日本のモータースポーツ、特にスーパーGTやスーパー耐久では、チームオーナーやスポンサーなどといった立場でありながら自らステアリングを握りレースに出場するアマチュアドライバーのことを『ジェントルマンドライバー』と呼称する。そんな彼らの人生はプロドライバーのそれとは大きく異っており、十人十色。今回はWEC(世界耐久選手権)やスーパーGTを戦う木村武史に話を聞いた。
木村は収益不動産を取り扱う株式会社ルーフの代表取締役を務める傍ら、スーパーカーエンターテインメント『CARGUY』の代表として、様々なレース活動を行なっている。今季はPACIFIC CARGUY RacingとしてスーパーGTのGT300クラスに参戦し、WEC(世界耐久選手権)にもスイスのケッセル・レーシングとコラボレーションする形で参戦。さらには富士24時間レースにも出場し、それぞれで木村自らがステアリングを握っている。
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1970年生まれの木村は、幼少期から無類のスーパーカー好きではあったが、レーシングドライバーになりたいという思いは一切なかったという。大学卒業後に不動産業界に就職し、20年ほど前に株式会社ルーフを創業。経済的な安定を手にし、夢だったスーパーカーを所有して公道を走らせたり、サーキットでドリフト走行を楽しんでいた。
そのドリフトチームを木村が『CARGUY』と名付けたのが、CARGUY Racingの始まり。現在も現役としてスーパーGTで活躍する織戸学もドリフト仲間だったが、その織戸から走りのセンスを見出され「あなたはレースの世界に来るべき人です」と言われたことが、CARGUY Racingとして本格的なレース活動を始める転機となった。
2015年のランボルギーニ・スーパートロフェオを皮切りに、スーパー耐久や、ブランパンGTアジア、そしてスーパーGTと、活動の幅を広げていったCARGUY Racing。2019年には、AFコルセのサポートを受けてル・マン24時間レースへの出走も果たした。ル・マンはジェントルマンドライバーが到達できる世界最高峰の舞台と言ってもいいだろう。
「ル・マンは最高ですね。ユノディエールのストレートを走り、そしてミュルサンヌに突っ込んで森の中を走っていく……文字通り公道を時速300kmで走って、お巡りさんに怒られることもない訳ですから」と木村は笑う。
初挑戦のル・マンでクラス5位という快挙を成し遂げた木村は、翌2020年大会も出場するが完走ならず。そして2021年大会は土壇場でケッセルレーシングからオファーがあり、3年連続の出場を果たした。曰く、チームからは木村の速さや安定感が高く評価されており、それがオファーに繋がったという。
ただ、国内外のトップカテゴリーに参戦を続けているだけあって、本業との両立は体力的にも金銭的にも簡単なことではない。木村は次のように言う。
「レース費用はクルマ代を除いても(年間で)7億円くらい使っています。スポンサー費用で3億円くらい貰っていますが、あとは会社の稼ぎから出さないといけませんから。けっこう大変です」
「それでいて時間も取られます。朝から晩まで目一杯仕事をして、空いた時間でレースの練習をして、そしてレースに臨んで……他に何もする時間がないですね」
そんな多忙の中、自らを突き動かすものは何なのかと問うと、木村は「かっこいいからですかね」と一言。しかし、続けて出てきた言葉は意外なものだった。
「レースは楽しいと思ったことがありません」
「速く走れないし、疲れるし……仕事(本業)の方が楽しいです」
ではなぜ木村は「楽しくない」レースを続けるのか? それは、彼にとってレースが“一大ビジネス”となっているからだ。
趣味で始めたレース活動の規模が大きくなるに連れて、自らを支援してくれるスポンサーも増え、不動産業の業績に繋がる“良い縁”も増えた。本業とレース活動が相乗効果を生んでいるのだ。木村が自らを“遅いプロドライバー”と表現するように、その活動はもはやアマチュアの域を超えている。だからこそ、レースをただただ楽しむのではなく、さらなる高みへと挑戦を続けているのだ。
木村はこう語る。
「不動産の方がプロだし、キャリアも長くて慣れてるから楽しいんです。レースの方が大変だし、プロと走ると勝てないしで、楽しくないんですよ」
「でも、僕はたくさんの方に応援していただいていて、お金も貰っています。3億円もスポンサー料を貰ってるんですよ。もはや道楽ではありません」
「ル・マンに出て、スーパーGTにも出ている日本人って僕だけなんですよ。そうすることで注目も浴びますし、色んな挑戦をしている点を評価してくださる方がいます」
「面白いもので、レースをやっていることで良い縁があって、不動産の業績に繋がったりします。僕の場合はレースがビジネスになっているんです。だからこそトップカテゴリーに行かないといけないんです」
「皆さんはレースの方が趣味だと思われるかもしれませんが、僕の場合はどちらかというと本業の方が趣味で、レースは仕事という感覚でやっています」
「夢のために……とかそういうのじゃないです。僕はプロ意識の方が強いです」
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