新車試乗レポート [2023.10.02 UP]
【フォルクスワーゲン ID.4 Lite】電気自動車の実力を実車でテスト【グーEVテスト】
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
フォルクスワーゲンID.4キャラバン 展示/試乗イベント全国19都市で開催
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回テストに駆り出したのは、VW(フォルクスワーゲン)「ID.4」のエントリーグレードである「Lite」。日本に導入されるVW車としては初めてEV専用アーキテクチャーを採用したID.4は、果たしてどんな実力の持ち主なのだろうか?
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フォルクスワーゲン ID.4 Liteのプロフィール
フォルクスワーゲン ID.4 Lite
2050年までのカーボンニュートラル実現を目標に、VWが開発したのがEV専用のアーキテクチャーである“MEB(モジュラー エレクトリックドライブ マトリックス)”。そのターゲットは、EVを多くの人々にとって身近な存在にすることにある。
それを裏づけるかのように、MEBはコンパクトカーからSUV、そしてミニバンに至るまで、幅広いモデルラインナップに対応。日本に導入されるVW車において初の量産EVとなったSUVの「ID.4(アイディ フォー)」も、そのMEBを採用する。
2020年にドイツ本国でデビューしたID.4は、現在、ヨーロッパだけでなく北米や中国でも生産・販売されるVWの世界戦略車となっており、2022年には全世界で約17万台が販売されるなど、ID.ファミリーでナンバーワンの人気車種に。さらに2021年にはワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、高い評価を獲得している。
ここ日本でも、2022年11月に発表された「ローンチエディション」は早々と完売。2023年生産分の上陸が待たれていたID.4だが、ようやく待望のデリバリーが始まった。
日本仕様のボディサイズは、全長4585mm、全幅1850mm、全高1640mm、ホイールベース2770mm。リアへと流れるようなルーフラインが印象的なボディ形状や大型ルーフスポイラー、フラットなアンダーボディなどにより、Cd値0.28という優れた空力性能を実現している。
グレードは、エントリー仕様の「Lite」と上級仕様の「Pro」という2種類を展開。前者は52kWhのバッテリーに125kW(170ps)、310Nmのモーターを、後者は77kWhのバッテリーに150kW(204ps)、310Nmのモーターを組み合わせる。
ちなみに最新モデルは、バッテリー制御に関わるハードウェアやソフトウェアの改良などを実施。これによりWLTCモードの後続距離が、「Lite」グレードで388kmから435kmへ、「Pro」グレードでは561kmから618kmへと1割弱伸びている。
MEBアーキテクチャーを採用するID.4は、ロングホイールベースとショートオーバーハング化によってひとクラス上のキャビン空間を確保している点も見逃せない。特にリアシートの足下は、フロアに余分な張り出しがないため広々としている。
また、通常状態で543Lが確保されているラゲッジスペースは、リアシートの背もたれを倒すことで1575Lまで拡大可能。キャンプなどのレジャードライブにも難なく対応する。
■グレード構成&価格・「Lite」(514万2000円)・「Pro」(648万8000円)■電費データ「Lite」◎交流電力量消費率・WLTCモード:132Wh/km >>>市街地モード:116Wh/km >>>郊外モード:124Wh/km >>>高速道路モード:144Wh/km◎一充電走行距離・WLTCモード:435km
フォルクスワーゲン ID.4 Lite
【高速道路】改良による電費の改善を確認することができた
ID.4をEVテストに連れ出すのは2回目となる。
前回はバッテリー容量が77kWhと大きく一充電走行距離も長いID.4 Pro Launch Edition、今回はバッテリー容量52kWhのID.4 Liteであり、なおかつ2023年モデルからは電費が改善されている。
さらに、前回は2月のテストで外気温は-1℃~10℃でスタッドレスタイヤ装着と、条件もかなり異なる。
今回の高速道路電費は
制限速度100km/h区間のその1が5.9km/kWh、その4が7.5km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が8.2km/kWh、その3が7.9km/kWh。前回テストしたID.4 Proの高速電費は
制限速度100km/h区間のその1が4.4km/kWh、その4が5.6km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が5.4km/kWh、その3が5.6km/kWh。 ざっくりと15%ほど電費が良くなっているが、それも当然だろう。
日本導入初期のLaunch Editionと現行の2023年モデルを比べると一充電走行距離はLiteが388kmから435km、Proが561kmから618kmへと11~14%ほど伸長。今回の外気温は24~30℃ほどでエアコン、ヒーターの負荷は比較的に少なく、スタッドレスではなくサマータイヤでも10~20%ほどの差が出ておかしくないからだ。
WLTCモード電費は総合で7.6km/kWh、高速モードで6.9km/kWhであり、今回は乖離も少なく優秀な電費だったといえる。
往路の高速テストコース
往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした。復路の高速テストコースは小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った
【ワインディング】車重2000kgクラスのなかでは優秀なデータ
じつは前回のテストではいつもの箱根ターンパイクが通行止めとなり、並行している箱根新道を走った。スタートとゴールの標高差を合わせておこなったところ、想像よりは箱根ターンパイクで得られる電費数値に近かったのだが。条件が違うのであくまで参考程度だ。
今回の登り区間の電費は1.9km/kWh。
前回の登り区間の電費も1.9km/kWhで、道も条件も違うのに電費はまったく同じだった。
今回のほうが電費には有利なはずなので、前回同じ道を走ったらもっと悪かったのだろう。
これまで延べ57台をテストしてきたが、そのなかでは車両重量2000kg級のモデルとしては優秀な部類だ。
下り区間では電費計からの推測値で3.59kWhが回生された計算になる。前回の参考値は2.1kWhであり、回生効率が上がっているともみてとれるが、こちらは過去のテスト車のなかで並レベル。高級・高額で重たいBEVのほうが回生量が多い傾向にある。
自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した
【一般道】道路状況の影響か電費データは改良前と変わらず
今回の一般道の電費は5.7km/kWhで、前回とまったく同じだった。少しは改善されるものと期待していたが、そうならなかった。
一般道はいつも昼前後で最後のテスト項目であり、外気温は8.5~10℃で走り続けているので室内は十分に暖まってヒーターの負荷は低め。今回は外気温27~31℃でエアコンの負荷はそれなりにあり、じつは今回のほうが負荷は高かったのだろう。
同時テストのアウディQ4e-tronは前回テストと同条件ながら電費が悪化してることからも整合性がとれる。
とはいえ、一般道は信号のタイミングや周囲の交通の状況によって電費データは変動しやすいことは認識しておきたい。
東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した
【充電】出力40kWの急速充電で30分間で47%から80%まで回復
海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません
スタート時のバッテリー残量92%、走行可能距離292km。そこから147km走行した復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量47%、走行可能距離158kmになっていたが、出力40kWの急速充電器を30分使用して16.8kWhが充電され、バッテリー残量80%、走行可能距離262kmに回復した。
充電開始直後から35kWほどの出力で平均は33.6kW。ちょうど30分で80%に到達し、そこまでは順調だった。80%を超えるともう少し絞られるものと思われる。
ちなみに、前回のテストでは出力90kWの急速充電器を30分間使用して25.1kWhの電力が得られた。もう少し伸びてもいいのだが外気温が低いことが不利に働いたようだ。
足元はフラットで膝前空間にもゆとりがあり、ファミリーカーとしても十分使える
フォルクスワーゲン ID.4はどんなEVだった?
テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏
タイプ1(ビートル)、ゴルフに続くフォルクスワーゲンの大黒柱になるIDシリーズ。日本では現在のところID.4のみラインアップされているが、ボディサイズに対して後席の室内空間が圧倒的に広いなど、BEV専用プラットフォームの威力が如実に表れている。
走らせてまず感じるのはボディ剛性が高く、しっかりとしていること。昔からドイツ車は超高速域に対応するために、剛性感が高かったのだが、BEVとなってもそれは継承されているのだ。実際に高速巡航時の安心感は高く、ロングドライブにも向いた特性だ。
ID.4 Lite■全長×全幅×全高4585×1850×1640mm■ホイールベース:2770mm■車両重量:1950kg■バッテリー総電力量:52.0kWh■定格出力:70kW■最高出力:125kW(170ps)/3851~15311rpm■最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0~3851rpm■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク■ブレーキ前/後:Vディスク/ドラム■タイヤ前後:235/60R18取材車オプションフロアマット(テキスタイル)
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