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新型ステップワゴン登場で考える今のホンダが失ったもの~「偉大なる初代ステップワゴンという存在」

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新型ステップワゴン登場で考える今のホンダが失ったもの~「偉大なる初代ステップワゴンという存在」

 昨年12月10日、6代目ステップワゴンが今年(2022年)の春に発売されるとのティザーサイトが公開された。スクエアなフォルムは初代への原点回帰か? と思わせるもの。ホンダとしても是が非でも売りたいため、最大のライバルとなるトヨタノア/ヴォクシーの発売に合わせて発表してきたとも言える。

 しかし、よくよく考えてみるとそもそもFFの低床ミニバンを世に送り出したのはホンダである。またその最大の成功作がステップワゴンであったはずだ。それが今となってはすっかり追う立場の存在となってしまった。

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 代を重ねる度に追われる立場から追う立場へとなってしまったステップワゴンが歩んできた道を振り返り、その転換点が何だったのか? 考えてみたいと思う。

文/渡辺陽一郎、写真/HONDA、ベストカー編集部

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■先代モデルは今までにない挑戦に挑んだ意欲作だったが、売れゆきは低迷

 ミニバンの需要は今でも根強い。新車として売られる小型/普通乗用車の約25%を占める。少子高齢化と言われながら、ミニバンの需要は下がらない。販売店に尋ねると、「子育てを終えたお客様が、ほかのカテゴリーに乗り替えず、ミニバンを購入することも多い。一度便利なミニバンに慣れると、なかなか離れられない」という。

 その主力車種がステップワゴンだ。先代モデルはヴォクシーやセレナと同様、ボディはミドルサイズで、全高は1800mmを上回る。低床設計で乗降性が優れ、室内高にも充分な余裕を持たせた。

 車内は広く、3列目のシートは床下に格納するから、左右跳ね上げ式と違って荷室に格納された3列目が張り出さない。スッキリと広い空間になり、自転車なども積みやすい。

先代5代目ステップワゴン。ライバルよりも丸みを帯びたスタイルは押し出しの強さを争っていたミニバン界に一石を投じる意欲作だった。エンジンは日本初搭載の1.5Lダウンサイジングターボだった

 わくわくゲートにも特徴があった。リアゲートには横開き式のサブドアが内蔵され、狭い場所でも開閉できる。サブドアは縦長だから、3列目シートの左側を床下に格納しておけば、ボディの後部から乗員が乗り降りできる。ハイブリッドのe:HEVも選択できる。

5代目ステップワゴンがミニバン界に新風を巻き起こすべく投入されたわくわくゲート。巨大なバックドアを持ち上げることなく、荷物の出し入れが可能なミラクルな装備だったが……

 このようにステップワゴンには優れた特徴があるのに、売れゆきは低迷した。2021年1~10月に、ヴォクシーは1カ月平均で約5740台、セレナは5270台を登録したが、先代ステップワゴンは3300台だ。

■ホンダの売れ筋モデルがダウンサイジング化した影響をもろに受けてしまったか?

 ホンダの場合、N-BOXが2021年1~10月の1カ月平均で約1万6000台を届け出しており、N-WGNなども含めると、国内で売られるホンダ車の50%以上が軽自動車になる。

 さらにコンパクトミニバンのフリードも1カ月平均で約5900台が登録され、今ではホンダのブランドイメージがダウンサイジングした。そのためにステップワゴンの売れゆきが影響を受けたり、需要を奪われたりしている面もある。

こちらが東京オートサロンでお披露目された新型の6代目「ステップワゴン」だ。発売は4月以降の予定だが、ひと足先に発売されたノア/ヴォクに対抗すべくお披露目された形だ

 そのステップワゴンがフルモデルチェンジを受けた。新型について昨年、販売店に尋ねたら、以下のように返答された。「次期ステップワゴンのティザーキャンペーンは、2021年12月から2022年1月に開始する可能性もあるが、納車を伴う発売は2022年の4月から7月頃になりそうだ。ただし、コロナ禍の影響で、依然として半導体などのパーツが不足しており、先送りされるかもしれない」。

■FFミニバンの先駆けだった初代。フラットフロアで圧倒的な室内の広さを実現!!

 先代ステップワゴンの売れゆきはいまひとつ冴えなかったが、1996年に発売された初代モデルのインパクトは大きかった。その理由は全高が1800mmを超えるフラットフロア構造のハイルーフミニバンでは、最初の前輪駆動車であったからだ。

FF車初のハイルーフミニバンとして誕生した初代「ステップワゴン」。新しい生活様式を提案するホンダ「クリエイティブムーバー」の1車種として登場、その広大なスペースを武器に大ヒットした

 一方、セレナの初代モデルは1991年に発売されたが、エンジンは前席の下に搭載されて後輪を駆動した。前輪駆動を採用したのは1999年に登場した2代目からだ。

 タウンエースノア/ライトエースノアも同様で、1996年に初代が発売された時は、エンジンをボンネットの内部に収める後輪駆動であった。前輪駆動に切り替わるのは、2001年のフルモデルチェンジでノア/ヴォクシーになってからだ。

 その点でステップワゴンは、初代モデルからライバル車に先駆けて前輪駆動を採用したから、さまざまな機能が先進的であった。

2列目と3列目をフルフラットにした状態。さらに前席からはウォークスルー可能と、FF車ベースならではの広さと利便性を最大限に活かしたクルマが初代ステップワゴンだった。

 まず、後輪駆動のライバル車に比べると、前輪駆動の初代ステップワゴンは床が大幅に低い。ミニバンは床を平らに仕上げる必要があり、駆動システムをカバーできる位置まで床を持ち上げる。

 そうなるとエンジンを縦置きにする後輪駆動車では、床が極端に高まってしまう。ハイエースやキャラバンの床が高いのも、後輪駆動で床を平らに仕上げているからだ。

 その点で初代ステップワゴンは、前輪駆動で床が低いから乗り降りしやすく、全高のわりに室内高にも余裕があった。全高は1830mmだが、室内高は1335mmを確保していた。

 ライバル車のタウンエースノア/ライトエースノアは、全高は1855mmで初代ステップワゴンよりも少し高かったが、後輪駆動とあって床が持ち上がり、室内高は1260mmに留まる。前輪駆動の初代ステップワゴンは空間効率が優れ、車内も広々としていた。

■今日まで続くミニバンの基礎を25年前に確立した初代の偉大さに改めて気づく

 そして初代ステップワゴンは、床が低いから重心も下がり、走行安定性と乗り心地も優れていた。報道試乗会では開発者が「ミニバンを前輪駆動で開発することによる欠点はひとつもない。ミニバンにとって前輪駆動はベストな駆動方式だ」と語ったのを思い出す。

 初代ステップワゴンはホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2800mmを確保しており、タウンエースノア/ライトエースノアに比べると85mm、セレナと比べても65mm長かった。ホイールベースの長さも、走行安定性と乗り心地の向上に役立っていた。

 このように初代ステップワゴンは、前輪駆動方式と長いホイールベースなど、今日のミニバンの要件を25年前の時点で備えていた。シートアレンジも多彩で、3列目は左右に跳ね上げて格納できる。

 2列目シートがポップアップシート仕様であれば、前方に向けてコンパクトに畳めた。2名乗車時には、2/3列目の両方を格納できるから、車内の中央から後部が大容量の荷室になった。

室内の広さを最大限に確保するため、室内の出っ張りも極限まで削られた。コラムシフトや足踏み式サイドブレーキを採用し、多彩なシートアレンジが可能な室内空間確保にひと役買った

2列目/3列目を回転対座にしたシートレイアウト。フラットフロアの恩恵で、無理なく座ることができた。ステップワゴンのおかげでレジャーの幅が拡がったユーザーも多かったはずだ

 また、2列目シートを後ろ向きに回転させ、対座レイアウトにできる仕様も用意されていた。回転対座シート、ポップアップシートともに、2/3列目をリクライニングして連結させると、車内をフラットなベッドのようにレイアウトできた。

 収納設備も充実しており、助手席の前側にはアシストトレイ付きのボックスと、グローブボックスが上下に並ぶ。コインポケットやカップホルダーなども備わっていた。

 以上のように初代ステップワゴンは、メカニズム、車内の広さ、乗降性、シートアレンジ、収納設備まで、さまざまな機能が先進的で今のミニバンに近かった。

 そして初代ステップワゴンは、初代オデッセイ(発売は1994年)、初代CR-V(同1995年)、S-MX(同1996年)と併せて、空間効率の優れた「クリエイティブ・ムーバー:生活創造車」という車種ラインナップを構成している。多くのファミリーユーザーから愛用された。

■初代のシンプルさは、ライバルの登場とともに消えてしまい、残ったのは……

 初代ステップワゴンは、発売の翌年となる1997年には、1カ月平均で約9160台を登録している。先代モデルの1カ月平均登録台数は、前述の3300台だから、3倍近い売れゆきだった。

 ちなみに現時点で1カ月の登録台数が9000台を超える小型/普通車は、ヤリス(ヤリスクロスを除く)やルーミーなど、人気の高い一部のコンパクトカーだけだ。初代ステップワゴンの売れゆきは絶好調であった。

2代目の後期から現在まで続くエアロ仕様の「スパーダ」を投入。この頃にはライバルもFF化による追撃を開始。日産は「セレナハイウェイスター」を設定して大ヒット。王者も追従せざるを得なくなった

 そして初代ステップワゴンには、現行型とは違うシンプルなツール感覚があった。水平基調のボディは、今日のクルマで頻繁に表現されるエモーショナル(情緒的)とは無縁だが、長く使っても飽きのこないデザインだ。運転席に座るとボディの四隅がわかりやすく、前後左右ともに視界も優れていた。バックモニターなどが装着されていなくても、不安なく車庫入れや縦列駐車を行えた。

 この実用性と扱いやすさ、背伸びをしない好感の持てる雰囲気は、今のホンダ車ではN-BOXの標準ボディが最も近いように思える。N-BOXは軽自動車だから、2列シートで乗車定員も4名だが、「これで充分、いや、これが欲しい!」と思わせる感覚はよく似ている。

変革を好むホンダ故の苦悩? 3代目はスポーティ路線へ変更したが、セールス的にはライバルに追い越される結果に。4代目は持ち直したが5代目は再び……と浮き沈みの激しいモデルとなってしまった

 ステップワゴンは、フルモデルチェンジを行う度に豪華さやエアロ仕様のカッコよさを追い求め、本質から外れたのかもしれない。その原点がN-BOXには宿り、高い人気を得ている。新型ステップワゴンは、初代モデルの人気を回復できるだろうか。それとも先代型のように、伸び悩んでしまうのだろうか。

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