後席主体のショーファーカーからドライバーズカー寄りに変更
バブル絶頂期の1989年にデビューした初代レクサスLSは、その驚異的な静粛性で世界を震撼(しんかん)させた国産車最高峰、レクサスのフラッグシップとして君臨したエグゼクティブサルーンだった。そして4代目の登場から11年目の2017年10月、「初代LSの衝撃を超えるクルマを」というレクサスのマスタードライバーでもある豊田章男社長号令のもとで開発され、「大胆すぎる」フルモデルチェンジを果たしたのがこの5代目LSだ。
【試乗】まるでスポーツモデルのような身のこなし! 新型レクサスLSは運転の楽しさ抜群
ここで紹介するのは、HVのLS500hとともにデビューした、レクサス初の3.5リッターV6ツインターボエンジン+10速AT、そして全車にエアーサスペンションを採用するLS500である。
まずは攻めに攻めているデザインに圧倒される。国会議事堂周辺の永田町にはLSが溢(あふ)れているが、お偉いさんがこの顔つき、車高の低さをどう感じるかは興味深いところ。 レクサスLCから採用されたGA-Lプラットフォームによる低く構えたシルエットはほとんどクーペ。
ホイールベースは先代の標準車とロングホイールベースの中間で、匠の技が光るインテリアの後席居住空間(主にニースペース)もまた先代の標準車とロングホイールベースの中間的スペースとなっている。 ちなみに身長172cmのテスターのドライビングポジションに合わせた背後で、頭上に12cmはともかく、膝まわり空間には25cmものスペースが確保されている。これは世界中のFRハイエンド低全高サルーンの中でトップクラスのゆとりと言っていい。
最大のハイライトはクルマ作りの方向性。先代の国内需要は法人70%。つまりほとんどがショーファーカーとして使われていたLS。しかし新型はレクサスLCに寄ったドライバーズカーを標榜。仮想ターゲットユーザー的にもLSの主要市場でもある北米の場合、先代までの東海岸のセレブから、西海岸のベンチャー企業の若き社長へと変更。ズバリ、LSの若返り、攻めの姿勢を目論(もくろ)んでいるという。
大柄ボディでも意のままに操れるF SPORTの走り
先代に対して全高を15mm、エンジンフードを30mm低め、またドライバーの着座位置を53mm後方車体中央寄りに後退させ、30mm低めたパッケージングもまさに走り最優先のドライバーズカーとしての攻めのパッケージングと言っていい。
となると、着座位置が低すぎてVIPの後席乗降に苦情が出そうだが、さにあらず。レクサス初の乗降モード付き電子制御エアサスの乗降モードによって約4秒で車高が30mm上がり、後席の着座位置が10mm低まっても乗降性は先代同等だというのだ。 走りに効く徹底した低重心化はV6ツインターボエンジンにも貫かれ、ターボをエンジン本体の両脇に抱えるレイアウトを採用。ちなみに主要市場である北米では今でも先代LSに用意されていたV8神話が根付いているが、今回は潔く無視。環境性能を重視してV6ツインターボエンジンの新採用に踏み切ったのだという。
結果、422馬力、600N・m(!)ものパワー、トルクを発生しつつ、後輪駆動(FR)で10.2km/Lという燃費性能を実現している(AWDは9.5~9.8km/L)。 LS500の後輪駆動は富士スピードウェイの「F」を冠した1200万円のF SPORTで試乗したが、まずはなるほど、LSならではの静粛性やショーファーカーとしての乗り心地というより、スポーティークーペを思わせる低く着座する運転姿勢、先代とは決別したかのような動的質感、ジェントルながらツインターボ、422馬力の強烈な加速力に圧倒されることになった。
ステアリングはまさに意のままの応答性を示し、エアーサスペンションはフラットかつ走行に合わせた制御で安定、いや、ファンな操縦性をスポーツサルーン的な快適性を伴って支えてくれる。10速ATの巧みな制御の良さもあり、まさしくスッと走りスッと加速し気持ち良く変速、スッと曲りスッと収まる、の妙味である。
ちょっと手の届きにくい位置にあると個人的には思えるドライブモードスイッチはエコ/ノーマル/スポーツ/スポーツ+が選択できるが、スポーツ+にロックオンすればスポーツ度はMAXに達して乗り心地が引き締まり、エンジン、10速AT制御が一段とスポーティーに変化。エンジンを高回転まで回せば、迫力と心地良さの絶妙なバランスある快音をとどろかす。パワーステアリングもシャープさを増し、それこそ“曲がりすぎるほど曲がる”ようになる。
逆に外側にふくらむような挙動はF SPORT用に特別に制御されたVDIM+LDH(アクティブステアリング総合制御+アクティブスタビライザー)が断じて許そうとはしないのだが、「おーっ、切りすぎた」とステアリングを戻す場面があるにはあった。スポーツ+はクルマと格闘するような硬派な操縦性に変貌する玄人向け!? のモードと言えるかもしれない。
20インチタイヤを履いていても乗り心地は洗練されたものだが、LSでそうした運転をするユーザーがいるのか? という疑問はないでもない。とにかくドライバーズカー一直線なのが新型LS、とくにもっともスポーティーなグレード=F SPORTと言ってよさそうだ。先代までの価値観でLSらしく乗るならドライブモードはノーマルがベターだろう(あるいは19インチタイヤを履く標準グレードを選択する)。
だからLS本来の静かさや乗り心地の良さが体に染み込むような印象は、初代ほどではなかったのも事実。走行性能の目指す方向性が(LC寄りというだけあって)けっこう違うのである。
ドライバーのために運転席のマッサージ機能を初採用
もう1台のLS500 エクスクルーシブのAWDは、残念ながら納得のいくものではなかった。静粛性など多くの部分で最新のLSらしさはあるものの、19インチタイヤを履く乗り心地はとにかく良路でも常にフロア、ステアリング、シートにブルブルした振動が伝わってくるものだからだ。後席にVIP気分で乗っていてもしかりで、ドライバーを満足させ、VIPをおもてなしするには早急な改善が必要だと思えた。
最後にLS500hにも試乗したが、静粛性、乗り心地、動力性能のバランスはなかなか。もちろんLS500より高価だが、時代の先端を走るレクサス、LS、あるいはショーファーカーとしてはこちらが適切だろう。
そうそう、新型LSがドライバーズカーに振ったコンセプトの一端を表す装備が、エクスクルーシブグレードにレクサス初装備となるフロントリフレッシュシート(つまりマッサージ機能)。眠気を誘わないように後席用よりマッサージ機能に配慮しているというが、指圧師がマッサージしてくれるような、親指サイズの2×3cmの空気袋を座面に10カ所、背もたれに10カ所備え、運転中でもリフレッシュが可能。 運転中に実際に体験してみたが、なかなかのリフレッシュ効果が得られた。
ボルボで前席マッサージ機能が長距離、長時間の運転の疲労感を激減させてくれることを経験済みだが、後席だけでなく、ドライバーのためにもリフレッシュ(もてなし)機能を初採用した事実は、新型LSの、ドライバー最優先のクルマ造りの思想をしっかりと反映させたものにほかならないと思えた。そもそも自らステアリングを握るLSドライバーにとって、一番リフレッシュさせてほしいのは、自身なのだから。
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