最新のトヨタ「アクアGRスポーツ」に 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキが乗った!
最も身近なホットハッチ──新型トヨタ アクアGRスポーツ試乗記
新型トヨタ アクアGRスポーツの特徴
1.エントリー・スポーツの存在意義
2.市場における立ち位置
3.エクステリア
4.インテリア
1.エントリー・スポーツの存在意義
近年、トヨタが展開するスポーツカーブランドである「TOYOTA GAZOO Racing(TGR)」の存在感は際立つ。
ブランドの最頂点には、モータースポーツ直系の技術と哲学を注ぎ込んだ「GR GT」のようなスーパースポーツやハイパーカー構想が存在し、その直下には世界ラリー選手権(WRC)の知見をそのまま市販車へと昇華させた「GRヤリス」、さらには本格的なスポーツ走行を追求した「GRカローラ」や「GR86」、「GRスープラ」といったピュアスポーツモデルが盤石の布陣を敷いている。
こうした本格派スポーツモデルのピラミッド構造を支え、より多くのドライバーに向けてスポーツドライビングの門戸を開く役割を担っているのが「GR SPORT」シリーズだ。GR SPORTは、専用設計のシャシーやエンジンをゼロから起こすのではなく、量産ベース車の優れた基本性能を活かしながら、TGRが培ってきたモータースポーツの知見を注ぎ込んでボディ剛性の強化やサスペンションの専用チューニング、内外装の最適化を施したモデル。すなわち、誰もが日常的に扱える実用性と低燃費を維持したまま、走る歓びをダイレクトに味わえるエントリー・スポーツとしての明確な使命を帯びている。
今回試乗した一部改良を受けた2代目アクアのGR SPORTは、まさにそのTGRの哲学を身近に、そして凝縮された形で体感できる1台だ。
コンパクトハイブリッドカーの代名詞として環境性能と実用性を両立したアクアをベースにしながら、熟練のテストドライバーたちが走り込みを重ねて開発したこのモデルには、エントリーグレードの言葉から想像される妥協は存在しない。
巨大な自動車メーカーが持つ技術力と、TGRが掲げる「もっといいクルマづくり」にかける情熱の深さが、この最もコンパクトなアクア GR SPORTにまで惜しみなく注ぎ込まれているのには、感銘を覚えざるを得ない。
2.市場における立ち位置
アクア GR SPORTが属する日本のコンパクトハッチバック市場には、日常の実用性とスポーティな走行性能を高次元で融合させた魅力的なライバルが複数存在している。その筆頭として挙げられるのが、日産の「ノート オーラ NISMO」であり、またホンダの「フィット RS」だ。
ノート オーラ NISMOは、プレミアムコンパクトであるオーラをベースに、第2世代e-POWERの力強い電動トルクと専用のシャシーセッティング、そしてフォーミュラEを想起させるアグレッシブなエアロダイナミクスを纏った電動スポーツである。一方のフィット RSは、ホンダ伝統のRSバッジを掲げ、2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」の特性を活かした俊敏な走りと、減速セレクターによるダイレクトな減速コントロール、そしてフィットならではの圧倒的な室内空間と視界の良さを武器としている。
これら強力な競合車に対し、アクア GR SPORTが打ち出す独自性は、TNGA(Toyota New Global Architecture)に基づく「GA-Bプラットフォーム」の素性の良さを磨き上げた点と、世界最高峰の熱効率を誇るハイブリッドシステム「THS II」がもたらす高い環境性能との両立だ。本モデルは、前輪駆動(FF)方式を採用し、車両重量は1160kgと、ハイブリッドシステムや補強部材を搭載しながらも軽量に抑えた。
ボディサイズは、全長4100mm、全幅1695mm、全高1485mm、ホイールベース2600mmとなっており、日本の都市部における狭隘な道路や立体駐車場でもストレスなく扱える5ナンバー枠を維持する。
パワーユニットには、型式「M15A-FXE」と呼ばれる1.5リッター直列3気筒のダイナミックフォースエンジンを搭載。内径80.5mm、行程97.6mmのロングストローク設計を持ち、総排気量は1490cc、燃料供給装置には電子制御式燃料噴射装置(EFI)を採用し、使用燃料は経済的な無鉛レギュラーガソリンだ。エンジン単体のスペックとしては、最高出力67kW(91ps)を5500rpmで発生し、最大トルク120Nm(12.2kgf・m)を3800rpmから4800rpmの領域で発揮する。これに高出力な駆動用モーターが組み合わされ、電気式無段変速機を介して前輪を駆動する。システム最高出力としては116PSを誇り、発進時から瞬時に最大トルクを立ち上げるモーターのアシストによって、スペックの数値を上回る力強い加速フィールを実現した。
特筆すべきは、スポーツモデルでありながらWLTCモード走行燃料消費率で30.7km/Lを達成している点だ。ハイブリッドシステム、アイドリングストップ装置、電気式無段変速機、可変バルブタイミング、電動パワーステアリング、充電制御といった最新の環境・燃費改善対策が網羅されており、日常の維持費を最小限に抑えつつ、ひとたびワインディングに持ち込めばスポーツドライビングを堪能できる。この二律背反する要素を高い次元で結実させている点こそが、アクア GR SPORTの最大の強みだ。
試乗車のメーカー希望車両本体価格は¥3,238,400であり、ここに有償ボディカラーのプラチナホワイトパールマイカ(¥33,000)、悪天候時の被視認性を高めるLEDリヤフォグランプ(¥11,000)、ウインドシールドデアイサーやヒーターリヤダクト、PTCヒーターを含む寒冷地仕様(¥16,500)、そして販売店装着オプションである専用のGRフロアマット(¥27,500)が組み合わされ、オプション合計価格は¥88,000、総合計価格は¥3,326,400。
コンパクトカーとしては300万円を超える価格帯となり、クラスとしてはプレミアムな領域に足を踏み入れているが、後述する内外装の質感、充実した標準装備、そして専用開発されたシャシーと走行性能の完成度を考慮すれば、価格以上の価値が提示されている。
3.エクステリア
ベースとなる標準型アクアのエクステリアは、無駄なキャラクターラインを削ぎ落とし、シンプルでクリーン、かつ親しみやすい「知的なコンパクトカー」としての佇まいが特徴だ。これに対し、アクア GR SPORTのエクステリアは、その端正なプロポーションをベースとしながらも、ひと目で特別なスポーツモデルであることを主張するアグレッシブかつ機能的な造形へと変貌を遂げている。
フロントフェイスにおいて最も強い視覚的インパクトを放つのが、GRシリーズ共通の意匠である「ファンクショナルMATRIXグリル」だ。六角形のメッシュパターンを採用した大開口のロアグリルは、単にスポーティな迫力を演出するだけでなく、ラジエーターやインバーターを冷却するための空気導入量を最大化し、モータースポーツの現場で培われた空力改善の役割を果たす。フロントバンパーの両端には、整流効果を生み出すサイドエアインテークが配置され、フロントタイヤ周辺の乱流を効果的に抑制して高速走行時の直進安定性と接地感を向上させている。
ボディカラーには、¥33,000のオプション設定となる「プラチナホワイトパールマイカ」が選択されていた。この上質な光沢と透明感を持つホワイトの車体に対し、フロントグリルのメッシュ、専用のフロントバンパーガーニッシュ、ロッカーモールディング、ドアミラーカバー、リヤバンパー下部のディフューザー形状に配されたブラック加飾がコントラストを描き出す。このモノトーンのコントラストが、車体全体の引き締まり感を強調し、ロー&ワイドなスタンスを視覚的に際立たせている。
足元を飾るのは、GR SPORT専用にデザインされた17インチアルミホイール(リム幅7J)。ダーククリア切削光輝処理とブラック塗装が組み合わされた精緻なスポークデザインを持ち、センター部には誇らしげに「GR」のエンブレムが配置され、専用のブラックホイールナットが足元を精悍に引き締めている。
装着されるタイヤは、205/45R17サイズのブリヂストン製「ECOPIA EP150」である。近年のスポーツモデルでは、ミシュランのパイロットスポーツシリーズのようなハイグリップなスポーツタイヤを標準装着する例も少なくないが、アクア GR SPORTがあえてエコピアを選定している点には、開発陣の思想が表れているように思う。
すなわち、過度なハイグリップタイヤに頼って機械的な旋回性能を稼ぐのではなく、しなやかに動くシャシーと強靭なボディ剛性によってタイヤのグリップ力を限界まで引き出し、日常の転がり抵抗の低減や静粛性、乗り心地の良さを犠牲にしないという選択だ。このタイヤチョイスによって、街乗りにおける快適性を損なうことなく、路面状況を繊細に掌に伝えるナチュラルなロードインフォメーションの獲得に成功している。
リヤビューにおいても、専用意匠のリヤバンパーロアカバーがワイド感を強調し、下部にはディフューザー形状が与えられている。さらに、試乗車には¥11,000のオプションであるLEDリヤフォグランプがリヤバンパー下部中央に埋め込まれており、悪天候時の安全性向上とともに、レーシングカーのレインライトを彷彿とさせるスパルタンなアクセントとして機能。標準車の持つシンプルで上質な造形美を損なうことなく、機能性に裏打ちされたスポーティなアジリティを宿らせたその佇まいは、大人のエンスージアストをも納得させるだろう。
4.インテリア
運転席に乗り込むと、ドライバーのスポーツマインドを心地よく刺激する空間が広がっている。インテリアカラーはブラックを基調とし、無駄な装飾を排したストイックな仕立てでありながら、各部の素材使いと触感へのこだわりが随所に感じられる。
真っ先に目を奪われるのは、フロントに配されたGR専用のスポーツシート。スポーティな形状を採用し、ヘッドレスト部には誇らしげにGRのロゴが刺繍されている。このシートは、単に見た目がレーシーであるだけでなく、骨盤をしっかりと立たせて背骨のS字カーブを自然に維持するエルゴノミクスに基づいた設計が施されているのもポイントだ。サイドサポートの張り出しは適切で、街乗りでの乗降性を妨げることのない高さを保ちながら、ワインディングでの強い横Gに対してもドライバーの身体を保持してくれる。シート表皮の質感も高く、身体が滑りにくい素材が採用されており、長時間のドライブでも疲労が少ない。
ドライバーが常に触れるステアリングホイールには、小径設計のGR専用本革巻き3本スポークステアリングを採用。しっとりと手に馴染むレザーが巻かれ、握りの太さや断面形状が最適化されており、下部スポークにはGRエンブレムが配されている。ステアリング越しに見るメーターパネルは、先進的なデジタル表示でありながら視認性が高く、速度やハイブリッドシステムのエネルギーフロー、ドライブモードの状態などの必要な情報が瞬時に直感的に把握できた。
ダッシュボードやドアトリムの質感の高さも特筆に値する。インパネ中央部から助手席側にかけては、しっとりとした触感を持つ合成皮革の表皮巻きが施されている。さらに、各部には落ち着いたダークグレーのステッチやグレースモーク調の加飾パネルが巧みに配されており、かつてのコンパクトカーにありがちだった硬質なプラスチックの安っぽさは払拭されている。
装備レベルの充実ぶりも、このクルマの満足感を大きく引き上げている要因である。センターコンソールには大画面のディスプレイオーディオが標準で装備されており、ナビゲーションやスマートフォン連携機能がスムーズに利用できる。さらに、指先ひとつの操作で確実に作動する電動パーキングブレーキと、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離すことができるオートブレーキホールド機能も標準装備。エアコンはフルオートエアコンであり、寒い季節に重宝する運転席・助手席のシートヒーターまでもが標準で備わっている。これらの快適装備が最初から投入されているため、オプションを大量に追加することなく、購入した状態のままで高い満足度が得られるはずだ。
後席の居住性についても、実用車としてのアクアの美点がそのまま活かされている。実際に身長170cmのドライバーが適切なドライビングポジションを取った状態で後席に腰掛けてみると、膝先の前方にはこぶしが約2.5個分も入るクリアランスを確保。クーペ風のルーフラインを描いているため、頭上空間はこぶしが約1.5個分と、ミニバンのような広大さではないものの、大人が日常的に長距離を移動するにあたって十分なヘッドクリアランスが確保されている。
さらに、後席乗員やアウトドアでの利便性を飛躍的に高めるアイテムとして、AC100V・1500Wのアクセサリーコンセントも配置。これはハイブリッド大容量バッテリーを活かした非常時給電システムとしても機能し、停電などの災害時には移動する電源として家電製品を稼働させることができるだけでなく、日常のレジャーや車中泊、移動中の電子機器の充電にも威力を発揮する。
ラゲッジルームに関しても、日常の買い物や週末の旅行に十分な荷室容量を確保。開口部は広く、フロア面もフラットで荷物の積み降ろしがしやすい。標準状態では荷室を覆うトノカバーが省かれオプション扱いとなっているが、多くのユーザーにとって実用上問題となることは少なく、むしろ荷物の積み込みやすさを優先した合理的な割り切りとして受け止められるだろう。スポーツモデルとしての特別な空間演出と、ファーストカーとして家族を乗せる日常の実用性が両立している(次のページへ続く)。
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