一途に愛を求める中年男性(ダニエル・クレイグ)と、塩対応な若者(ドリュー・スターキー)の美しく痛々しい関係を描いた映画『クィア/QUEER』。監督はルカ・グァダニーノ、衣装はジョナサン・アンダーソンという、今をときめく俳優とスタッフが集結した。主演のダニエル・クレイグの言葉から、クィアについてそして愛とは何かを考える。
「言葉なしで、君に触れたい」──究極の愛を求める男の話
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誰かを強く求めること──それが報われるとは限らないし、時に破壊的ですらある。ルカ・グァダニーノ監督の最新作『クィア/QUEER』は、そんな不器用で痛切な愛のかたちを描いた作品だ。原作はウィリアム・S・バロウズによる同名小説。1950年代、抑圧と孤独を抱えた中年のアメリカ人リーが、異国メキシコの地で若くミステリアスな青年アラートンに出会い、言葉にならない欲望と感情の奔流に呑み込まれていく。
監督のルカ・グァダニーノは、『君の名前で僕を呼んで』、『サスペリア』、『チャレンジャーズ』などで知られ、感情の陰影を繊細に描き出す映像美と、肉体と欲望を主題にした挑戦的な作風で注目を集めてきた。『クィア/QUEER』』は彼が長年映画化を熱望していた企画であり、その集大成ともいえるパーソナルな作品となっている。
主人公リーを演じるのは、これまで数々のアクション映画やシリアスドラマ作品で存在感を示してきたダニエル・クレイグ。彼が演じるのは、セクシュアリティや自意識の輪郭があいまいな男の揺らぎそのものであり、キャリアの中でも異色かつ挑戦的なパフォーマンスといえるだろう。リーが恋に落ちるユージーン・アラートンを演じるのは、注目の若手俳優ドリュー・スターキー。撮影はローマの歴史的スタジオ、チネチッタで行われ、衣装はグァダニーノと親交のあるジョナサン・アンダーソンが手がけた。
レッテルやカテゴライズに抗う“クィア”という言葉が、今の時代にどう響くのか。本作に込められた複雑な感情のレイヤーを紐解くべく主演のダニエル・クレイグに話を聞いた。
バロウズとの絆
──今回のプロジェクトに関わる前に、バロウズについてどのような印象をお持ちでしたか?
若い頃に彼の著書「ジャンキー」を読んだことがありましたし、ポップカルチャーと深く関わっていたことも知っていました。彼はニューヨークのバワリーにある昔のYMCAにアパートを持っていて、実は僕はそこに行ったことがあるんです。ユニークな“サロン”のようなものを開いていて、そこにはCBGBに集っていたミック・ジャガー、パティ・スミス、ルー・リードといった現代音楽のアイコンたちが集まっていたんです。ですが、彼の作家としての活動や創作の過程についてはあまり知りませんでした。この作品を通してバロウズの世界に入り込み、今ではすっかりファンです。
今、最もスタイリッシュなヤングハリウッドたち──パトリック・シュワルツェネッガー、ドリュー・スターキーなどの魅力に迫る『ホワイト・ロータス』で人気爆発中のパトリック・シュワルツェネッガーと、5月公開の注目作『クィア/QUEER』に出演するドリュー・スターキー。『ベイビーガール』でニコール・キッドマンを見事に調教したハリス・ディキンソン、『ANORA アノーラ』で一躍トップスターとなったマーク・エイデルシュテイン。今注目の若手俳優4人のファッションスタイルとフォルモグラフィーを紹介する。──今回の経験を通じてバロウズへの印象が変わったのでしょうか?
ええ、変わりました。より深く彼のことを知ることで、背景や考え方がよく理解できました。彼は非常に複雑で、けれども唯一無二の人間だったと思います。彼の発言が常に正しかったわけではないですが、想像力や時代を先取りする目を持っていたと思います。
──ルカ・グァダニーノ監督はこの小説の映画化を長年夢見てきたそうですが、監督はどのようにしてその情熱をあなたに伝えたのですか?
僕はルカと長年の知り合いでした。僕の友人たちも彼と仕事をしていて、皆口を揃えて「素晴らしい監督だ」と言っていました。だから僕も彼と仕事がしたかったんです。彼は僕がこの作品をやらないだろうと思っていたようですが、それでも声をかけてくれた。イギリスの表現で「手を差し出されたらかみつく」というのがありますが(笑)、まさにそれでした。脚本を読む前から「やる!」と即答しました。もちろん脚本も素晴らしかったし、彼の情熱がこもった作品であることが分かっていたので、これはぜひ参加したいと思いました。
──伝説的なローマのチネチッタでの撮影はどうでしたか?
まず、ローマは僕の大好きな街のひとつです。何度も撮影で訪れていますが、今回は初めてイタリア人クルーと一緒でした。以前の撮影は『007』で、その時は主にイギリス人のスタッフだったので。今回はルカという素晴らしいイタリア人監督と、イタリアのクルーに囲まれて、歴史あるステージやセットで撮影ができて、映画業界にはまだ“魔法”が残っていると感じられる、そんな場所なんです。チネチッタには魔法があります。カリフォルニアのヒッチコックが撮影したステージにも魔法があります。実際にそこに立って感じる、本当に特別なんです。
クィアという言葉
──映画の中で何度も繰り返される「I'm not queer(僕はクィアじゃない)」という言葉についてですが、これはバロウズ本人もよく言っていたそうです。彼がなぜこの言葉を使ったのか、また映画の中でこの言葉がどう機能していると感じますか?
あくまで僕個人の意見ですが、彼はレッテルを貼られるのを嫌っていたのだと思います。何かを代表する立場にはなりたくなかった。自分の“クィア性”について問われると、「それは僕の問題じゃない」と距離を置いていた。「だから僕はクィアじゃない」と言っていたんじゃないでしょうか。この言葉には、単なるセクシュアリティを超えた意味があると思います。世界の中で自分がどこにいて、どう生きるかという「認識」の問題。イタリア語で言えば「ディヴェルソ(diverso)」、つまり「異なる」「離れている」という感覚。それは50年代当時の法的・社会的背景によるものでもあり、同時に「異なる自分でいたい」という意志でもある。とても複雑で、でも同時に美しい表現です。「僕はクィアじゃない、僕はこの地上の存在じゃない」という表現は、人間の複雑さや存在のあり方について、多くを語っていると思います。
──この物語を今、世界と共有することに、どのような意義を感じていますか?
俳優としては、作品が世界にどう影響するかということを考えて役を選ぶことはあまりありません。それは僕の責任ではないし、制御できることでもない。でも、その役が自分の感情に響くかどうか、それが選ぶ理由になります。そして、他の誰かにも響くことを願っています。芸術とはそういうものでしょう? 迎合するためのアートもあれば、挑戦するためのアートもある。今回の映画は、どちらの要素もあると思っています。観客に喜んでもらえる一方で、挑戦的でもある。そうであればいいなと思います。
ジョナサン・アンダーソンによる衣装
──本作はジョナサン・アンダーソンが衣装のスタイリングを担当したことも話題です。どれも素敵な着こなしでしたが、衣装についての印象も教えてください。
ジョナサン・アンダーソンという素晴らしいデザイナーと仕事ができたこと、それ自体が喜びでした。リーのスタイリングはスーツをベースとしたオーセンティックなもので、着るだけでキャラクターが際立ったと思います。自分の中ではすでにキャラクターが固まっていましたが、スーツを着た瞬間にリーになりきることができたんです。つまり、後は歩くだけでよかった。とても自然に役に入ることができました。
──この映画は、まったく異なるバックグラウンドを持つふたりの男性のラブストーリーでもあります。具体的に、彼らのどんな愛情に最も心を動かされましたか?
リーという人物は映画の冒頭では“つながり”を求めていて、強い欲望、つまりセックスへの渇望を抱えていますが、実際にはもっと深い部分での「つながり」を求めている。彼はドラッグ中毒者で、自分自身を破壊しようとしているように見えますが、愛についても同じように感じている。愛は美しくて感動的で、素晴らしいけれど、同時に苦しくて痛みを伴うもの。それらすべてを欲しているんです。ドラッグと同じようにね。
彼はアラートンに自分らしくいるべきだと説き、アラートンもそれを望んでいる。でも、アラートンはリーのようにはできない。表面的にはアラートンがリーを突き放しているように見えるが、実際はやりたくてやっているのではなく、彼なりに最善を尽くした結果なんだと思います。これはとても現実的な描写だと思いました。人との関係がうまくいかないことは、誰もが一度は経験したことがあると思いますが、心が壊れない範囲であればこういった矛盾した行動や人間関係も良いのだと思います。
『クィア/QUEER』5月9日(金) 新宿ピカデリー 他 全国ロードショー
配給:ギャガ
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
文・立田敦子
編集・遠藤加奈(GQ)
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