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スカイラインGT-Rが「中途半端」な排気量を採用したのにはワケがある! 2.6リッターはレースで有利になるためだけに選んだ潔い数字だった

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スカイラインGT-Rが「中途半端」な排気量を採用したのにはワケがある! 2.6リッターはレースで有利になるためだけに選んだ潔い数字だった

 この記事をまとめると

■第2世代GT-Rに搭載されたエンジン「RB26DETT」の排気量は2568ccであった

正真正銘のGT-Rの頂点! NISMOが生んだたった19台の至宝R34 GT-R「Z-tune」は震えがくるほどの中身だった

■当時のグループAレギュレーションに合致させて勝つために設定された数字だ

■レースでは大活躍しR32GT-Rも4万台以上売れるヒット作となった

 なぜ2600ccという中途半端な数字?

 1989年、日産が世に送り出したR32型スカイラインGT-R。そのボンネットの下に収まっているRB26DETTと呼ばれる2.6リッター直列6気筒ツインターボエンジンの排気量は2568cc。68cc少なければ、自動車税は2.5リッター以下の枠に収まったが、あえてその恩恵を外れる中途半端な排気量を採用した背景には、明確な狙いがあった。それは、レースで勝つこと。しかも単に勝つだけではない。「圧倒的に勝つ」ための緻密なエンジニアリングと戦略がそこに隠されていたのだ。

 グループAレギュレーションと“過給係数1.7”

 グループAツーリングカー規定──それがR32GT-R開発の出発点だった。

 当時、FIA(国際自動車連盟)が定めていたグループAの規定は、世界中のツーリングカー選手権のルールブックとして機能していた。日本でも1985年からJTC(全日本ツーリングカー選手権)としてシリーズがスタート。市販車の改造範囲が比較的狭いこのカテゴリーは、メーカーにとって自社の技術力や製品力をアピールする格好の舞台だった。このグループA規定には、エンジン排気量に応じた“過給係数”というルールが存在していた。ターボなどの過給機を搭載した車両は、実排気量に係数1.7を乗じた数字が適用され、それによって最低車両重量やタイヤ幅といった性能面に直結するパラメーターが決められていたのだ。

 RB26DETTの2568ccという排気量は、まさにこの過給係数を睨んだ設定だった。というのも、この排気量を1.7倍すると4365cc相当となる。これが非常に重要だった。なぜなら、グループAの排気量区分で4.5リッター未満のクラスにギリギリ収めることができたからだ。このクラスだと最低重量が1260kgで、11インチの幅広いタイヤを履くことができた。4輪駆動と相まって十分なトラクション性能が得られたのだ。レースで勝つことを優先したGT-Rというクルマの使命からすれば、税制の優遇など取るに足らない。その目的のために、2.6リッターという数字は導き出されたのである。

 開発当初の排気量は2.6リッターではなく、RB24改2.35リッターだった

 ちなみに開発初期段階では、R32GT-Rのパワーユニットは2.6リッターではなかった。

 1986年、R32プロジェクトはスタートしたが、その当時のエンジン候補はRB24改と呼ばれる2.35リッター仕様のエンジンだったのだ。これは南米市場向けに存在していたRB24Sという直6SOHCユニットがベース。

 排気量4リッター未満のクラス(最低重量1180kg、タイヤ幅10インチ)に収めるために排気量ダウンを行い、ツインカムヘッド+ターボを組み合わせることで最高出力は420馬力。当初の駆動方式はFR(後輪駆動)だった。このパッケージで、当時国内最高峰の舞台だった富士スピードウェイのインターテックレースで1分35秒切りを狙うというのが初期のプランだ。

 すべては勝利のために

 ライバルの著しい進化を目の当たりにしてさらなる高出力化を決断

 ところが、開発途中で事態は一変する。同年のレースシーンでライバル勢の著しい進化が目の当たりとなったのだ。そこで開発陣は目標タイムを大幅に上方修正。1990年のデビューで富士1分30秒切りを新たな必達目標と定めた。当然ながら、これまでのパッケージでは到底その水準に達しない。綿密なるシミュレーションの結果、600馬力級の出力が必要と判断された。同時に、これほどのパワーを路面に確実に伝えるにはFRでは力不足と判断され、新たに開発されたFRベースの四輪駆動システム「アテーサE-TS」の搭載が決定。

 ただし、これにより車両重量は増加するため、そのぶんパフォーマンスの底上げが求められたのだ。最終的にエンジン排気量は2.6リッターまで引き上げられ、RB26DETTはレースシーンに投入されることなった(実際のレースではピストンの変更が許されていることから、ボアを1mm拡大したオーバーサイズピストンを採用。4.5リッター以下の区分けに収まるギリギリまで排気量を拡大している)。

 徹底したレギュレーションミートなクルマ作りがレース制覇の理由

 当時のライバルたちの状況を見てみよう。

 代表格であるトヨタ・スープラは3リッター直6ターボを搭載していた。これに過給係数1.7を掛け算すると仮想排気量は5.02リットル。GT-Rよりふたつ上のクラスとなり最低車重は160kgも重い1420kg。さらに駆動方式はFRであったため、排気量は大きくともその高出力、高トルクを受け止められない。このスペック差は、レースにおいて極めて大きなハンディキャップとなった。

 一方のR32GT-Rは前述したとおり、600馬力級の高出力とアテーサE-TSによる高いトラクション性能を両立。1260kgの軽量ボディに11インチ幅の太いタイヤを履き、安定したコーナリングと圧倒的な加速性能を誇った。この徹底的にレギュレーションを読み込み、最大限に活用する開発姿勢こそがR32GT-Rの快進撃の原動力となったのだ。デビュー以降も開発の手は緩むことはなく、耐久性、信頼性、さらには高回転域でのレスポンスとトルク特性まで磨き込まれるなど、すべてが勝利のために最適化されていた。ドライバーにとって扱いやすく、つねに高いパフォーマンスを発揮する“戦うエンジン”──それがRB26DETTだったのである。

 レースを制し市販車としても伝説となった存在

 こうした背景を知れば、RB26DETTがなぜ多くのクルマ好きを惹きつけたのかは自明だろう。「レースで勝つ」ことだけを純粋に目指して開発された潔さが、R32GT-Rに独特のオーラを与えていた。価格は当時としては高額な445万円。それでも最終的には4万4000台に迫る販売台数を記録したのは、単なる速いクルマという枠を超えた価値がそこにあったからだ。

 RB26DETTの2.6リッターという排気量は、偶然でも妥協でもない。グループAレギュレーションを徹底的に読み込み、勝つための最適解として導き出された必然の数字だった。日産の技術力とレースへの情熱を象徴するこのエンジンは今日に至るまで世界中のファンから語り継がれ、愛され続けている。R32GT-RがグループAの舞台で残した伝説は、数字の裏に潜むこの“戦略的排気量”と、開発陣の飽くなき勝利への執念によって築き上げられたものといえるだろう。

文:WEB CARTOP 山崎真一
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みんなのコメント

69件
  • マッハ男爵
    自動車税が3,000ccクラスになるのは了解して買ったが、13年、18年で重課されるのは了解してねぇぞ。夏の参院選おぼえてやがれ!
  • おかっぱ巻き
    32Rは当時高いのは高いけど頑張れば買えたのが今考えるとすごいわ
    自分は無理せずGTS-Tにしたけどもこれもいい車だった
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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