クルマと地面が接しているのはタイヤしかない。そんな表現もありますが、クルマとドライバーが繋がっているのは実はシートが大きな部分を占めます。しかしなかなかシートを基準にクルマを選びにくいのも事実。そんななかクルマのユーティリティには人一倍厳しい、ジャーナリストの渡辺陽一郎さんに「運転に最高のシート」と「実用性の高いシート」のクルマを選んでもらいました。スポーティなクルマばかりではなく、実用性抜群のミニバンのシートにも迫りました。シートからクルマを選ぶ、ってどうですか?
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
一番の“庶民派”は走りも侮れない!! スズキ ベストターボ&NAエンジン
■「いいシートの定義」とはいったい!?
クルマを運転したり同乗している時は、必ずシートに座ってシートベルトを着用している。従ってドライバーや乗員にとって、シートはきわめて重要なパーツだ。特に運転席の座り心地は、安全性から快適性までさまざまな機能に影響を与える。正しい運転姿勢が取れないと、正確で安全な運転操作が行えない。
空間効率を重視したために前輪とペダルの間隔が近づいて、ペダル配置が前輪を避けるために左側へ寄ると、本来ならブレーキペダルがある位置にアクセルペダルが装着されてしまう。そうなるとペダルの踏み間違い事故を発生させやすい。また腰やヒップの近辺を中心とした体の支え方が悪いと、着座姿勢が安定せず、長時間の運転で疲労が生じる。これも運転ミスの原因になり、安全性を妨げる。
助手席や後席であれば、時々リクライニング角度を変えるなどリラックスできるが、運転席ではそれも難しい。そして運転姿勢を正確に調節できて、体をしっかりと支える運転席であれば、車両との一体感が得やすく走りを楽しめる。安全かつ快適に運転を満喫できるわけだ。
■費用対効果ではやっぱりWRX STIが最強!?
シートの良し悪しは車種によって異なるが、スバル車は全般的に優れている。サイドサポートとホールド性は、クルマの性格がスポーティか否かで変わるが、背中から腰、大腿部に掛ける形状と造り込みはスバル車なら全般的に良好だ。この中でも特に運転席が優れているのは「WRX」だろう。WRX・STIにはレカロ製がオプション設定されるが、WRX・STIとS4に標準装着された前席も快適で、長距離を移動する時でも疲れにくい。
WRX STIとS4のシートはスポーツ走行でもホールド性能を確保しつつ、日常使いでも充分な快適性を誇る
ホールド性も優れているから、スポーティに走っても着座姿勢が乱れにくく、運転の楽しさを盛り上げる。「レクサスLC」のシートも疲れにくい。クーペだからサイドサポートの張り出しが大きめで、カーブを曲がる時でも体をしっかりと支える。そのためにスポーツ走行にも対応できるが、体が過度に拘束される感覚はなく、乗降性も妨げない。
背もたれの下側が腰を絶妙に支えるから、長距離を移動する時も快適だ。肩まわりのサポート性も優れ、背中が包まれるような心地好さと安心感が伴う。レクサスLCは、海外市場ではメルセデスベンツやBMWを相手に販売合戦を展開する車種だから、シートも上質に造り込んだ。「日産スカイライン」の運転席も良好だ。
LC500はグローバルではライバルがドイツ車ということもありシートの作りもかなりこだわりがある
肩の周辺まで含めてシートのサイズに余裕を持たせ、座面はさほど柔軟ではないが、ボリューム感が伴って長距離移動時の快適性とスポーティな運転をした時のホールド性を両立させた。背もたれの腰の張り出し方を調節する電動ランバーサポートも装着され、体格に応じて快適な座り心地が得られる。上質感と走りの良さを併せ持つスカイラインらしいシートだ。
■使い勝手のいいシートはミニバン勢が最強だ
次は実用性の優れた使い勝手のいいシートについて考えたい。さまざまなアレンジが可能で、多人数で楽しく乗車したり、荷物を積む時に便利に使えるシートが好ましい。まずは「日産セレナ」が注目される。5ナンバーサイズを基本にしたミニバンの中では、3列目のシートを最も快適に仕上げた。1/2列目も頭上と足元の空間が広く、座り心地も快適だから、ミドルサイズのミニバンでは居住性が一番優れている。
セレナは「プロパイロット」搭載も話題だったが、シートの作り込みにも定評がある
シートアレンジも使いやすい。2列目の中央部分を1列目の間までスライドさせると、収納設備として使える。この状態では2列目の中央部分が通路になるから、2/3列目の間を移動しやすい。さらに2列目には横方向のスライド機能も備わり、中央の通路を埋めるように内側へ寄せると、スライドドアの間口を広く確保できる。いろいろな使い方が可能だ。
コンパクトな2列シート車では、「ポルテ&スペイド」の助手席に注目したい。前後に700mmのスライドが可能で、後方に寄せると足元空間を大幅に広げられる。足をゆったりと伸ばして座ることが可能だ。しかも左側のドアはスライド式で、開口幅が1020mmと広い。床面の地上高は300mmと低いから、高齢者が体を捩らずスムーズに乗り込んで助手席に着座できる。助手席の背もたれを前方に倒すとテーブルになり、軽い食事をする時などは便利に使える。
ポルテのシートは質実剛健で使い勝手抜群!!
また助手席の背もたれを倒した状態で前方にスライドさせ、後席の座面を持ち上げると、車内の中央がフラットで広い空間になる。スライドドアから車内の中央に荷物を積むことも可能だ。前述のようにスライドドアは開口幅がワイドで床が低いから、収納性も優れている。このようなポルテ&スペイドは、子育て世代のユーザーに最適だろう。助手席を畳むと、後席の足元空間が広がり、チャイルドシートに子供を座らせる作業がしやすい。前席がセパレートシートのFグレードであれば、後席から降車しないで運転席へ移動できる。
車中泊仕様ともいうべきフリード+。ホンダらしい柔軟な発想が生んだシート
「フリードプラス」のシートも便利だ。後席の座面を持ち上げて、背もたれを前側へ倒すとフラットで広い空間に変更できる。専用のボードを使うと、車内の中央から後部がフラットなスペースになるから車内の宿泊も可能だ。しかもフリードプラスは荷室の床が低いから、フラットな空間の下側が大容量のアンダーボックスになる。このように背の高い車種には、使い勝手の優れた便利なシートが多く見られる。
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