今の時代では考えられない偽りのスペック
1977年ごろ、一世を風靡したスーパーカーブームの破壊力はすさまじかった。日本全国の子供たちが皆、マニアックな車のスペックを丸暗記し、ショールームにある車たちを追いかけた。
ブームの中でも圧倒的な人気を誇ったのは、ランボルギーニ カウンタックだった。地をはうような低いワンモーションのシルエットに、翼のように開くシザーズドア。従来の自動車という概念を変えたようなスタイルは子供たちだけでなく、世界中の自動車愛好家を夢中にさせた。それだけではない。何と最高時速300km/hというスペックが誇らしげにカタログに記されていた。そう、車には限りない夢があり、不可能をも可能にしてくれるような魅力に溢れていた時代だった。だから皆は素直にその「性能」「速さ」に驚いた。
しかし、子供たちはともかく、その少し前に突然世界中を襲ったオイルショックは、そんな夢のような気分を現実に引き戻していた。ランボルギーニは、厳しい経営状況の中でカウンタックを市販モデルに仕上げるべくチーフエンジニアのパオロ・スタンツァーニが奮闘。しかし、パワーを上げれば美術工芸品のようなスリムなボディには熱がこもりあっという間にエンジンは壊れるし、スピードを上げれば車体は浮き上がりまさに空を飛ぶ勢いだった。何せボディに毛糸をテープで大量に貼り付けて、その流れ具合で空力特性を判断したという牧歌的な時代であったのだ。
そんな中でプレスリリースに記された最高速度300km/hはまさに“目標値”であり、夢の数字であったのだ。「こういう車を欲しがる顧客は300km/hを出したいと思うかね? 顧客は自分のモチベーションを高めるために、こんな夢のような車を手にしたいと思うんだ。これこそ私があのミウラから学んだことなんだ」。元祖スーパーカーともいえるランボルギーニ ミウラの生みの親であるスタンツァーニのコトバには説得力があった。
スーパーカーからリアルなハイパフォーマンスカーへ
冷静に考えれば、最高速度や性能にこだわるのなら、奇抜で美しいスタイルとの同居は難しいことに気づく。レーシングカーを見てほしい。派手なウイングや太いタイヤを収めるためのオーバーフェンダー、ボディにはエンジンやブレーキ放熱のための穴だらけ……。カウンタックLP500(初代プロトタイプ)とは縁遠い世界であることがわかる。スーパーカーというのは、速くて性能の良い車のようなイメージを顧客に抱かせるだけで十分であり、実はスペックの再現性など関係なかったのだ。
しかし、そんなスーパーカー独自の価値観は、ハイパフォーマンスカーという名称でくくられる今、大きく変わっている。スーパーカーのような牧歌的な言い訳は許されなくなったのだ。スペックは厳密な(実は必ずしもすべてがそうではないが)裏付けが必要となり、エンジンを保護するために無骨なダクトも備えなくてはならなくなったし、CO2排出量や安全性への担保までが要求されるようになってきた。さあ、これは困ったことだ。
今年は、前述のカウンタックLP500コンセプトモデルが誕生して50周年。記念すべき瞬間だ。今や最高時速300km/hを出すことはさほど難しいことではなくなったが、スタンツァーニが指摘したスーパーカーに対するブランディング戦略とマーケティング・セオリーは全く変わっていない。誰も手にすることのできないユニークな車を自分だけが手にしたい。そんな飽くなき欲求がそこにある。
50年前に作られたカウンタックLP500はクラッシュテストのための犠牲となった幻の個体であったが、カウンタックを愛すマニアの情熱により、ランボルギーニのクラシック部門の手で復刻された。その個体が元気よく走る姿を、イタリアで開催されたコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステで目にすることができたが、それは50年の月日を経てもいまだ未来の車そのものであった。
そこに居合わせた皆を50年前にタイムスリップさせるほどの神通力。これがあるから「目標値300km/hオーバーのスーパーカー」という不思議が生まれたのである。 文/越湖信一、写真/ランボルギーニ
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みんなのコメント
うちのオヤジの車が180キロメーターだったのに親戚のおじさんの車が200キロメーターなのが悔しかった
とにかく止まってる車のスピードメーターを覗き見するのが好きでスカイラインとかの240キロメーターを見てスゲーとか思ったりしてた、書いてあるからにはそれが最高速度だと思ってた
自分が小学校低学年、まさにスーパーカーブームの頃の話
カーグラフィックのテストで初めて実測300キロを超えたのはF40 から。 テスタロッサではメーター読みですら300に届かなかった。
ノーマルだと32Rが250キロ、Z32が260キロ止まりだったと思う。
あと日本だと300キロ出せる安全な施設が少ないのも
データ取るのが難しい理由