最近、R32/R33 GT-Rや80スープラなど、1990年代の名車たちの中古車価格が高騰している。高騰の直接的な理由は、日本国内にタマ(在庫車)がなくなってきているからだ。
こうしたニュースで必ずといっていいほど話題になるのが、アメリカの25年ルールだ。
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ざっくり言えば、製造開始から25年以上経ったモデルに対する規制緩和措置なのだが、
その実態はけっこう複雑だ。
また、25年ルールによって、なぜ日本車での「特定のモデル」が狙い撃ちされているのか不思議に思っている方も多いはずだ。
1990年代の日本車ならどんなクルマでも、アメリカでの需要があるというわけではないのか?
ドイツ、フランス、イタリアなどでも、日本と同じように1990年代車がアメリカに一気に流れているのだろうか?
こうした疑問を解き明かすには、時計の針を1990年代のアメリカに巻き戻す必要がある。
文:桃田健史/写真:HONDA、NISSAN、TOYOTA、MAZDA、MITSUBISHI、SUBARU
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1990年代後半西海岸で目にした奇妙な現象
1990年代中頃、筆者(桃田健史)は米テキサス州ダラス近郊の自宅を拠点にレース活動や取材活動で全米各地を飛び回っていた。
そうしたなか、米西海岸で奇妙な現象が起こり始めたことを知る。
北米での日本車の人気に大きく貢献したのがアキュラRSX(日本名インテグラ)で、スポーツコンパクト(スポコン)ブームの主役の1台だった
1997年頃から南カリフォルニアの、ロサンゼルスカウンティ(郡)周辺で、ホンダ「シビック」の改造車を数多く目にするようになった。
日本でいう4代目「グランドシビック」(EF型)の車高を落とし、マフラー改造、エンジンまわりはやったとしても吸気系程度の、いわゆるライトチューニングが多かった。
乗っているのは20代の東洋系アメリカ人が目立つ。
4代目のグランドシビックは東洋系を中心にアメリカで人気。そのクルマを息子、娘世代が乗り継いだことが日本車のチューニングブームのきっかけとなった
彼らに直接話を聞くと「パパやママからの払下げだよ」という。
アメリカでは新車から10万マイル(16万km)程度まで保有する人が多く、郊外住宅では乗用車の複数所有は当然で、通勤や通学用に親の払下げ車を使う若い世代は珍しくない。
彼らとしてみれば、そうした元手なしで手に入れたクルマをカスタマイズして遊ぼうという発想となった。この時点で、アメリカでは日本車改造はメジャーではなかった。
初体験でのハチャメチャ騒ぎ
問題は、これから先に起こった出来事だ。
それが、東洋系マフィアが仕切る、公道での直線路レース「ストリートドラッグ」と「ショー」と呼ばれる”怪しげな有料イベント”だ。
ストリートドラッグは、1960年の若者たちの生き様を描いた映画「アメリカン・グラフィティ」(1973年/ジョージ・ルーカス監督作品)をモチーフとしたものだ。参加車は、各年代シビックのほか、アキュラRSX(インテグラ)などFF(前輪駆動車)が主流だった。
日本の名物ともなっているチューニングカーの祭典として始まった東京オートサロンは、北米のクルマ文化にも大きな影響を及ぼしている
いっぽう、「ショー」のモチーフはズバリ、東京オートサロンである。ホンダ車のほか、日産「240SX(シルビア)」が人気となったが、そうした出展車以外にショーの内容は過激な傾向が強かった。
キャンギャルの衣装は肌の露出量が極めて大きく、入場者には年齢確認をせずにアルコール飲料を販売したり、一部では違法薬物の売買の可能性も”噂”された。
アメリカの若者たちにとって、こうした”かなりヤバい”感じのクルマを使ったイベントは初体験であり、未成年者の間で「なんだか凄く楽しいところがある」と話が広まり、ショーやレースの内容はどんどんエスカレートしていく。
そうしたなか、マフィアグループ間での権力闘争を起こった。そんな現場に筆者は居合わせているが、当局の抑え込みは凄まじかった。
北米で開催されているSEMAショーは日本車が大人気だったということもあり日本メーカーは積極的に出展。写真は2001 年の アキュラRSX Concept
後に公開される、映画「ワイルドスピード(原題:ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス)」そのままの情景である。
「ワイルドスピード」は、こうした1990年代後半の西海岸の社会情勢を、ドキュメンタリーに近い形で描いた作品だ。筆者も初作の撮影現場にいたが、俳優以外の出演者は手弁当で愛車を持ち込んだ一般ユーザーたちだった。
彼らは「ジェネレーションX」(1965~1980年生まれ)と呼ばれる世代である。
アメリカにないクルマへの憧れ
話をいま(2020年)に戻そう。
ジェネレーションX(現時点で40~55歳)の彼らこそ、25年ルールの恩恵を受け、1990年代日本車をアメリカで購入しているユーザー層の中核だ。
25年ルールで第一人気となっているのは、やはり「スカイラインGT-R」だ。
第二世代の日産スカイラインGT-RのうちR32はすべてのモデル、R33は初年度モデルに25年ルールが適用ずみとなっている
アメリカには、ハコスカ(PGC10/KPGC10型)、ケンメリ(KPCG110型)、そしてR32、R33、R34までのGT-Rは正規輸入されていない。
ジェネレーションXにとっては、1990年代後半から2000年代前半に夢見たR32~R34を「大人買い」するのだ。
また、「S14シルビア」は1990年代当時、2.4Lエンジン搭載の「240SX」に日本から輸入した2Lターボ(SR20)にエンジンスワップするのが流行していたため、現在はスワップなしの現車としてS14への需要もある。
日本のシルビア(S13&S14)は北米で240SXとして販売されていた。S13の240SXは、180SXそのままとワンビアがラインナップされていた
「80スープラ」は、1990年代当時の正規輸入車では日系チューニングカー最高峰だったため、需要がある。
そのほか、三菱「ランエボ」はアメリカではエボVIIから正規輸入のため、エボVI以前のモデルへの関心が高い。
2020年6月現在ランエボシリーズで25年ルールが適用されているのはエボIIIまで。今後エボIV~エボVIが適用されるとさらに人気が出るはず
1990年代後半からの日系改造車ブームが起こるまで、アメリカでの日系車コレクターの主流といえば日産「Z(フェアレティZ)」とマツダ「RX-7」だったが、これらモデルでも25年ルールの活用はあるが、ジェネレーションX向けの主流ではない気がする。
同じく、ドイツ車、フランス車、イタリア車などのコレクターでも25年ルールを使うが、日系改造車ブームとは直接的なつながりはなく、各国で急激な高値が付くまでの状況にはなっていない印象である。
アメリカ人に愛されたジャパニーズスポーツカーの元祖がフェアレディZだが、ジェネレーションX世代には古いZに重いれがないため響かない
25年ルールによるアメリカでの第二の人生
最後になるが、25年ルールについて、その実態をご紹介しておく。
ベースにあるのが、1988年に連邦運輸局が制定した「輸入車セイフティコンプライアンス法」という連邦法だ。その名の通り、セイフティ(保安基準)に対するもので、衝突安全に関する試験等を緩和するためものだ。
これに加えて、連邦環境局のよる排気ガス規制についても、年式の古いモデルに対する規制緩和措置がある。
そのうえで、アメリカでは全50州によって運輸と環境に対する独自の解釈があるため、連邦法と州法との解釈をどのように擦り合わせるかが課題となる。カナダにおける15年ルールもアメリカと同様の課題があると考えられる。
25年ルールが生まれたのが、たまたま1980年代後半。
結果的に、1990年代の日本の名車たちがアメリカで第二の人生を送ることになった。
1999年1月にデビューしたR34が25年ルール適用になるのは2024年1月。まだ時間があるように感じるが、すでに北米で囲い込みが始まっている
実勢価格調査
では、1990年代の日本のスポーツカーがアメリカでどのくらいの価格で販売されているのかを調べてみた。
【編集部調査の中古価格】
■日産スカイラインR32GT-R:430万~650万円
■日産スカイラインR33GT-R:540万~650万円
■日産スカイラインR34GT-R:800万~1760万円
■ホンダNSX:540万~970万円
■マツダRX-7(FD3S):300万~750万円
■トヨタ80スープラ:430万~1290万円
当然ながらここに示した価格は目安で、極端に高いものも存在している。ただし、その逆、極端に安いモデルは存在しない。上記価格はどう考えても日本よりも高値で販売されている。
これでもアメリカで売れているというのが凄いことだが、ウカウカしていると、日本の在庫を根こそぎ持っていかれる可能性もあるのが怖いところ。
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みんなのコメント
欲しい人の所に行くのが車にとっても一番でしょう。