公共交通機関に長時間、乗るのがためらわれる昨今、オープンほど、3密を避けられる移動手段はない。中古車はひとケタ万円から5000万円弱まで百花繚乱状態。そんな中古オープンカーを直して乗りながら完調に近づけていく、という楽しみ方は如何だろうか。
オープンカーの中古車は百花繚乱状態
ランボルギーニのトラクターに乗る!──連載「西川淳のやってみたいクルマ趣味、究極のチャレンジ 第3回」
先週までは新車で買えるオープンカーに着目してみたが、国内の有名中古車物件サイトを検索してみるだけで、オープンカーはざっと7000~8000台は優にある。車検付きのひとケタ万円から、ランボルギーニ アヴェンタドールLP700-4ロードスターの5000万円弱まで、おそろしくワイドに百花繚乱状態でオープンカーが並んでいる。日本の中古車市場の深みと凄みだ。
車両価格8万円、乗りだし28万円也という、栄えあるエントリー最安値は意外にも軽自動車でなく、プジョー 206CCだった。他にもプジョーは、306カブリオレや307CC、2010年型前後と比較的新しい308CCになっても100万円アンダーがゴロゴロしているなど、じつはポップな4座オープンカーの名門にして良心的存在でもある。それだけに現行の新車ラインナップにオープンモデルが存在しないのは残念だが、屋根を下ろした瞬間からバカンス感全開のカジュアルな佇まいは、どんな装いで乗り込んでも絶妙のドレスダウン効果がある。旧い年式のモデルほど開放感も強いし、太陽を目いっぱい浴びるための設計思想すら窺えるが、それは今でもパノラミックサンルーフに脈々と受け継がれている。
100万円アンダーで、他にも香ばしい中古の輸入オープンカーとしては、ゴルフカブリオレ、メルセデス・ベンツの初代SLK、同じく初代のBMW Z3辺りが挙げられる。ゴルフ カブリオレはBピラーがオープン時にも残るので乗員の安心感も強く、新車当時からカジュアルなオープンカー入門モデルだった。SLKはバリオルーフ初採用モデルとしてもスモール・メルセデスとしても今や貴重だし、Z3はFRスポーツカーとしてマツダの歴代ロードスター同様、欠かせない古典でもある。
価格帯は少し上がるが、まだそれなりに探しやすい程度に台数が残っていて、色々と個体差を比較できるという意味では、1990年前後のアルファロメオ スパイダーのシリーズ4もお勧めできる。リアデッキから尻すぼみに描かれた優美なプロポーションは唯一無二のものだし、リアエンドがスパッと切れるコーダ・トロンカは、イタリア車のデザインの代表例だ。それに基本設計が何せ60年代のスパイダー デュエットに遡る分、構造や機関系は今や単純明快の部類に属すので、旧車慣れしたメカニックを見つけさえすれば、メンテ修理は難しくない1台といえる。
直して乗りながら完調に近づけていく
先のプジョーやアルファロメオ、フィアット辺りをまとめて、「ラテン系は壊れるに決まっている」と、さも知ったか顔で苦笑する人もいるだろうが、どんな車でもマウントブッシュのようなゴム部品やシリコンの部品をはじめ、シール系や摩擦系の柔らかいメタルパーツ、電装系は、みな消耗品だ。いくら走行距離が少なくても、国産車やドイツ車であっても、それは同じで、90年代か2000年代前半の年式なら、もはや初年度登録から20年前後が経過したヤングタイマー相当なのだ。
つまり消耗パーツの寿命は来ていて当たり前、そんなヨボヨボの状態で手荒に操って走らせれば、プラスチックが割れるといったマイナートラブルから立ち往生するほどのビッグトラブルまで、見舞われても何ら不思議はない。逆に、オルタネーターのような電気系の突然死でもない限り、走らせながら何かしらの兆候をクルマの方から発してくる。ヘンな言い方だが、そういう「ブラックボックス感」が無い最後の世代が、この辺りのヤングタイマーなのだ。
そもそも本調子でなければ、走らせても本来の味わいが引き出せない中古オープンカーは、安いからと駄菓子のように飛びつくより、直して乗りながら完調に近づけていく、そんな「準レストア」過程を楽しむための格好のベース車両といえる。要は鈑金塗装といったボディワークに手を出さずとも蘇らせられる、本格より手軽なレストアとして遊ぶという発想だ。幸い70年代以前のクルマと違ってボディの防錆処理は上がっているし、塗装のクオリティも今の新車より優れていることすらある。ちなみに輸入車は認定中古車までの旬の時期を過ぎたら、ディーラーに持ち込んでも高い修理代を見積もられがちだが、いっそ旧いモデルになってしまえば世界各地から通販が利く分、パーツ供給は国産車よりよほど安定していたりする。当然、ディーラーで取り寄せるより安い。
それにドイツ車でもラテン系のメーカーでも、年式と車種ごとにパーツ品番を参照できるオンラインのサイトは用意されている。そうしたサイトへのアクセスをディーラーや修理工場に限っているメーカーもあるが、有力な修理業者が逆に公開していたりもする。欧文のメーカー名と車種名、OEMとかgenuineとかreferenceといったキーワードで検索すれば、すぐ出てくるはずだ。なお英国の修理業者には、英語ゆえのアクセスの多さとサーバー負担の大きさに耐えかね、海外IPのアクセス自体を拒否しているサイトも多い。またブラウザーの翻訳機能は日本語に直すと意味不明なことが多いが、ドイツ語でもフランス語でもイタリア語でも、英語にひっくり返せば読める程度にはなる。
いずれ自分が必要とするパーツが、検索した品番と同一か適合するかといった確認は、複数の異なるサイトや販売者でダブルチェックする必要がある。ゆえに通常のウェブ・リテラシーさえあれば、輸入車だからといって壊れやすいとか、修理メンテが必要以上に高額になるといったおそれは、じつは杞憂なのだ。むしろ必要なパーツを持ち込めれば、パーツ自体の品質は保証しないとはいえ、技術料だけでやってくれる街場の修理ガレージやメカニックは少なくない。できる人はDIYでもいい。
これからの夏の暑い季節に、水温・油温その他も心配もなさそうに気持ちよく走っている、そんなちょっと旧い、趣のあるオープンカーを見かけたら、それは能天気なのではなく、じつはキチンと手をかけて直している、戦略と嗜みのあるオーナーかもしれない。白鳥が優雅なのは水の下で一生懸命に足を動かしているから、と、そんな喩えは当たらずとも遠からずなのだ。
文・南陽一浩 編集・iconic
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