■トヨタが電気自動車を出さない理由
最近、自動車業界では電動化の波がグローバルで急速に進んでいます。純粋な電気自動車では、テスラ「モデルS」や日産「リーフ」などがパイオニア的存在です。
トヨタが1000馬力、価格も1億円級のモンスターマシンを市販化へ
そんななか、世界の自動車メーカーにおいて売上高の上位を誇るトヨタからは、純粋な電気自動車の話が聞こえてきません。なぜ、トヨタは電気自動車を出さないのでしょうか。
2019年3月に開催されたジュネーブモーターショーでは、欧州ブランドによる電動化への傾注さが際立っていました。メルセデス・ベンツやアウディ、フォルクスワーゲンといったドイツ勢だけでなく、プジョーやシトロエン、ルノーといったフランス勢、さらにはイタリアのアルファロメオまでが電動化モデルを出品しています。
さらに、ホンダも2019年中に市販するという電気自動車「ホンダe」のプロトタイプをお披露目しました。注目すべきは、普通のハイブリッドではなく、その先の充電できるハイブリッド(プラグインハイブリッド)や電気自動車(EV)に重心があることです。
しかし、ハイブリッドの雄であるトヨタのジュネーブモーターショーの目玉は、ガソリンエンジンを搭載した「GRスープラGT4コンセプト」。また、トヨタからは欧州向けや日本向けの電気自動車の話が、さっぱり聞こえてきません。
トヨタは、電気自動車を作るだけの技術を持ち合わせています。トヨタの得意なハイブリッド技術は、エンジンにモーターと二次電池を組み合わせたもの。ハイブリッド車とは、いってみればエンジン車にモーターと電池を組み合わせたクルマです。
そんなモーターと電池を積んだクルマ(ハイブリッド)をトヨタは、「プリウス」を始めとするモデルで、20年以上前から1100万台も世に送り出しています。
モーターと電池を開発する技術だけでなく、大量に生産する技術まで備えているのです。『これから電気自動車を売る』という自動車メーカーとはスタートラインが違うのです。
それでも、トヨタは、欧州や日本に『電気自動車を投入する』といいません。なぜ、トヨタは電気自動車に慎重なのでしょうか。トヨタの広報担当は次のように説明します。
「最初にいっておきたいのは、トヨタのスタンスは全方位ということです。ハイブリッドも電気自動車もFCV(燃料電池車)もすべてやります。電気自動車をやらないとはいっておりません。ただ、順番として電気自動車よりもFCV(燃料電池車)が先になっただけです」
■あらゆる分野での可能性を見極めるトヨタ
確かにトヨタは、まったく電気自動車をやらないというわけではありません。中国向けには、2020年から「C-HR」の電気自動車バージョンを、同じく2020年にインドにもスズキと提携した電気自動車を投入すると発表しています。また、自動運転が可能なモビリティサービス(MaaS)用の「e-Paletteコンセプト」は電気自動車です。
FCV(燃料電池車)に関していえば、航続距離や充填時間という点で電気自動車よりも優れており、「水素ステーションといったインフラが整えば普及する可能性が高い」と判断したのでしょう。
現状では、FCV(燃料電池車)が普及したとは言い難い状況ですが、かといって失敗したわけではありません。継続していくことで、状況が大きく変わり、大化けする可能性もあります。
個人的な推測ですが、実際のところ欧州と日本で電気自動車が、大きく普及するには、まだまだ時間がかかるのではないでしょうか。
日本において、クルマ使用シーンは、『航続距離が短く、低速度』がほとんどな上、充電設備に関しては全国津々浦々まで整いつつあり、日本ほど電気自動車の普及に向いているところはありません。
しかし、日産も三菱自動車も電気自動車の普及には苦戦しています。そんな前例があるのですから、「欧州ですぐに電気自動車が普及する」と甘く考えている人は少ないはず。
もちろん国策として電気自動車を推進する中国は違い、近い将来に大量の電気自動車が売れる日がやってくるはずですが、欧州は苦戦が強いられると予想できます。
裏を返せば、トヨタは電気自動車普及の現実味の濃い中国には来年に電気自動車を投入すると宣言。そして、普及の見込みの薄い、欧州と日本にはハイブリッド推しというスタンスなのです。
世間の“これから一気に電気自動車の世界になる”という風潮に流されずに、堅実に独自の道を歩んでいる。それが『欧州と日本に電気自動車を投入する』と宣言しないトヨタの理由といえるのではないでしょうか。 【了】
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