全く別物、そりゃEVだもん
EVの瞬発力はこのモデルにピッタリ
インホイールモーターの性能も気になるところ
市販してくれたらなお嬉しい