EVのデメリット解消 たった5分で満充電に
ノルウェーの電力供給会社でマネージャーを務めるフランク・スカルパスは、充電器の隣に設置されたハイテク洗車機のような構造物が、EVバッテリーを交換できるという情報をなんとか咀嚼して飲み込もうとしている。「たった5分でいいんですか?それこそ夢のようです。充電は間違いなく面倒ですからね」
【画像】新進気鋭の中国EVメーカー【ニオの最新モデルを写真で見る】 全69枚
ノルウェー南部のリエにあるこのバッテリー交換ステーションは、テスラとよく比較される中国のEVメーカー、ニオ(NIO)が欧州で初めて設置したものだ。仕組みは単純。この交換ステーションは、消耗したEVのバッテリーを5分程度で新しいものに交換する。
ニオはすでに中国で836か所の交換ステーションを運営しており、今年末までに全世界で1300か所に増やす計画だ。そのうち20か所はノルウェーに設置予定で、ドイツでも大規模なサービス開始に向け準備を進めている。いずれ英国にも導入される予定だ。
「独自のセールスポイントになる」
ニオの欧州事業マネージングディレクターであるホイ・チャンは、AUTOCARにこう語っている。
失敗の印象が強い交換方式 中国では普及進む
バッテリー交換というアイデアは新しいものではない。テスラは当初、スーパーチャージャー・ネットワークを導入する前にこの方式を提案していた。欧州では、イスラエルのベタープレイス社が2008年にルノーと契約を結び、フルエンスZEというバッテリー交換式の電動セダンを開発。デンマークとイスラエルに交換ステーションが建設されたが、普及することはなく2013年にベタープレイスは破産を申請した。
しかし、欧州では休眠状態だったバッテリー交換方式だが、中国では一気に拡大しつつある。ニオは現在、1日あたり3万回の交換が可能であるとし、市場をリードしているが、その差を縮めようとする企業も出てきている。この技術に投資しているのはバッテリー製造大手のCATLで、Evogoというサービスを立ち上げ、1分以内に交換できるとしている。
一方、オウルトン・ニュー・エナジー(奥動新能源)社は、長安や東風を含む20の自動車メーカーと協力し、交換可能バッテリーを搭載したEVを開発すると宣言している。また、ボルボやロータスの親会社であるジーリー(吉利汽車)は、昨年、全世界で5000か所の交換ステーションを展開する計画を発表した。
中国では、この技術はタクシーやトラックにも使われている。ブルームバーグNEFの調査によれば、中国で昨年販売された「新エネルギー」大型商用車1万513台のうち、31%にバッテリー交換技術が搭載されているとのことだ。
バッテリー交換が従来の燃料補給の容易さに最も近いというのは、世界の石油会社も同意見だ。昨年、英国の石油大手BPはオウルトン社とバッテリー交換サービスの開発に関する提携を結んだほか、ニオの交換ステーションの多くは中国の石油大手シノペック(中国石油化工)の敷地内に設置されている。また、ニオは12月にシェルと、欧州と中国に交換ステーションを共同建設する契約を締結した。
莫大な建設・維持コスト 現在は補助金頼り
もちろん、誰もが納得しているわけではない。3月に英国で開かれた自動車業界団体主催のイベントSMMT Electrified 2022で、キア英国事業部のCEOであるポール・フィルポットは、「バッテリー交換は構造を複雑にすると思います」と聴衆に語りかけた。新型キアEV6の10~80%の充電にかかる時間がすでに18分であることを引き合いに出し、「充電時間は短縮されるでしょう」と述べている。
充電器メーカーは当然ながら、バッテリー交換に否定的だ。BPパルスの渉外部長であるトム・キャロウは、最近、「バッテリー交換はスケーラブルではない」とツイートしている。
確かにコストはかかる。昨年発表されたスウェーデンの研究では、中国に交換ステーションを建設するのに、バッテリーや土地のリース代などを含めて77万2000ドル(約9475万円)、それに対して従来の充電ステーションは30万9112ドル(約3790万円)かかるとされている。
ニオの交換ステーションでは、現在13基のバッテリースロットを用意しているが、これを補充するためにバッテリーを追加生産する必要がある。オウルトンの第3世代ステーションは28基のスロットを用意しているため、さらに大きな投資が必要である。
中国では、彼らに救いの手が差し伸べられている。政府はEVに対する補助金を削減したが、ニオに対しては交換方式を普及させるために引き続き補助金を投入している。
中国に特化した自動車コンサルタント会社ZoZoGoの代表であるマイケル・ダンは、「地政学上の重要な理由」があると言う。「中国の指導者たちは、米国に直接対抗する新技術のグローバル・スタンダードを打ち立てるという野心を隠そうとはしない。そして、ニオとCATLの挑戦を補助金やインセンティブによって公然と支援し、高額の先行投資を相殺しようとしているのです」
また、中国政府は主に国営の自動車会社を説得し、技術提携させるのが得意だ。ニオの交換方式は、テスラのスーパーチャージャー・ネットワークよりも優れたセールスポイントを持っているが、おそらく収益を上げるためには、他の企業にプラットフォームを買ってもらう必要があるだろう。欧米企業が直ちに買い手となる可能性は低いだろうが、中国企業と提携関係にある自動車ブランドは決して少なくない。
ラクラク交換 ガソスタより便利な一面も
冒頭で紹介したフランク・スカルパスは、考えうる1つの顧客として、自身の愛するジャガーの名を挙げている。バッテリー交換だけでは、彼はニオを買おうとは思わないだろう。「コンセプトはいいと思います。ジャガーがこのシステムを採用すれば、間違いなく乗り換えるでしょう」と彼は言う。
バッテリーは誰のもの?
ニオのバッテリー交換システムは、どのように利用されるのだろうか。ノルウェーでは、利用者はバッテリーを月約2万8000円(容量100kWhの場合)でリースする必要がある。もちろん、ニオのEVに乗っていることが前提だ。
このバッテリーリースにより、車両価格が約120万円引き下げられ、月2回の交換が無料となる。近日発売予定の75kWhバッテリーはさらに安価に設定される。また、メルセデス・ベンツEQSのライバルである高級セダン「ET7」などの新型車に適合する150kWhも準備中であるという。休日の計画を立てる際には便利だろう。
交換ステーションの利用方法は?
ノルウェーでは、車載ナビでステーションまで移動し、近づくと自動的に利用申込みが行われる。マークされたエリアに駐車し、車載タッチスクリーン上のアイコンを押すと、クルマは自動的にバックを始める。さらにローラーでクルマを整列させ、マグネットで固定し、ジャッキアップする。
続いて、バッテリーを固定している10本のボルトを外し、別のジャッキで降ろす。事前に最大出力60kWで充電した新しいバッテリーをスロットから取り出し、クルマに装着。新しいファームウェアがダウンロードされていることを確認すれば、そのまま走り出すことができる。
現在、毎月2回の無料交換が可能で、その後1回あたりの料金は100クローナ(約1300円)となっている。
時間を計測すると、筆者が車載スクリーンの「GO」ボタンを押した瞬間から、全行程を5分57秒で終えた。クルマから離れる必要は一切なかったので、ガソリンスタンドより一枚上手だ。
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みんなのコメント
そりゃ目的は脱炭素じゃないもんね。