2025年のル・マン24時間レースでは、7号車の5位が最高位と苦戦を強いられたTOYOTA GAZOO Racing(トヨタ)。彼らは、トヨタ勢がパフォーマンス面でライバルに差をつけられていたことを認めている。TGRヨーロッパの中嶋一貴副会長も決勝後オンライン会見の中で、今回のレースは「完敗」であったと率直に表現した。
トヨタ勢は24時間の長丁場の中で、7号車の複数回にわたるペナルティ、8号車のタイヤトラブルなど、大きくポジションを落とすことになるミステイクがあったのは確かだが、チーム代表兼7号車のドライバーも務めた小林可夢偉は、例えそれらがなくとも優勝はおろか表彰台を目指すのも厳しかっただろうと考えている。
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これはひとえにレースを通してペース不足に悩まされたから。8号車のドライバー平川亮も、自分自身は「乗れている」感覚がありながらも、レースがスタートした直後からペース面で厳しい状況にあることを察したという。中嶋副会長も、そういった状況がチーム全体に無理を強いる形となってしまい、前述のペナルティやトラブルの遠因になってしまったのではないかと分析している。
ではそのペース不足は主にどこから来るものだったのだろうか?
■フェラーリは何かを“見つけて”いる?
レース後にTGRの公式SNSに投稿された動画の中で、「ル・マン24時間で勝つために、他のメーカーがどんなことをやっているかを改めて感じた。来年に向けては考え方も変えていきたい」とコメントしていた小林。会見で「自分たちに足りないものは分かっているのか」と尋ねられた小林は、こう答えた。
「TVを見てもお分かりいただけるかと思いますが、まっすぐ(ストレート)の速度は完全に足りていないですね」
「それが何(が原因)かというのは分かっていないです。ただ50号車(フェラーリ)は失格になったので、少なくとも1台の説明は多少なりともついたのかな……と思いますが、とはいえそういうシンプルなものでもないと思うので、もっとしっかり見ていく必要があります。現状では、明確になっているというレベルではありません」
今年のル・マンを席巻したフェラーリ勢の一角、50号車の失格(4番手でフィニッシュ)が、トヨタ勢がストレートスピードで劣っていたことの“説明”になった可能性を示唆した小林。これは50号車の失格理由が、規則での許容量を超えるリヤウイングの過剰な変位によるものだったから。つまり、ウイングの変形によって空気抵抗を減らし、ストレートスピードを向上させた可能性があるのだ(フェラーリ側は、ボルトの欠落が原因だとした上で性能向上はなかったと主張しているが)。
小林は、あくまで憶測の域を出ないものの、フェラーリに疑いの目を持ってしまうと語った。
「残念ながらフェラーリは50号車1台が失格となっており、それは完全に空力に関する部分での失格なので、何か“そういうこと”をやろうとしているんじゃないかと、僕としては感じてしまいます」
「あくまでこれは憶測なので、言い切ることはできませんけどね。ただ、結果からはそういう風に見えてしまう部分があります。彼らのレースに対するメンタリティというか……改めて“フェラーリ”というメンタリティを感じました」
中嶋副会長も、小林がフェラーリの失格について言及する前に、性能調整(BoP)の数値を基にしたシミュレーションでは説明がつかないようなストレートスピードの差がライバルに対してあったとコメント。そのため、ライバルが何を“見つけて”いるのか精査する必要があるとした。
「BoPの数字を基に、色々な計算をすることができます。それによって、周りのパフォーマンスと自分たちの立ち位置はこれくらいだろう、というシミュレーションをしてル・マンに臨みます」
「ですけれども、テストでの段階からそのシミュレーションでは説明つかないような直線スピードの差が見られました。自分たちに見つけきれていない何かがあるのは間違いないと思います。それが白なのか黒なのかグレーなのか……そもそも、そこも含めて理解しないといけないと思います」
■重いマシンがタイヤマネジメントの大敵に
また、トヨタはBoPによって最低重量がハイパーカークラスで最も重く設定されているが、この重いマシンは現在のWEC(世界耐久選手権)の規則も相まって、タイヤマネジメントを非常に難しくしていると小林は語る。
重くなった車重の影響について尋ねられた小林は「めちゃくちゃあります」として、こう説明した。
「重量はどちらかというとタイヤに影響があります」
「しかもLMP1時代であればタイヤウォーマーが使えたので、当時はタイヤが冷えている時のことを考える必要がなく、その分パフォーマンスの高いタイヤが供給されていました。でもタイヤウォーマーが禁止になったことでウォームアップの早いタイヤにしなければいけなくなり、タイヤ自体の性能はかなり落ちたんです。そうなった時に車重の重さがめちゃくちゃ効いてくるんだなというのはすごく感じましたね」
「(車重の重さは)高速コーナーだけではなくて、ブレーキ、トラクション含め全域で影響します。重ければ熱(温度)が上がりやすいということなので、トラクションもブレーキングも全て性能が落ちてしまいます」
■新車両投入の可能性は?
近年稀に見るレベルで苦戦を強いられたトヨタ。当然、ここ数年でフェラーリ、ポルシェ、キャデラックをはじめ競争力のあるライバルが次々と参入してきたことも関係しているだろうが、トヨタのGR010はそれらのライバルメーカーよりも前、ハイパーカー初年度の2021年から採用されている最古参のマシンであり、パフォーマンスの限界を迎えている可能性も否定はできない。
中嶋副会長に、次期車両の投入などは選択肢に入っているのかと尋ねると、WEC(世界耐久選手権)の現行規則下では完全な新車を投入するのはかなり難しいため、GR010に改良を加える形で以前から検討が進められているという。ただ、現在のハイパーカークラスでは車両の開発が無尽蔵に行なえるわけではなく、”エボ・ジョーカー”と呼ばれる回数制限のある開発トークンを使用する必要がある。
「今はホモロゲーションによって、クルマに関して変更できることがある程度決まっているので、現状のルールだと完全な新車を導入するということは非常に難しいと思います」と中嶋副会長。
「新車というよりは、今のクルマをベースにどういった改良を加えられるかということを具体的に考えています。そのタイミングであったり、何をするのかについては、エンジニアリングチームが常に検討しているので、僕らも何もしていないというわけではありません」
「ただ、色々な事情で正しいタイミングを見極めなければいけないというのも事実です。色々と準備していることはありますが、今回の結果を受けて自分たちの目標値、レベルをさらに上げなければいけないという面もあると思うので、もっともっと力を入れていく必要があると感じています」
ル・マンで勝てる“良いクルマ”を作るために求められるものはどんなものなのか? 共にル・マンウイナーの経験を持つ中嶋副会長、小林の見解は概ね一致しているように感じられた。キーワードは“余裕”か。
「ドライバーがもっと運転しやすいクルマ、メカニックもある程度余裕を持って作業できるようなクルマ、ですかね」と言うのは中嶋副会長。小林はこう語る。
「24時間レースで勝つには、24時間フルプッシュしないと勝てないクルマではダメで、24時間どんなコンディションでも安心して自信を持って走れるクルマが強いのだと思います」
「そう考えると、今の状況ではそのキャパが限界に来ているような印象です。ドライバーが常にプッシュし続けるチャレンジングな24時間レースになっていて、その結果、戦略なども『1秒のロスもしたくない』という(攻めた)ものになってしまいます。そういった余裕を全く持てないレース展開が今まさに問題点になっていると思います」
「ル・マンは自信を持って走れるかどうかがタイム差に大きく関係してきます。自分たちがすごく速いわけではなくとも、ブレーキをしっかり踏めてバトルができるだとか、自信を持って走れて普通に戦えるクルマでないと、レースはキツくなってしまいます」
「それにここ最近のWECは、タイヤをいかにマネジメントするかが結構キーになっています。どうしたらもっとタイヤに優しいクルマを作れるのかも含め、各セクションで本当に必要としているものに、優先順位をしっかりつけていかないといけないと思います」
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